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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
24/145

リンゴ

「ここをこう持ってくるっと回して……」

 

 今日はウィルとテッドと一緒にリンゴの収穫を手伝っている。ここで育てているのは地球でもおなじみの普通のリンゴだ。口があってかみついたり叫んだりするリンゴもこの世界にはあるらしい。ちょっと見てみたい。

 子供たちは低い位置の、大人は脚立に乗って高い位置のリンゴを採っている。とはいってもそんなに広い農園ではないので収穫作業はすぐに終わった。リンゴの入った籠を農家のおばさんのところへ持っていく。


「おばさーん。これだけとれたよー」

「あいよー。ってアリシアちゃんはずいぶん力持ちだねぇ」

「えっそうかなー。えへへ」


 まずい。一般的な七歳児の力加減が分からない。テッドとウィルの持ってきた籠にも、私より少ない量のリンゴしか入っていない。冷や汗をかいている私をよそにリンゴはどんどん集められて台車に乗せられていく。選別は別の場所でやるらしい。


「はいよ、これはお駄賃ね」


 一人一つずつリンゴをもらった。品種は何だろう。知識があるだけでよくはわからないけれどやっぱり『ふじ』かな?この世界で改良されることはおそらく無いだろうから。


「向こうの木に登って食べようぜ」とテッドが言った。高い位置の作業が出来無かったことが不満だったらしい。かなり大ぶりの枝に三人並んで座ってリンゴをかじる。しゃくっとした歯ごたえと共にじんわりと果汁が口の中で広がる。少し酸味があるけど甘くておいしい。前世と同じものが食べられるのは非常に幸せだ、と改めて思った。


「アリシアは本当においしそうに食べるね。そんなにリンゴ好き?」


 私が幸せごとリンゴをゆっくり噛みしめていると、ウィルに少し呆れ顔で聞かれた。


「うん甘くて酸っぱくておいしいの。大好き」


 二人はもうすでに食べ終えていて暇そうに足をぶらぶらさせている。

 私は急いでリンゴを食べる。……芯のところぎりぎりまで。食べ終わっても誰も降りることなく、普段見慣れない場所からの景色を楽しんでいた。のどかだな。時折トンボがスイーッと飛んでいく。



「私ね、自分の赤い目があまり好きじゃないんだけれど、リンゴと同じと思ったらそんなに嫌いじゃなくなったよ」

「俺の髪の毛も同じ色だな」

「僕だけ仲間外れ?」

「ウィルはねぇ、あの空とおんなじ色の目なんだよ。リンゴがどこにあっても見守っていてくれるの」


 三人で空を見上げた。高い位置を鳥が飛んでいる。


「でも曇りの日は見えないね」

「曇っていても雲の上の空は青いでしょ?」


 二人は首を傾げている。あれ?もしかしてこの世界では違うのかな。雲が空に張り付いていたりとか、ファンタジーな感じなのかなぁ?でも山の中腹に雲がかかっているのを見たことあるし……。


「もしかして山登りとかしたことない?」


 二人とも声を揃えて「無い」と答えた。流石にこの年齢では標高の高い山に登るのは無理か。遠くの方に山は見えるものの、この辺りは平地と森林が多い。

 …と、そこまで考えて私は自分の体質を思い出した。私に見えているものがこの二人に見えていない可能性は高い。山も見えていないとすれば…。「常識」を探るのって思ったより難しいな。


「魔法が使えたら空も飛べるのになー」

「そうだねー。僕も飛べるようになりたい」


 私がいろいろ考えていると、テッドとウィルがのんびりした声で言う。うん、魔法が使えるようになったら一番したいことは、やっぱり空を飛ぶことだよね。


「明日、師匠にもう一度聞いてみるか―――」



「お前らにはまだ早い」


 次の日、師匠の言葉に、三人そろってうなだれた。最近、道場にはエルンストもなぜかいて、稽古や授業の様子を見ている。そのエルンストが珍しく口を挟んできた。


「そんなこと言って、ロベルトは教えるための免許を持っていないだけなんですよ」


 衝撃の事実。魔法教えるのって専用の免許いるんだね。師匠はそんなこと一言も言ってなかった。免許もっていないから時間稼ぎしていたみたいだ。三人の視線がじとーっと師匠を貫く。


「師匠は馬鹿だから免許取れなかったんですか?」


 ウィルがさり気にひどいことを言った。師匠は「なっ」と言ったきり口をパクパクさせている。エルンストが苦笑しながら代わりに事情を話してくれた。


「ロベルトは、ダークエルフになったときに免許剥奪されたんです……僕なら教えてあげることができますよ」

「「「先生、お願いしますっっ」」」


 三人の元気な声が道場に響き渡った。


ウィルは腹黒です。

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