スノードロップ
「おーアリシアー。おはよー。今日も寒いなー」
広場に差し掛かるとテッドに会った。いつも一番遅く道場に来るのにかち合ううなんて珍しい。ふと、赤い髪の毛にうっすら雪が積もっているのに気付いた。
「おはよう、テッド。ずっと外にいたの?頭に雪積もっているよ?」
指をさして指摘すると、水浴びした犬みたいに頭をぶるぶると振って落とす。
「ちょっと探し物してた」
「探し物?手伝おうか?」
「いい」
短く答えるとテッドは道場へ向かい始めた。私も後について行く。
むう、気になるな。無理して風邪をひかなければ良いけど……。
次の日の朝もテッドは何かを探していた。聞いても答えてはくれない。もう少しで春だというのに雪は静かに降り続いている。
その次の日も。
心配になって師匠とウィルに何か知らないか聞いてみた。
「いや……特に何にも聞いてないよな?」
「うん。聞いてないよ」
二人とも誤魔化しながら目をそらす。知っているんだね。私だけ仲間外れ。不満を顔に出さないようにして私は「そうなんだ…」と納得する素振りを見せた。
翌朝、心配していた私の方が熱を出して寝込んでしまった。必然的に道場はお休み。こたつは断じて関係ない。
「めずらしいのう。ほれ、薬じゃ」
苦いばば様特製の薬を飲んで布団にもぐりこむ。体がだるく関節があちこち痛い。熱が出ている時はいろいろと不安になって悪い考えが頭の中を駆け巡る。寝ている間にドラゴンとか魔王になっているんじゃないかとか、知らないうちに自分が世界を滅ぼしているんじゃないかとか。実はみんな私のことを厄介だと思っているかもいれない、とか。
……さっさと殺された方がみんなのためになるんじゃないか……とか。
視界が涙でゆがむ。目を閉じたら端から涙がこぼれ落ちた。だめだ。こんなに不安定な感情じゃ良いことも悪い方へ向いていくよ。ウィルとテッドを見て頑張ろうって決めたのに。どんどん膨れ上がる悪い感情を無理やり押さえつけて、そのまま意識を沈めた。
二日ほど寝込んで、熱が引いた日の翌朝。家を出て広場に着くと、テッドを見つけた。熱を出した時の考えが頭を掠める。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて。いつも通りに声を懸けようとしたその時。
「おはよー。アリシア、もう大丈夫か?」
「うん」
「手、出して」
テッドから声を懸けてきた。今日も頭に雪が積もっている。
言われた通りに手を出すと。
「これを探していたんだ」
真っ白くて可愛らしい花を渡された。六枚の花弁で、雪みたいに白くて。
「スノードロップって言うんだ。時々雪に混じって召喚されて、上から降ってくる。雪が消えてもこの花は消えない。花言葉は『希望』だって」
希望、と呟いてみた。テッドは照れを隠そうと「へへっ」と笑っている。私は「どうして?」と聞いてみた。
「アリシアは冬が苦手みたいだから。少しでも、苦手がこくふく?できるようにって。何かないかって師匠に訊いた。来年は一緒に探そうぜ」
春が近いとは言えまだまだ寒い雪の中を探してくれていたんだと思うと、熱が出ていた時とは違う涙が、じわじわと滲んでくる。魔王になりたくない理由がまた一つ増えた。
「ありがと」
泣きながら笑ってしまった。花を大事に抱えながら、涙をぬぐう。
ほんのり暖かい火が胸に灯った。
話を決めてから花を検索して決めました。スノードロップの他の花言葉もぴったり過ぎて鳥肌が立ちました。




