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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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冬が来た

 本格的な冬がやってきた。去年の今頃はほとんど家の中に閉じこもっていたけれど、今年はそうもいかない。道場へ行かなくてはならない。毎朝毎朝。帽子、手袋、その他厳重な防寒対策をして。


「アリシア。行っといで」


 ばば様は容赦なく私を追い出…もとい、見送った。温かい家の中で。

 外の空気はきんっと張りつめ、肌を刺すように冷たかった。

 昨夜から降り始めた雪は夜が明けても止まず、地面を歩くとざっざと音がする程度の雪が積もっている。


 道場の中も冷えている。建物の中なのに息が白い。今日は勉強の日。体を動かせる稽古だったらまだ良かったんだけど。防寒具が脱げないよ。


「師匠、暖房とかないんですか?」

「会合でもない限り、使うのは俺たちだけだからなあ。申請はしてみるが……」

「あれ、ここって師匠の道場じゃなかったんですか?」

「違う違う。ここは集会所だ」


 知らなかったよ。ずっと勘違いしてた。

 ……どっちにしろ今日は寒いままってことだね。厚着したまま、あまり動かないようにしていよう。

 ウィルとテッドは普通に上着を脱いでいる。こんなに寒いのに。子供は風の子とはよく言ったものだね。

 あ、あれか。ドラゴンは爬虫類か。変温動物か。それじゃ仕方ないよね。……思考が何だかおかしい方向に行っている気がする。そんなこと考えていたらドラゴン化も早まってしまうかもしれない。嫌だ。早く家に帰りたい。


 

 暖かい家に帰って、温かいご飯を食べて、温かいこたつに入って、うたた寝する。そう、ここの家には何とこたつがあるのだ!じじ様は本当にいい仕事をしている。

 横になって肩まで潜る。うむ、極楽極楽。


「アリシア、こたつで寝ると風邪ひくかもしれん。食べてすぐ寝ると太るかも……」


 ばば様の小言が段々子守唄に聞こえる。うん、ごめんちょっとだけだから……


 夢を見た。まるで映画を見ているような視点で。

 舞台は中世ヨーロッパ風のお城。今と全く変わらない師匠と、二十歳前後まで成長したウィルとテッドが走っている。

 ウィルは魔法使い、テッドは戦士の様な格好をしていて二人は結構なイケメンに育っていた。城の中は薄暗く、時折窓からは稲光が射したりしておどろおどろしい感じがする。

 見事な連携で行く手を阻むモンスターを蹴散らして、三人は玉座の間へと続く大きな扉を開ける。ぎぃーっと開いたその先には……


「アリシアーっ」

「間に合ったかっ!?」

「まだ魔王になってないよなっ?」


 玉座のそばに誰かがいる。椅子の背もたれに手を懸けている、長い黒髪の後ろ姿。上から垂れ下がっている装飾で、影になっていてはっきりとは見えない。

 息をのむ三人。


「ごめん、みんな、少しだけ遅かったみたい」


 ゆっくりと後ろを振り向いたそれは……


 巨大なヒキガエルみたいににでっぷりと醜く太った私だった。


「っいやぁぁぁあっ」


 目が覚め起き上がろうとしてこたつのヘリに顎をぶつけた。痛い。幸い、舌は噛まなかったけれど。


「何やっとるんじゃ……」


 ばば様の呆れた声が聞こえた。魔王になりたくない。特にあんな……。そこまで考えて、私は頭をプルプルと振るった。

 ごめんなさい。こたつではもう寝ません。食べた後も直ぐ寝ないようにします。


最終兵器こたつ。

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