秋祭り
「ばば様これくらいでいいかな?
「ああ売れ残ると残念じゃからのう。そのくらいなら大丈夫じゃろう」
村で売るための花を籠に入れて準備する。お小遣い程度の利益を見込んでいるので数はそんなに多くない。支度が整うとばば様と一緒に家を出た。
今日は秋祭り。広場へ着くといつもとは桁外れの賑わいで人がごった返していた。この村にこんなに人がいたのかと思うくらい。あちこちに飾りつけもしてあって、まるで別の場所にいるみたいだ。
「お花、いかがですか?」
「あれ、まあ、アリシアちゃん。ばば様の手伝いかい。えらいえらい。それじゃ一つくださいな」
「はい。ありがとうございます」
広場の片隅で邪魔にならないように花を売り始める。ばば様も人が通るたびに声を懸けて、あっという間に売り切れてしまった。
「ばば様、この後どうする?」
「茶飲み友達のところへ行くとするかの。アリシアは?」
「私、いろいろ見たい」
ばば様と別れて屋台を見て回る。普段はあまり見ないような、アクセサリーや小物なんかも売っていた。
お小遣いはそんなに多くないから、よく吟味して使わなくては。そう思っていろいろな店を見ていると、一つの鏡が目に入った。少し古びた意匠で鏡の周りに草花の浮彫の細工が施してある。お店の人は他の人を接客しているので、待っている間、引き付けられるようにしてその鏡を覗いていると、
「だめだよ。そんなに覗いては、魅入られてしまうよ」
と声を懸けてくる人がいた。その人は鏡をパタンと伏せてニッコリと笑う。見慣れない人だ。ばば様の知り合いだろうか。名前を尋ねようと口を開くと、背後から、
「アリシア」
とウィルの声。「あのね、今ね」と振り向くとその人はどこにもいなくなっていた。
「どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」
「向こうでイベントがあるんだって。見に行こう?」
「うん!」
収穫の終わった田畑に特設ステージが設置してあった。と言ってもテーブルと観客席と横断幕位のもので、幕には大食い競争と書いてあった。あ、結婚式無くなったんだ。やっぱり無理だったんだね。
「師匠が出るみたいだよ、一緒に応援しようかと思って」
ウィルと席に着こうとすると、この前収穫の時に話しかけてきたおじさんに声を懸けられた。
「ああアリシアちゃん。ちょっと困っているんだけれど今いいかな?大食い競争の参加者が足りなくてね。ぜひ出場してほしいんだ」
「えっ出るの大人ばかりでしょう?アリシアには無理ですよ」
「無理しなくていいからね。出てくれるだけでいいんだ」
ウィルが擁護してくれるもおじさんに押し切られてしまっていた。これも人助けになるかな、と少し考えて「出ます」と返事をした。
「助かるよ。あ、参加者はこっちだよ」
「アリシア、無理しないでね」
ウィルが心配そうな顔で見送ってくれる。ステージの横に行くと師匠ともう一人の参加者がいた。
「なんだ、お前も出るのか」
成り行きで、と説明していると司会者の声が響き渡る。
「おまたせしましたっ!秋祭りメインイベントぉ大食い競争を開催いたしますっ」
出場者の紹介とルールの説明がされる。景品は一年間有効のお店の共通割引券。なんだかお腹が空いてきた。
「それでは、スタートッッ」
出されたのはパンケーキだった。次から次へ補充され積み重なっていくお皿。「アリシア頑張れー」とウィルと、いつの間にか来ていたテッドの声援。
開始して暫く経ってから一人目の人がリタイアした。私の手は止まらない。
あれ、おかしいな。なんで私こんなに食べれるの?
「おおっすごい、すごいぞアリシアちゃんっ。小さな体のどこにそんなに入るのかぁっ。その食欲たるやまーさーにードラゴン級!」
司会者の言葉に咽る。ドラゴン。まずい、まずいよね?ドラゴン化もしかして進んでる?
手が止まり涙目になった私を横目に、師匠はなおも食べ続けている。エルフって食が細いってどこかで聞いたことがあるんだけどなぁ。司会者が声を懸けてきたので迷わずリタイアをした。
「優勝者はロリコンダークエルフっ、ロベルトぉぉぉっっ」
「誰がロリコンだ」
司会者は師匠にはたかれた。
私、大丈夫かな?
大食い競争で何を食べさせようか迷いました。よいこはまねしないでね。




