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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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一日一善

 ペットの猫を探したり、店番を少しの間頼まれたり、買い忘れたものを買ってきたり、泣いている子をあやしたり。六歳の子供でもできることってそんなにない。それでも一日一善をしようと、困っている人がいないかと御用聞きをしたり、村の中を歩き回ったりした。稽古や勉強、調合の合間のわずかな時間で。

 おかげで村のみんなに顔を覚えてもらった。私が村に来るようになって、ばば様も森からよく出るようになり茶飲み友達ができたと言っていた。良い傾向だと思う。

 そういえば年寄りばかりかと思ったけれど若い人もいるんだね、この村。人間以外の種族もちらほらといるみたい。みんな温厚な人たちばかりだ。狭い村だし、住みにくくなったら嫌だものね。

 今日はなかなか困っている人が見つからなかった。広場から田んぼや畑のある方へと向かう。開けた場所に出ると空が高く感じられる。もうすっかり秋だ。


 田んぼで稲刈りをしている人が何人かいたので、一番手前の人に声を懸けることにしてみた。麦わら帽子をかぶって日焼けをしていて首から手拭いをかけている。


「すみませーん。何か手伝えることありませんかー?」

「あー?」


 屈んだ状態から腰を上げたその人は、師匠だった。


「師匠、何やってんですか」

「見ての通り。稲刈りだ」


 右手に鎌を持って、左手に稲穂の束を持っている。違和感全くなく非常に馴染んでいる。……いや、偏見の目で見るのはやめよう。エルフが高貴な生き物だと誰が決めた。


「麦わら帽子似合ってますね」

「ああ、わかっている。イイ男は何でも似合うって言いたいんだろ?」

「ウン、ソウデスネー」

「なんだ、なんか文句あるのか?」

「イイエ、ナンニモー」


 師匠とやいやい言っていると、横から声がかかった。


「ロベルト―、何サボってんだー?ってアリシアちゃん?」

「こんにちは。何か困っていることありませんか?」


 一緒に作業をしていたおじさんがこっちに来た。少しだけ子供っぽい言葉づかいにする。


「困っていること……あ、あったあった」

「なんですかっ?」

「ロベルトの嫁さん探し」

「「はぁっっ!?」」


 思いもよらぬ話題に私と師匠は素っ頓狂な声を上げた。

うむむ、お手伝い程度のつもりで声を懸けたのにえらい難題を引っ張り出してしまった。受けるかどうかは別として理由を詳しく来てみる。

 毎年この村では小規模ながら祭りが開かれる。所謂収穫祭と言ったところか。メインのイベントを会合で話し合っているうちに結婚式はどうだという話になった。この前モンスターも倒したし結婚適齢期だし結構働き者だし子供の面倒はよく見るし、で、新郎はロベルトに決定、となってしまったそうだ。

 よくある田舎の年輩の方々のお節介みたいな?……花嫁候補もいないのによく決まったな。


「人のいないところでどうして」


 師匠は頭を抱えて呆然としている。あ、ここで一日一善出来ちゃうかな?よし、今日は師匠を助けようと、思っては見たものの良い案が思いつかず。話はどんどんまとまりそうになっている。やばい、何とかしなくては。


「師匠は駄目です」


 私はおじさんに向かって言った。つい、言ってしまった。師匠は私の声に顔を上げる。言い出したものの良い理由がすぐには思いつかない私は、言葉がしどろもどろになっていた。


「師匠はその、えーと、ばば様一筋だし、稽古も勉強も教わらなくちゃならないし、肝心なところでダメダメだったりするし、結構いい加減なところもあるし、ちょっと変態っぽいところもあるし、かっこよさはじじ様の次だし、私の秘密を知っているし、相談に乗ってもらわなくちゃならないし、だから私には師匠がいないとダメなんです。ってあれ?」


 指折り数えてダメな理由を言っていたら、いつの間にかずれて行ってしまった。おじさんはうんうんと頷いて、


「わかったロベルトにはアリシアちゃんがいるんだもんな?」


 と、爆弾発言がでてきた。「えっ、ちがう」と否定してもおじさんに声は届かず。


「祭りには別のイベントを考えるよう、みんなに伝えておくからな」


 さっさと仕事に戻ってしまった。おじさんを見送る私の背後から、冷気が流れてきた。振り返るのが怖い。


「アーリーシーアー?」

「ちがっ、私、師匠を助けようと思って。一日一善で……」

「ああ助かったよ。い・ま・だ・け・は、な」


 後日、師匠にロリコン疑惑が懸ったのは、言うまでもない。

「ロベルトの嫁さん探し」からおじさんが勝手に動き出しました。私は悪くない。

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