文化祭準備
クラスの出し物はポーションを売るお店となった。様々な味やフレーバーを付けた、ちょっとした栄養ドリンクの様なものだ。クラスの全員が携われるように話し合いで調整し、当日の店番グループ、ポーション作成グループ、屋台や店の飾りグループ、許可をとったり経理をしたりの事務グループに分かれる。私は基本のポーションを作ることを任された。
「ご主人様ー。攻撃力アップの効果が付いてしまってますよー」
「ええっ、普通に作っているのにどうして?」
「あ、こっちは魔法防御アップですー。ランダム効果?」
「どうしよう。普通のポーションじゃないと売り物にならないわよね?」
同じポーショングループの子に聞いてみた。クラスメートなのに敬語で話されるのが少しだけひっかかるがコミュニケーションが取れているので気にしないことにしている。
「お祭りだからくじ引きみたいで楽しいと思いますけどね。新たな許可が必要となるかもしれないので一応事務グループと委員長に聞いてきます」
「お願いします」
レモン、ミント、茶葉やベリー系……。私が作ったものに香りや味を付ける子たちはとても楽しそうだ。対して基本を作るのは私一人。作業の手伝いをしていた子も離れ、ポツンと一人で座っている。エリーゼやコルネリアは別のグループでここにはいない。魔法薬という事で、教室では無く魔法棟で調合を行っているのだ。リッカは品物の鑑定の為に傍に居るが、コハクは調合の場に居ない方が良いと思ったのでエリーゼについて行った。
「あー王女がサボってる」
「自分が魔王になるかもしれないのによく学校なんて通えるよね」
「ウィル先輩も可哀想。纏わり付かれていい迷惑……」
暇だなー、私もあの子たちも。目が合ったのでにっこり笑いかけたら何故か彼女たちの逆鱗に触れてしまったみたい。……竜は私の方なのに、なーんて言ってる場合じゃなかった。
「何、今の?」
「うちら、見下しているの?」
「余裕の笑みってわけ?」
リッカが不穏な空気を察して傍に寄ってくる。三人のうちの一人の女の子が作りかけのポーションを持ってこちらに寄ってきた。私にかけるつもりなのだろうか。
「おい、止めろ。王女は何もしていないだろ?」
中には止めてくれる子もいるのだが、彼女は歩みを止めずにつかつかと私の方へきて瓶のふたを開け、思い切り中身を振り撒いた。
「おいっ!何して―――」
彼女はずぶぬれになった私を思い描いたのだろうが、瓶から飛び出た液体は空中で静止し、ガラスで出来たアート作品のように形をとどめている。重力と時間の魔法を瞬時に使ったのだがこうなると魔法と言うよりはもはや超能力だ。呆気にとられて息をすることすら忘れている彼女に対して、私は怖がらせないように笑顔で静かに語りかける。
「分かっていないみたいだから一応言っておくわね?被害が私だけなら黙っておくつもりだったけれど、これは売り物になるポーションで、私だけではなくて皆で準備している物なのよ」
彼女の手から空の瓶を取って、空中で止まっている液体を注意深く瓶の中へと戻す。濁ることなく光を揺らめかせているポーションを見て、私はほっとした。商品価値は落ちていないだろう。
「過失によってならば仕方がないけれど、故意に私の周りに被害を与えるのならば……敵と見なすわよ?」
「手……手が滑っただけです。ごめんなさい」
「そう、ならば仕方がないわね。気を付けて」
そう言って私はポーションを彼女の手に戻しながらにっこり笑ったのだが……ひっと小さな悲鳴を上げてポーションを落としかけてしまう。私はもう一度自分の手に持つしかなかった。凍りついてしまった空気を溶かすようにリッカが私を茶化す。
「ご主人様ー。もう魔王の風格バリバリですよー」
「ええっ?そんなつもりは……あ、あの怖がらせていたらごめんね?本当にごめんなさい」
おたおたしながら謝ると彼女は泣き笑いで友達の所に戻って行った。あのままポーションを頭から被っていた方が良かっただろうか。
委員長と事務グループのエリーゼ、それから魔法薬を扱うという事でクレイグ先生がやってきた。クレイグ先生が私の作ったポーションに鑑定魔法を次々と掛けていく。先ほど鑑定を掛けていたリッカが話かけながら情報に差異が無いかすり合わせている。
「取り敢えず弱体化などの効果が無いようなので問題は無いと思いますが……」
「買った人が転売して市場に大量に出回らなければ大丈夫だそうです。元々学生の作ったものという事で品質の安定しないものを想定して許可を取っているので、効果が付属する事には何の問題もないと言われました」
普段おっとりしたエリーゼが事務仕事をしているのはなんだか新鮮だ。先生や委員長に報告する姿が秘書のように見える。文化祭に出すのは問題なしと言われてほっとした。これでみんなで用意したものが無駄にならなくて済む。安心して作ったものをフレーバーや味を付ける子たちの方に渡した。
クレイグ先生が興味深そうに私を見てきた。思い通りに授業を進ませない問題児なのに、厭う様子を全く見せない。この学校の先生たちって本当に人間が出来ているな。
「何か著しい成長をするような経験をしましたか?
「魔力を限界まで引き出した事くらいしか思いつかないのですが……」
「ああ、銀竜家の一件ですか。そうですね、そう言った事例はいくつも耳にします。死ぬような思いをした後に飛躍的に能力が伸びることはよくあることです。ただ貴女の場合は振り幅がどれくらいか予想もつかないので十分に注意してください」
「はい、肝に銘じておきます」
さっき魔法を使ったことは黙っていよう。特に問題は無かったし……と思ったら、クレイグ先生は何やら部屋の中を見渡している。
「先ほど、魔法を使った形跡が有りますね。ポーションづくりには必要ないはずなのですが」
おおう、ばれてしまった。すーっと、先生から目を反らす。師匠の追及ほど怖くは無いのだが、クラスメートを怖がらせてしまったことを考えると少し後ろめたいものがある。チクチクと視線を感じながら、言い訳を必死になって考えた。
「零しそうになったポーションを王女が魔法で止めてくれたんですよ」
見ていたクラスメートが助け舟を出してくれる。私は先生の方を向いてこくこくと頷き、同意を示した。せっかく楽しい文化祭なのに参加できない子が出てくるのは寂しいもの。
「そういう事なら不問にしておきましょう。いいですか?基本は無許可の魔法を禁止しています。ただし、身を守るための物はその限りではない。裏を返せば、魔法が使われるという事は身の危険があったっと言う事」
そう言ってポーションを掛けようとした女の子の方を睨みつけている先生。もしかして全部お見通し?どこかに監視カメラの様なものでもあるのだろうか。きょろきょろあたりを見回していたら、睨みつけていた表情のまま今度は私を見てきた。
「特にあなたのような身分の高い者であれば相手が罰せられる場合もあるので気を付けて下さい」
「はい……」
準備期間が短いので心配だったが、作業はその後滞りなく進む。屋台は木製の骨組みに紫のペイントや布で飾りつけされ、いかにも魔法薬を売っている感じのミステリアスな雰囲気を醸しつつ可愛い感じのお店に仕上がった。クラスの女の子たちも歓声を上げている。それなのに。
「ドラゴン印のポーション屋……」
「店名もう少し何とかならなかったのかな」
屋台グループ以外の子たちが店名を見た途端に不満を漏らしている。店名の横には黒い影絵のようなドラゴンに赤い瞳が入っている。……私一人のお店ではないんだからちょっとこれはありえないだろう。
「魔王印でなくて良かったですねー」
「リッカ、突っ込むところはそこじゃないと思う。お店の雰囲気に合っていないという事でしょう?エルンストが釣れそうだけど」
「分かりやすくていいと思うけどね」
屋台グループだったコルネリアが言った。何を売るお店か分かりやすく、克つ自分のクラスだとわかりやすくした結果と―――
「リサーチした結果、アリシアの密かなファンが結構多いことに目を付けてこうなったのよ」
エリーゼが書類を見ながら言った。いつの間にそんなリサーチ取ったんだ。クールな外見と鈍くさい中身のギャップが良いとか、身分も能力も高いのに驕ったところが無くて気さくだとか、転びそうになって誰も見ていないか辺りを見回しているのを見かけたとか……。崇拝とか恋愛対象ではなくて、放っておけない子を見守る生温かい目。見せてもらった書類からそんな様子がにじみ出ていた。
「男女問わず、『一日一善』続けているのでしょう?」
「自業自得だよね」
得ではない、決して。描き直して、なんて言えるはずもなくそのまま文化祭当日を迎えることになった。
敵と見なすわよのセリフがアリシアらしくなくて納得いきません。躓いて更新できなくなるのは嫌なのでこのまま上げますが、良い言葉が思いついたら訂正します。




