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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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学校にて

「本当にあなたって人は……」


 目の前にはため息をつくヒルデガルド先生。顔立ちが綺麗なのでそんな行動もいちいち様になっているなんて思ったら失礼だろうか。場所は特別教室の準備室で私たちの他には誰もいない。昼休みに呼び出されて第一声がそれだったので、怒られるのかと思ってびくびくしていると先生の表情はふと和らいだ。


「今までにも卒業することなくいなくなった銀竜家の生徒を何人も見てきました。家族に問い合わせても死んだとか会える状態ではないと言う返事ばかりで、どうしようもなかったのですが」


 責任感の強い先生だから、教え子がある日突然いなくなることに何度も歯がゆい思いをしてきたのだろう。特に長い休み明けに知らされることが多く、助け出そうにもその子はもう……いない。いじめと違って、予兆を見つけることもできないままに事態が展開、収束していく。『家庭の事情』なのだから当たり前と言えば当たり前だが、ずっと気にしていたらしい。ヒルデガルド先生は深々と頭を下げてきた。


「有難うございます。くわしい状況が分かったばかりではなく、あなたのお蔭でこれから犠牲者がでなくなると聞きました」

「いえ、たまたま結果が良くなっただけで私はほとんど何もしていないのです。それに、こちらこそ有難うございました。先生の証言と立ち回りが無かったら一週間も無断欠席になるところでした」


 私も頭を下げる。……何だか、びくびくして損をした。無茶をした事とか怒られるかと思っていたのに感謝されるなんて思いもしなかった。顔を上げると先生の目の端がきらりと光っている。生徒の為に泣ける、とても良い先生だ。


「試験の時は本当にごめんなさい。あれで貴女が入学していなかったらこの状況はなかったのよね。本当に軽率なことをしたわ」

「気にしないでください。何一つ大した事なんてしていないのですから」


 大げさなほどに手を振って否定した。考えてみればほとんどエルンストが解決したところにひょっこり現れて魔力上げただけだもの。本当に大したことをしていないな私。


「さてと、その話はここまでにして……休みの間の座学の授業をここにまとめておきました。課題になっているので今週中に提出してください。魔法の実技の方は授業内でクレイグ先生が見てくださるそうなので、時間を別にとるという事はしないそうです。頑張って追いついて下さいね」


 にっこり笑った先生の手には紙の束が……。休んだ生徒に対してここまでしてくれる先生はそういない。これは決していやがらせではない筈なのに、先生がやけに嬉しそうに見えるのはきっと気のせいだ。


「優秀なあなたの事ですもの、きっと今週いっぱいどころか明日、明後日にでも提出できてしまうのでしょうね」


 うぐぅ、だ、大丈夫。きっと期待されているんだよ、うん。と思いながらも何だか冷や汗が出ているのは気のせいではない。


「では、失礼いたします」


 部屋を出て、リッカとコハクと一緒に早足で教室に戻る。戻る途中で私が躓くように足を出されたり、上から何か落ちてきたりもしていたがひらりと華麗に避ける。この所は部屋の中でストレッチと筋トレしかできていないが、道場で師匠に武術を教わっていた賜物だろう。早くしないとお昼が食べられない。


「アリシア、バゲットサンドとドリンク買っておいたよ」

「有難う、助かる」


 コルネリアから学生証と一緒にランチを受け取って食べる。硬めのパンで噛み応えがあって結構お腹に貯まる。リッカはエリーゼからおやつのクッキーをもらっている。ふと、横に置いた紙の束をエリーゼが覗き込んだ。


「これは、先週の授業内容ね。私のノートを見せようかと思ったけれどこちらの方がよほどきれいにまとめてあるわ」

「課題になっていて提出しなければならないの。放課後は早めに部屋に帰ることにするね」


 エリーゼとコルネリアが顔を見合わせる。え、どうかしたのだろうか?


「アリシア、放課後は文化祭の準備だよ」

「物資の調達は金竜家(うち)で取り仕切るから買い出しは無いにしても、クラスの出し物を何にするか先週も話し合ったのになかなか決まらなかったの」


 なんと私が休んでいた間に文化祭の準備が始まっていたらしい。団結力を微塵も感じられないこの学校、このクラスに於いてそんなことが可能なのだろうか。


「出し物ってお店か舞台だよね?」


 知識の食い違いがあるといけないので小声で二人に聞いた。研究や作品の発表となると、またやることが変わってくる。王都にいる子供は入学する前に一度は遊びに来るのが普通らしい。だから一年生でもおおよその雰囲気は分かっているそうだ。二人は頷いた。


「この教室だと出し物はしにくいでしょう?場所取りとかはないの?」

「お店を出すとしたら屋台なのよ。会議室なんかの使いやすい場所はほとんどもう埋まっているらしくて、後は……」

「舞台で演劇なんだって。そっちは稽古に時間がかかるし不人気なんだってさ。ちなみに生徒会も舞台をやるらしいよ」


そんなことを話している間に昼休みが終わってしまった。


 そして、放課後。


「生徒会長も一緒に休んだって聞いたよ」

「えーまじか」

「ダークエルフが育てたんでしょう?なんかねー」

「ねー変に勘ぐるなって方がおかしいよね」


 話し合いと言う名の雑談があちこちで行われ、そして文化祭に関係のない話まで聞こえてくる。夏休みが明けてからいろいろといじめまがいな事があるのは、一年生の耳にも情報が入ってくるようになった事や私など恐れるに足らずと判断したからだろう。ひそひそしながらも私の耳に聞こえるように一生懸命言っているのが、なんか可愛い。


「アリシア、大丈夫?」


 コルネリアが心配して声を掛けてくるが、私の口元はにやにやゆるんでしまっている。もしもクラスの中に銀竜家の子がいたらその子を救えたという事だ。他愛ないおしゃべりができるのは平和な証拠。


「え、ああごめん。みんな可愛いなって思ってたの。……それより、委員長の方が泣きそうなんだけど」

「毎日こんな調子だったんだよ。意見を求めても誰も挙手せずにおしゃべりばかりでさ」


 教壇に学級委員長と副委員長が立っていてしきりに「意見が有れば挙手して発表してください」と言っている。具体的に何を求めているのかが全く分からない状態で挙手のしようが無い。

 仕方がない、目立つのは本意ではないが私は手を上げて意見を述べた。


「取り敢えず、舞台かお店かだけでも多数決で決めたらどうでしょうか?」


「うわー出たよお節介」

「私が何とかしなくちゃって思ってるんじゃない?ヒロイン気取りでさ」

「だったら何で王女が委員長やんねーのかって話だよな」


 決める時に二人が立候補し私はしなかった、ただそれだけの話だ。早めに切り上げて課題に取り組むためにも意見をどんどん出そう。それに……あまり決まらないようだったら先生や生徒会長が自ら乗り込んでくるかもしれない。ただでさえ迷惑をかけている二人なのに、そんな事態は絶対に避けたいのだ。


 多数決でお店に決まりそこから先は私が挙手せずともあちこちで手が上がって、話し合いはスムーズにまとまっていく。……どういう事だろう?なぜ私が出てきた途端に解決する?陰口をたたいていた人たちも不思議そうに周りを見回している。


「おい、なんで手ぇ上げて発表なんかしてんだ?」

「知り合いが銀竜家に捕まっていたんだ。王女が救ってくれたらしい。こんなんで恩返しになるか分からないけどな」

「私は知り合いの知り合い位なんだけどね。確実に死ぬ実験を受けなくて済んだって。王女のお蔭だって」


 ……そういうことか。

 実際に捕まっていたのを助けたのはエルンストで、これから被害者を出さないように約束を取り付けたのは私なのだが、細かいところまでは伝わらないらしい。じわじわと出てくる自分がした事の影響力に、良い方に転がってよかったと思うのが半分、大したことをしていないのに少しだけ怖いのがもう半分。

 エリーゼとコルネリアはウィルやコハクから話を聞いたらしい。二人とも何も言わないでくれるのが有りがたかった。

 話し合いは多数決も交えながらその日のうちにすべて決まった。

 寮に戻って課題を必死でこなし週末を待たずして提出できた。


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