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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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ウィルの夏休み3

「エレインの弓はすごいな」

「昨日、テッドと手合せしていたの見たから、大体動きが分かる」


 エルフの里へ向かっている途中、森の中で襲いかかってきたのは動きの素早いウサギ型のモンスター。弱いものに混じって数匹、回復や強化をしながら攻撃してくる強いものがいた。


 前衛のテッドとウィルの動きを邪魔することもなく、しかし確実に敵を仕留めていく姿は師匠を思い起こさせた。もしかしたら弓の腕だけならば格段にエレインの方が上かもしれない。

 反対にカシムとタニアは全く役に立たなかった。使ってみせる魔法もしょぼい上に体力がないのか、少し歩いては休憩をせがむ始末。動きは悪いようには見えないのに彼らの行動にはちぐはぐな所があった。まるで強くなることを恐れているかのような……。


「冒険者にはランクがあって、最低はE。D、C、B、Aと上がって行って最高がSランクなんだ。エレインがS、俺がA。カシムとタニアはE」

「よくそんなに差があるのにパーティ組んだね」

「いや、最初は同じEランクだったんだ。このメンバーで。このシステムは強さで測るんじゃなくて、問題を解決できる能力があるかどうかで判断されるんだ。そうじゃないとモンスターを大量殺戮した者勝ちってことになるからな。細かい仕組みは分からないけれど」


 テッドは首からぶら下げているカードを見せながら説明する。学校で使っている学生証によく似ていて、埋め込まれた魔石にいろいろ登録されるらしい。ステータスや倒したモンスター、使える魔法等。自分やアリシアが登録したら数値はどのようになるのだろうと思いながらテッドのカードを見る。


 それにしても、共に行動してこうも差が付くのかとウィルは驚いた。……そもそも一年と少しでAランクまで上がれるほどそのシステムは温いものなのか。テッドの能力を低く見るつもりはないが、それにしても早すぎないか。ウィルがそう言うとテッドは頷いた。低いランクへの依頼だと思って受けたものがふたを開けてみれば戦闘重視の高ランク、最近は情報収集をするスタッフが減ってそんな事が頻繁にあることらしい。

 それに備えて余計に普段の稽古を重視するようになったそうだ。

 

「ランク上げに強さは関係ないとは言え、いざと言う時の為に訓練は必要だろ?だから空いた時間に先端を木片や布でをくるんだ矢を使って、エレインにおれを弓で射るように頼んだ。俺は飛んできた矢を打ち落とす練習で、エレインは射る練習だ。それで二人の腕は上がったんだけど、魔法の知識はからっきしだから……」


 テッドはカシムとタニアを見た。本人たちにやる気があっても教えるものがいないのでは、武術と違って鍛えようがない。そして今の二人にはそのやる気さえ無いように思える。

 魔法が使えなかったことからテッドは魔法についての授業を受けなかった。知識については皆無に等しく、他人が使っているのを見てもどれだけ強いか弱いかなんてものが全く分からないらしい。


「ギルドに行って登録したもののEランクだと一人で冒険する許可が下りないんだ。年齢の低さがネックで誰もパーティを組んでくれなくて、声を掛けてくれたのがこの三人でさ。だから……」

「恩義を感じているから解散することは出来ない?」


 テッドはこくんと頷いた。テッドらしいと言えばテッドらしい。一年と少しでそこまでのし上がってしまった二人には高ランクの冒険者から誘いがかかっているがその時にもめるのが残る二人の扱いだ。

 冒険者なんて気楽なものかと思ったらどうやらそうでもないらしい。命がかかってくる分、人間関係がかなり重要となってくるようだ。

 そういう事なら少しだけ協力しようと申し出た。ただ、ウィルも教えるための免許を持ってはいないのでアドバイスをする程度だといったが、テッドはそれでも仲間の為になれるならと喜んだ。


「カシム、君は神殿で魔法を教わったのか?」

「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」


 取り敢えずは話を聞こうと野営の準備を手伝いながら声を掛けた。初対面で脅しをかけたせいで警戒されるかと思ったが、カシムは厭うことなく質問に答える。


「普段の訓練はどのようにしている?」

「訓練……と言っても誰かがケガをしなければ治療が出来ないからな。自分を傷つけてまで修行する気にはなれない」

「他の魔法は使えないのか?」

「仲間でないあんたに教える必要はないな。それが普通だろ?他の冒険者に聞いてもみんなそうだ。……ランクの差を気にしているんならテッドやエレインの方がおかしいんだよ。2,3年冒険者やってやっとランク一つ上がるってのが普通なんだからな」


 普通が分からない。今までウィルやテッドの人生に関わってきたのがとんでもない人たちばかりだからだろう。それから、冒険者と言うのは高等学校にも行けず、定職に就くことが出来なかったり、就けても周りについて行けず落ちぶれた先になるものなんだとカシムに言われて初めて知った。他にも冒険らしい冒険が出来るのは一握りで、今回の様な傭兵仕事や雑用のような仕事がほとんどだと愚痴も聞いた。

 魔法について助言するつもりが、知らない世界を垣間見ることで引き込まれて話を終えてしまった。他に使える魔法を教えてもらえなければ確かに治癒だけで訓練することは出来ないのだが。


 次にタニアに話を聞くことにした。


「君は普段どんな稽古をしているんだ?魔法は誰に教わった?」

「ふふっ、私の事が知りたいのね?でも、だめ。魔法使いが手の内をさらすのは命取りになることが多いのよ。あなたがテッドのパーティに入ればよかったのに。そうすれば私のように足を引っ張ることも……」


 腕にしがみ付くようにして必要以上に体を押し付けてくる。乱暴にならないように注意して引きはがすが、ねちっこくてしつこくて逃げづらい。このタイプの女性を嫌う師匠の気持ちがよく分かった。

 テッドは助けることもせず隣に座ったエレインと一緒にご飯を食べながらウィルの方を見ている。気づけば二人一緒にいることが多い。アリシア相手に真っ赤になっていたテッドはどこへ行った。カシムは見張りの交代の為、先に簡易テントで休んでいる。

 タニアの両肩を掴み、目線を合わせた。口紅の塗られた真っ赤な唇がにたーっと笑みの形を作る。トラウマになりそうだ。


「違う道を選んだ幼馴染が心配なんだ。冒険者を続けるなら魔法が使える仲間は必須だろう?これから高レベルの魔法も必要となってくる」

「魔法の修行なんて誰も教えてくれなかった。もし良かったらあなたが…」

「魔法を教えるための免許を持っていない。カシムもそうだが、やる気が無いんだったら身を引いてやってくれないか。テッドは君らを切り捨てるなんて出来ないだろうから」


 ウィルがそう言うとタニアは今まで浮かべていた笑みをすっと消した。それだけで随分と雰囲気が変わることに驚く。華やかな空気が消え一瞬で殺伐としたものに変わる。……ランクが低いだけで実は結構な場数を踏んでいるのではないかとウィルは感じた。


「確かにテッドは純粋ね。最初に会った時も騙されかけていたわ。あなたが幼馴染の心配をするのも分かる」


 表情は変われども声色を変えないタニアが頷きながら「でもね」と続ける。 


「テッドの人生はテッドの物よ。特に仲間同士の問題はあなたが首突っ込んで引っ掻き回していいものではないわ。分かったら引っ込んでいなさい。ボ・ク・ちゃん?」


 ウィルは思いっきりしかめっ面をした。テッドが心配なだけなのになんで僕……俺ばかりがこんな思いをしなければならない。ふてくされて寝てしまおうと道具袋に手を伸ばしたその時。


「皆、警戒して」


 エレインが普段よりも大きな声で注意を促す。いつの間にか起きたカシムが魔法の光球を木々の間に放つと、夜の闇の中から現れたのは黒く蠢くスライムだった。背景に紛れてしまってどれだけの数がいるか目視で確認できない。


「最近大活躍の黒スライムか」

「カシム、数を減らすわ。強化お願い」

「了解!」

「皆、動かないでね」


 タニアが呪文を唱えると光の矢が多数空中に出現し、黒スライム目がけて降り注いだ。よく見ると矢の周りに雷を纏わせると言う器用な事をしている。仕留めそこなったものに麻痺を与える為だろう。

 黒スライムの中心には赤い核がある。色合いが能天気な幼馴染を思い起こさせて気分が悪い。テッドも同じようで眉をしかめながら剣を赤い核目がけて振り下ろしていた。魔法で減らせたものの数は多く、淡々と剣を振るうテッドとウィル。夜の森とはいえ、今は夏。すべてを倒し切る頃には汗びっしょりになってしまった。

 疲れてはいるもののすぐには寝つけない。焚火のそばでテッドと一息ついているとタニアとカシムもよってきた。エレインは既に寝ている。


「テッド、私達、強い魔法が使えないわけでは無いのよ」

「そうなのか」

「ああ、低いランクでパーティが組めないでいる奴らに声かけて支援するのを生業としているんだ。初心者が死ぬ確率が減ったし、成績が上がらなくてもギルド長に怒られない。育てるのが目的だから必要以上に手を出さないし、無茶をしないように休憩も気を配っている」

「でもなぜかテッドがハズレの依頼を引く確率が高いのよね。だからもうしばらく一緒にいるようにギルド長からのお達しよ」


 ウィルが恥を掻いただけに終わってしまった。アリシアにエラそうなことを言っているのにこの有り様だ。それでもテッドが信頼できる仲間と組めていることに安堵した。余計なことをしたとカシムとタニアに謝り、幼馴染の事を頼む。


「これからもテッドをよろしくお願いします」

ウィルの一人称が変わった理由でした。もう少し続きます。

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