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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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ウィルの夏休み

ウィル視点の番外編です。時間は少しさかのぼって夏休みの少し前からです。

「今年の一年生はレベルが高いのが豊作だな」

「レベル?」

「美人やかわいい子が多いって事だよ」

「そうそう、金竜家のおっとり癒し系美人のエリーゼ様だろ、青竜家の分家のショートヘアが可愛い元気系コルネリアだろ?」

「忘れちゃいけないのが我らが王女、クール系美人のアリシア様ってな」

「クール系?アリシアがクール系?どこが?」

「おっ、ウィルがこの手の話に乗ってくるとは珍しいな。そう言えば幼馴染なんだっけか」

「なーなー、もうすぐ夏休みなんだし、紹介してくれよ。友達のよしみでさ」

「友達?誰が?」

「いえ、何でもないデス、ゴメンナサイ」


 クラスメートとの何気ない会話でも、様々な情報は入ってくる。自分の視点では決して見る事の出来ない情報も。アリシアがクール?脳裏に浮かぶ姿はお腹を空かせて無意識にイラついていたり、師匠に怒られて半泣きになっていたり、ウィルたちに向ける邪気のない満面の笑み―――単に能天気なだけともいう笑顔。

 クールなんて言われるからには最近笑顔が減っていたりするのだろうか。エリーゼがいるから孤立することは無いだろうが、それでも悪い感情を持たれる要素は沢山持ち合わせている。ヴェイグに絡まれたことも心配だ。

 『村長の息子』から『緑竜家分家の養子』になり、『生徒会長』の肩書も手に入れた。アリシアの最後のその時……いや、その後まで傍に居続ける為にはどこまで上りつめればいいだろうか。




「最近、本家から連絡が途絶えていてな……様子を見てきてくれないか」


 夏休みに入ってすぐの事。そう切り出したのは血縁関係で言えば伯父……母の兄に当たる人で、今はウィルを養子に引き取ったので義父となった人だ。

 緑竜家の本家―――原種の森に住むエルフの一族で、森の植物の管理を主に生業としている。元々いた種族が今の王家に組み込まれたのは初代国王による功績が大きい。よその国より優位に立つことになったが、帝国との戦争の火種ともなった。

 他国の気候や風土に合った植物などもここで研究されてから運び出されることが多く、世界の農作物を含む植物のほとんどは元をたどれば原種の森から始まっている。昨今では新たな植物が転移してくることは少なくなったが、他の…例えば薬や毒以外にも植物に由来した品物などの研究なども行われている。


「連絡が来ないのは珍しいことではないでしょう?本家は割とのんびりしたエルフが多いようですから」

「うむ…どうも嫌な予感がしてな。気のせいで済めばいいのだが。ついでだ、手土産でも持って実家にも顔を出して来い。お前、手紙も何も出していないだろう?」

「一度出したのですが、手紙を出すほどの暇があるならば自分の武器になるような新しいことを始めろと」

「あの人も相変わらずわかりにくい人だな」


 そう言って義父は苦笑した。素直なアリシアやテッドにはどれだけ説明しても分からないだろう。ウィルの父は自分の利益だけで動くような人ではなく、全体の利益、それも刹那的なものではなく将来を見据えて動く人だ。言葉が厳しいために誤解されがちだがウィルや母や義父、村の人達はそれを十分理解している。だからこそ村長を長期間続けられているのだ。


「エルフの里までの護衛として冒険者を雇った。明日は準備で明後日出発だ」

「護衛など必要ありません」

「まあ、そう言うな。久々の幼馴染との再会となるのだからな」


 それを聞いてウィルは目を瞬かせた。思い浮かぶのは冒険者となった赤い髪の幼馴染。


「もしかしてテッドを雇ったんですか?」

「ああ、二人で里帰りして来い」


 とても嬉しい反面、幼馴染を雇うと言う微妙な関係に戸惑うウィル。雇ったのはあくまで義父だと思い直し、素直に再会を待ち望むことにした。最後に会ったのは村を出た時だ。身体的にも精神的にも自分が成長したのと同じ分、テッドもおそらく成長しているのだろう。違う道を選んだけれど辿りつこうとしている場所はほとんど同じ……その時どのような立ち位置になるのかは今はまだわからないけれど。

 次の日、出かける準備には義母まで加わってきた。魔法防御が施された皮の鎧を試着し、どう見てもおかしい量が入る道具袋に携帯食や回復薬、金銭を入れる。貴族のお坊ちゃんなのに冒険者まがいな事をしていた義父はウィル本人よりも準備に張り切っていて、お蔭で買い足すものはほとんどなかったが、義両親の昔話と心配と愛情が時間をすり減らしていく。


「マントを持って来たわよ。こちらも魔法がある程度防げるようになっているの。この人の為に一生懸命に刺繍したの。懐かしいわあ」

「暑いし、森の中を歩くのでいりません」

「そうか……ああ、この護符(タリスマン)がエルフの里の通行証になっている。一人分しかないから仲間を外で待機させて許可をもらうと良い。それからこれが本家への土産だ」


受け取った護符は村で使っていた板切れの様な通行証と違い、円の中に五芒星が描かれミスリルで出来ている物だった。エルフの里の方角を示すように光が灯っており、ひもが付いていて首からぶら下げるようになっている。本家への土産は布で包まれていて何かわからない。二つとも道具袋の中に仕舞い込んでいると義父がぽつりとつぶやいた。


「……アレンとも連絡をしばらく取ってないしな……私も一緒について行くかな……」

「何の為に僕を使いに出すんですか。仕事があるのでしょう?と言うかテッドのお父さんとも知り合いだったのですか」

「ああ、パーティを組んでたこともあった。私などは足元にも及ばなかったな」


 子煩悩な姿しか思い浮かばないが、狂犬と二つ名を持つほどに恐れられていたらしい。人は見かけによらない、そして見る人によっても違うものだと、クラスメートとの会話からもウィルは改めて思い知った。




「よお、ウィル。久しぶりだな」


 背丈や体つきは変わったものの、にかっと歯を見せて笑う表情は別れた時と変わらないままだった。意識が一気に村に居た頃に引き戻され、つられてウィルも笑った。真っ赤なリンゴみたいだとアリシアが言った髪の毛は相変わらずツンツンしているが、ほんの少しだけ村に居た頃よりも長い髪型にしているようだ。向かい合って近くに立ってみると、目線は少しだけウィルの方が高い。自分の頭に手のひらを真っ直ぐに当て、そのままテッドの頭上までずらす。


「ふふっ、背はまだ僕の方が高いね」

「会うなりいきなり嫌味か。くっそー見てろ、そのうち追い越してやるからな」

「出かける前に久々に手合わせしようか?」

「おう、いいぞ」


 家の庭の一角には稽古用のスペースが確保してある。村での生活の様子を聞いて稽古が出来るようにと義父が用意してくれたのだ、まさに至れり尽くせりである。


「さあ、始めようか」


 そう言って、テッドの目の前で何もない空中から大剣を出す。遠足の時に手に入れた、テッドが持っているものと対になっている剣だ。前は大きすぎて持つことすらできなかったけれど、自在に操れるようになった。ウィルは普段からそうしている何気ない行動だが、テッドは目を見開いて驚いた。


「な、ウィルはそんなことが出来るのか」


 そう言うテッドは剣をどこぞで手に入れた鞘に納め、腰に佩いている。ウィルのように魔力がないので、そのような発想しかなかったのだろう。一応謂れのある勇者の剣なのに一目で安物とわかる鞘は、もしかしたら盗まれるのを防いでいるかもしれない。……テッドの事だから何も考えてなさそうだが。


「いくよ」


 大剣対剣。小回りが利かず力任せに振るうしかない大剣が不利のように思えるが、ウィルは魔法でそれを補っていた。肉体強化や武術の補助としての魔法についてはエルンストよりもロベルトの方が長けており、教えることのできないロベルトを見てウィルは技を盗んだ。

 対してテッドの方は、血筋である獣人本来の素早さに加え、アリシアの血を受けたことにより力も以前とは比べ物にならないほどに増幅されていた。受けた剣が昔より重くなっている。勿論本人の努力によるところもあるのだが、冒険者としての経験も強さに拍車をかけていた。

 強くなりたくなかったアリシアとは対照的に、ウィルもテッドも強くなることに対しては貪欲だった。響く剣劇の音の数が、それを物語っている。


「決着、付かないね」

「ここ、狭いしなあ。もっと思う存分動けたらいいのに」


 そう言ってテッドは剣を鞘に納め、ウィルも大剣を振ってかき消した。二人とも息は切れておらず、何事もなかったかのように話を始めた。師匠の稽古を受けていた頃の懐かしい感覚が蘇り、自然と口元が綻んでいく。

 話を弾ませているといつの間にか庭の外側に三人の冒険者が立っていた。 

続きます。

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