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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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転移の先には

 エルンストや騎士団や宮廷魔術師の人たちが計画を練って潜入しているのに何て無鉄砲なんだとか、魔法陣を利用しようと考えている間に思ったりもした。でもウィルが消えた瞬間、そんなのは頭から吹っ飛んで、テッドを助けるために大きな鳥の足にしがみ付いた時のように自然に体が動いてしまう。

 テレビの画面が切り替わるように一瞬で景色が変わり足が着地した時にはすでに転移先についていた。酔いや眩暈など、変な感覚は全くない。リッカとコハクがほぼ同時に転移してくる。

 先に来ていたウィルは申し訳なさそうに謝ってきた。


「ごめん、助けるつもりが巻き込んでしまったみたいだね」

「いいえ、結局転移するつもりだったからいいの。むしろ飛び込む理由になってくれてありがとう」

「お礼を言われているのに、なんだか嬉しくないな、それ」


 ウィルは苦笑したのでつられて私も笑う。……心強い。やっぱりウィルを呼んで来てもらってよかった。

 魔法陣から出て辺りの状況を探る。光も影もないような真っ白な空間で出入り口がどこかわからない。コハクは虎型になり、ウィルは何もない空間から大剣を取り出した。リッカは魔法陣の上を通らないように注意しつつ辺りを探査している。


「ヒルデガルド先生、来ないね」

「ルロイ先生の捕縛を頼んでおいたからね。リッカが来た時に丁度傍にいたんだよ。騎士警察も呼んで、あの人仕事速いね」


 戦力としての期待をしていたけれど、後方支援も大事、か。寮の門限は過ぎるだろうし、日にちがかかるようだったら学校への報告も必要だ。今のところ無遅刻無欠席だから単位が足りなくなることは無いだろうけれど。師匠に知られたら怒られるかな?ウィルも一緒だったと言えば大丈夫かもしれない。

 捕縛はやりすぎではと思ったけれど、死ぬかどちらか選べなんて言われたし…。放っておいたらとんでもない事をしそうだ。


「招待されたのに案内する人もいないなんてね。実は招かれざる客だったりして……」

「あった、出口ここです」


 真っ白で分からなかったけれどちゃんと壁があって、扉ほどの大きさの四角い筋が走っていた。白いスイッチの様なものもある。ウィルが逸れに手を伸ばしかけて、止めた。


「アリシア、何を見ても驚かないようにね。多分この先は……」

「大体想像ついているわ。人体実験を行うような研究所なんてグロかったりエグかったり、どこも同じような物でしょう?……えっと、その、本で読んだし」


 前世で映画やゲームなんかで見たけれど現世で見ているのはおかしいと、最後に誤魔化すように付け足した。ウィルも予想がついているみたいだけれど……どこで知識を得たのだろうか。

 部屋を出る前にここが国のどのあたりなのか、それからエルンストの位置、もしいたらいるかもしれないヴェイグの位置もリッカに調べてもらう。


「レユール山脈の北側です。二人の位置は把握できました。案内します」

「リッカ、いつもとしゃべり方が違うわね。緊張してる?」

「えっ?そんな風に見えますかーえへへへー」


 語尾が伸びていないことを指摘すると、誤魔化すように笑った。それでもまだ顔が少し強張っている。


「覚悟はいいね」


 頷く私とコハクとリッカ。スイッチを押して扉が開いた先に広がっていたのは……


「へいらっしゃいらっしゃい、今日は生きのいいエビが大量に上がったよ~安くしとくよ~」

「おじさ~ん、リンゴ二つくださーい」

「あら、この布地、素敵な色合いね」


 市場の様な屋台に舗装された道路。建物は平屋か二階建て、白だったり色鮮やかな建物だったり木造だったり、様々な形の家や店が並んでいる。こじんまりとした、でも活気溢れる町並みだった。陰気な研究施設を想像していただけに呆気にとられる。上の方には空が広がり……違う。違和感があると思ったら同じ形の雲が等間隔に浮いている。


「ここ、建物の中だわ。あの空は天井に映像を投影しているのね」

「え、ああ本当だ。じゃあここも施設の中って事だね」

「リッカ、案内お願い」


 リッカを先頭に人ごみの中を歩いて行く。王都と同じく様々な種族がいて特に変な動きをしている者はいない。よそ者がここに居るのに誰も反応しないのがおかしいと言えばおかしい。町の中には私たちが出てきた場所と似たような建物があちこちに建っていた。きっといろいろな所に繋がっているのだろう。……そうすると旧校舎の魔法陣は最近描かれた物ではないという事になる。もしかしたら生徒や先生の中で今でも使っている人がいるかもしれない。


 町の端まで来ると城壁の様な石積みの絵が描かれている壁に突き当たった。壁に沿って歩くと城門の様な扉があり、箱もののテーマパークの中にいるような気がしてくる。扉は手で押すとあっさりと開いた。


「おや、ここまで歩いてこられましたか。迎えに上がるのが遅くなり申し訳ございません。ルロイから話は聞いております。どうぞこちらへ」


 扉の外には一人の男がいた。中年の身ぎれいに整った男が聞いてもいないのに施設の説明を始める。


「ここは被験体のリハビリの場です。と言っても普通に生活しているだけなのですが。外へ出ることを希望したものの、実験の副作用で買い物などの一般常識が失われていたり生活が出来なければ困ったことになるでしょう?」

「自由に外へ出られるの?」

「許可が得られれば、ヴェイグのように学校生活を送ることだってできるのですよ。外で定職に就くことだってできますし、いつでも戻ってくることが出来ます。ただ、生存するのに必要な薬などはここでしか作られませんから定期的に戻ってこなければなりませんけれど」


 説明を終えると、では参りましょうかと先頭を歩きはじめる。益々、被験体が不幸なだけではないことを感じて、助けていいものか迷う。助けても助けなくても恨まれてしまいそうで怖い。

 移動している間、視界がちらつく事が何度かあった。まばたきをするとそれは消え、記憶に残るのは違和感のみ。この感覚…確か何処かで…。


 男が歩みを止め下へと降りる階段を手で示す。降りるのを躊躇していると、リッカが耳元で下にエルンストがいますと囁く。


「人質が生きている証明をいたします。あなたが暴れださないようにね。その後、魔力提供をしていただきます」


 狭く薄暗い階段を下りた先には定番の鉄格子。男は、被験体と区別するための犯罪者用の牢だと言う。拘束具に身を包まれた上に鎖で壁に固定され、猿轡と目隠しをされた状態でエルンストがいた。リッカの情報が無ければすぐには分からない。けがの有無や顔色などもさっぱりだ。


「鍵を渡してくださいな」

「渡すことは出来ません。その男は罪を犯しました」

「へえ、どんな罪かしら?」

「被験体を勝手に逃がしたのです」


 逃がした。逃がそうとしたのではなくて逃がすことが出来たという事だ。全てかどうかは分からないけれど、自然と口角が上がっていく。後は、私たちが逃げるだけだ。ウィルが次の質問をした。


「捕らわれているのは彼一人?」

「ええ、侵入者は彼一人ですから。大変でしたよ、指一本でも動かせれば魔術が使えるのですから」


 私は一人で侵入したと言う情報に目を向いた。流石にそんな無茶が出来るとは思えない。潜入は完璧にできて、気づかれる前に仲間を逃がしたのかな?


「食事は?」

「取らせてません」


 その答えを聞いて、鉄格子を握る手にうっかり力が入ってしまった。折り曲げようと思っていた格子は枠ごと外れてしまう。パラパラと細かい天井や壁のかけらが上から落ちてくる。男は悲鳴を上げながら外に出て行ってしまった。

 エルンストに近づいて目隠しと猿轡を外すと、なんだか愛おしそうな目で見られてしまった。ゆっくりと言葉を紡ぐ声がかすれてしまっている。


「め……がみ…さ……」

「ごっめーん、エルンスト。私は女神ではなくてアリシアよ。ここはあの世ではなくて銀竜家の研究所」


 しぱしぱと瞬く目にはそう言えばメガネが掛かっていない。見間違いも仕方がないか。それとも精神状態がやばいのかも。鎖を引きちぎり拘束具を外すと、私にもたれかかって……来ることは出来なかった。


「大丈夫、エルンスト?みんな心配したよ」

「ウィル……いたんですか……」


 ちょっぴり黒い笑みを浮かべるウィルに頭をがっつり掴まれているエルンスト。リッカに健康状態をチェックしてもらい、コハクとウィルにエルンストの回復を頼む。見た感じでは怪我もなく、むしろ体力や気力の方が心配だ。今から脱出するのに、果たして走ることが出来るのだろうか。


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