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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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コイバナ?

 応接室を追い出されてしまった私たちは、エリーゼの部屋に集まった。客室用とは違う天蓋付のベッドやシャンデリアは……金色だった。ベッドカバーやソファーやカーテンに至るまで。でも眩しいほどではなく、光を反射しないような素材ばかりだ。それでもエリーゼは気に入らないらしい。

 エルンストの態度に納得がいかない私はコハクを抱いてソファーに沈み込んだ。普通に座っただけなのにずぶずぶと。体勢を整えて座りなおしたが、コルネリアが笑いながら隣に勢いよく座ったのでつられるようにして二人で沈み込む。エリーゼはベッドへ座った。


「あそこまできつく止められるとは思わなかったわ……」


 体勢を立て直してコハクをいじりながらがっくりと落ち込んでいると、エリーゼとコルネリアは頷きながらもエルンストの弁明を始めた。


「いろいろと経験していそうだからね、加減が分かるんじゃないかな。今回だって、アリシアが街中でドラゴンを探すのは止めなかったわけだし?普通ならリッカだけ借りてアリシアをここへ戻すと思うよ」

「そうね、年長者の言う事は聞くべきだわ。それが相手への信頼にもつながるもの。話の内容は聞いてしまったものにも危険が及ぶ様なものかもしれないし」


 私なんかよりも大人な考え方の二人に私は自分が情けなくなった。あれやりたいこれやりたいってまるで子供みたい。


「あ~あ、明日はとうとう帰る日か~」


 コルネリアが、名残惜しそうに言う。週末にお出かけする約束をしていたのになかなかできなくて、夏休みに入ってからやっとお泊りで約束が果たせた感じだ。なのに過ぎる時間はあっという間で、心の底から楽しめていたんだと思う。


「二人は寮で部屋が隣同士なんでしょ?夜更かししておしゃべりとかするの?」

「寮母さんが見回りに来るし、週末は家の方に帰るからそんなに夜更かしはできないわよ」


 コルネリアの問いにエリーゼが答えた。コルネリアは自宅から学校へ通っていて、私たちと遊ぶ時間が取れないことにかなりご不満のようだ。図書館へ行く回数を減らして、学校の中で遊ぶ時間を増やした方が良いだろうか。私は図書館にこもっていた方が目立たなくて済むし、ウィルと遭遇できるのも大体が図書館だ。


「コルネリアも図書館に来る?小さい声でならおしゃべりしても構わないわよ」

「え?いいよ、いいよ。本は苦手だし……その……お邪魔しちゃ悪いし?」

「適当に調べ物をしているだけだからそんなに忙しいわけではないのよ」


 コルネリアとエリーゼが顔を見合わせて意味ありげな表情をした。え、私何か変なこと言ったかな?と不安になって二人を見ていると、意を決したようにエリーゼが口を開いた。


「生徒会長と王女の図書室での逢引き。かなり有名よ」

「………え、そんな噂が流れているの。本当に?」


 思わぬ方面への話題の切り替えに驚いて、両手を口に当てる。目立たないと思ってしていた行動はしっかり目立っていた。リッカは話題がコイバナまがいの物に切り替わった途端、にやにやし始めた。コハクは興味な下げに私の膝から降りて床に寝そべっている。


「アリシアと会うために余計な人が入らないように生徒会長が圧力かけているとも聞くよ」

「ウィルはそんなこと…………………………………するかも」


 初耳だ。蔵書が豊富で異世界の書物も楽しめて人がもっと大勢いてもいいはずなのに、案外少ないと言う感じはあった。参考書や歴代の試験の問題用紙も閲覧できるのに、試験前に行っても人は少ない。御陰で勉強ははかどったし、かなりいい点数が取れた。

 ウィルが村に居た頃よりも黒さをパワーアップさせていたら、有り得ない話ではない。あの時は師匠やエルンストにちょっとひどい言動をするだけだったけれど―――と、そこまで考えて雪合戦の時を思い出した。私のトラウマ克服を手伝ったのかと思いきや実はウィルもかなり怒っていて、自分の手を汚さずに私に師匠を攻撃させる為に(そそのか)した―――?もしくは自分は既に師匠の恐怖の対象になっていると知って、より恐怖を与えるために私に攻撃させた……か。

 後になってからわかるウィルの頭のよさと黒さ。村長の息子から下級の貴族になって、学校では生徒会長にもなった。来年、十六歳になったらおそらく社交界にも出る。ウィルが狙っているのは単なる成り上がりか……それとも下剋上か。


「でもそのお蔭で、変にアリシアに接触しようとする人が減っているのかもしれないわね」


 うすら寒さを覚えていた私は、エリーゼの言葉でふと我に返る。


「あ、それは私も思っていたの。入学してから禁忌の王女って事を出しにして、ものすごく凄惨ないじめを受けることを想像していたのに、案外平和なのねって」

「一体どんな想像してたの……」


 コルネリアが嫌そうな顔をした。入学式の白紙の挨拶の一件以来、ヴェイグが関わった事件以外は目立った被害は起きていない。呼び出して校舎裏でリンチとか、教科書や靴へのいたずらとか、周りから仲間外れにされるとか、金銭の要求とか……。

 だからヴェイグに殺されかけた時も、そんなに怖くなかった。本人は殺されかけているのに何で抵抗しないんだと言っていたが、内心、あれ、こんなもの?と思ったくらいだ。


「ご主人様ってば、愛されてますねー。リッカはウィル押しですよー」

「あら、リッカちゃんはそうなの。私はロベルトさん押しね。アリシアが心底安心して傍にいると言う感じがするもの」

「師匠は最近お父さんポジションなのですよーデートまがいな事もしているのにときめきイベントが皆無なのですー」

「それは問題ね。アリシアがまだまだお子様という事かしら。リッカちゃん、何かあったら報告よろしくね」

「らじゃー」


 本人を差し置いてリッカとエリーゼの間に同盟が組まれた。迂闊に誰かをカッコいいなどと誉めようものなら、或いは誰かをかばう発言などしようものなら即座に恋愛と取られかねない。コルネリアは同情の目で私を見ている。


「アリシア、見て囃し立てるだけで被害は何もないと思うから……頑張って」

「有難う、コルネリア……それよりエリーゼは婚約者と何かあったりするの?」

「あ、それは私も聞きたい。うちの兄様、聞いても何にも教えてくれないんだよ。親友と身内がうまくいっているのか心配でさ。エリーゼが未来の義姉様になるかどうかかかっているのに」


 やり込められているだけの私ではないと、コルネリアと共に反撃の狼煙を上げる。リッカを含めた三人に囲まれるエリーゼはそれでもうろたえない。頬に手を当てながら首を傾げて、静かに微笑んでいる。むう、手ごわいな。表情からは何も読み取れず、質問攻めにする方向に移った。


「週末にお出かけはしているの?」

「何かプレゼントされたりした?」

「はぐとかちゅーとかしてますかー?」


 控えめな質問でちょっぴりからかうつもりだった私たちは、リッカの遠慮なしの爆弾みたいな質問にごくりと息を飲んだ。空気が凍りつく気配がする。


「リッカっ!」

「流石にそこまで聞いてないよっ。家で兄様に会う私の身にもなってよ。顔合わせられないから」


 聞く立場の方の私とコルネリアがあたふたと顔を真っ赤にさせているのに、エリーゼはまだ静かに微笑んでいる。何か様子が変だと、二人で顔を覗き込むと、エリーゼは目をぱちくりとさせてごめんなさいと笑った。


「もしかして、兄様とのことを思い出してどっかにぶっ飛んでた?」

「違…わないかしら。フェリドが言っていたのだけれど、王都の街中でアレク殿下とアリシアが出会ってからアレク殿下が周りを気遣うようになったの。それから殿下が勉強に身が入るようになって休みも頂けるようになったと言っていたわ。アリシアってすごいわね」

「え、私?……そんなにすごいこと言ったかな?」


 首をひねって考えてみるが、何を言ったのかほとんど覚えていない。姉上は自由に動き回れてずるいと言われたからそんなに自由ではないと反論したような気はするけれど……。


「アリシアの行いが、巡り巡って私に幸せな時間をくれているの。有難う」

「幸せなんだ?」

「ええ、とっても」


 からかう隙も見せないほどのエリーゼの笑顔は、見ているこちらまでほっこりと幸せな気分になってくる。結局どのように幸せなのかは教えてくれなかったが、そんなことはエリーゼが幸せならどうでもいいことだと思った。


フェリド―――エリーゼの婚約者でコルネリアの兄。アリシアの弟のアレクに仕えている。名前を出した記憶が有るのにメモにも残してなくて読み返してしまいました。

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