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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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危機

 滞在三日目は町で買い物をすることにした。特産品や民芸品などのお店も多くてかなり見ごたえがあった。冬場は雪深くなるこの一帯は手仕事として編み物や木工が盛んで、毛糸に関しては色鮮やかな物も草木で染めた味のある物も売っている。木工は椅子やテーブルなどの家具から寄木細工のような細かい細工の物、木彫りの熊まであった。近くに牧場があるらしくチーズやバターなどの乳製品の種類も豊富で、私は試食のはしごをしていた。


「あ、これ美味しい~。こっちは酸味があるのね。日持ちしそうだから二つとも買っていこうっと」


 師匠のお土産は多分食べ物で大丈夫。エルンストがお酒を買うと言っていたのでおつまみになりそうなチーズを買った。お菓子も種類がたくさんあって選びきれない。屋敷のみんなには分けやすい小袋入りの物を手に取った。自分の物を選ぼうとすると少し離れた場所から声が聞こえてきた。


「見て、高山植物の押し花のしおり、素敵ね」

「こっちのアクセサリーも綺麗だな。色が違う木を組み合わせてこんなにカラフルになるんだね」


 エリーゼとコルネリアは別のコーナーを見ている。……私、食べ物しか見ていなかったよ。頭に浮かぶ食いしん坊王女の二つ名……慌てて二人のもとへ駆け寄ってそんなことは無いと自分で否定する。誤魔化すように目についた適当なものを手に取ってみると、持ち上げたのは持ち手の部分が美しい寄木細工の天眼鏡。


「アリシア、それ買うの?目、悪かったっけ?」

「え、ううん、買わないよ。…ばば様が生きていたらお土産はこれかなって」


 エリーゼはばば様を知っているけれどコルネリアは知らないことに気付いて慌てて説明する。そうか、新しく知り合いが増えるという事は、ばば様を知らない人が私の周りに増えるという事だ。少しだけ、寂しくなった。

 リッカは十センチ程度の四角いコンパクトミラーをねだる。開いて置けるタイプの物で姿見として使いたいそうだ。王都にも売っているのではないかと言ったらこれのここの細工がお気に入りなのですーと言った。コハクにも何か買ってあげようかと振り返ると、コハクは木彫りの熊をじっと見ていた。何だか後ろ姿に哀愁が漂っている。買ってあげようかと言うと首を振った。


「我も本当はこんな風に勇ましい感じの生き物だった気がするのだが……」


 確かに、ほとんど猫状態でいる今のコハクは私にとってマスコットキャラに成り下がっている。何か一つ買ってあげると言うと、コハクが選んだのは毛糸でで出来たネズミの編みぐるみだった。ポップには猫用おもちゃと書いてある。虎ならお酒でも選びそうなものなのに、自ら猫街道まっしぐらなコハクが……不憫で仕方がない。

 自分も何か形に残るものを買おうと品物を吟味した。ストラップ、絵葉書、ブレスレット……結局最後に選んだのはお菓子だった。寮生活だし、エルンストの家に自室があるとはいえ無遠慮に荷物を増やすのは忍びない。決してこのチョイスは私が食いしん坊だからではない。うん。


 店を出た私の耳にきゅいーとまた声が聞こえる。今度ははっきりと聞こえたと思ったのにみんなに尋ねても誰も聞こえなかったらしい。


「リッカ、周りに……たとえば小さなドラゴンとかいない?」


 ドラゴンと聞いてエルンストが反応する。私にしか聞こえないのなら似たような種族の声である可能性が高いと思った。気のせいならばそれでいいが、そうでないなら悪い状況しか思いつかない。リッカは注意深く魔法を使う。観光客が多くいろいろな種族がいるため、少し時間がかかっているみたいだ。


「あ、本当だ!本当にいる!こっちです」

「ごめん、エリーゼ達は別荘に戻っていて。荷物お願いします!」


 付添いの人たちにお土産を預けて、エルンストとコハクと一緒にリッカの後を追った。こんな街の中に普通にドラゴンがいるはずがない。誰かに懐いて匿っているだけならば良いのだが、人間と一緒に移動しているらしい。

 追われているのが分かったのか、対象も走り始めた。路地をすり抜け、店の中を通り抜け、高低差のある二本の道を横切るようにして飛び降りる。標高が高いせいか普段より少しだけきつい。エルンストは大丈夫だろうかと横を見たら、いつの間にか取り出した木の杖に腰かけて空を飛んでいた。


「アリシアも翼を出して飛んだらどうですか?」


 人目のある場所でそんなことが出来ないと知っていて、余裕の笑みでそんなことを言うエルンストに腹が立った。リッカはもちろん空を飛び、コハクは平気な顔をして走っている。

 相手はかなりこの町に詳しいみたい。私たちを撒くためか、それとも目的地が分からないようにするためか縦横無尽に走り回る。最後には町の山側の方から外へ出た。

 たどり着いた先には二人の男がいて布袋の引き渡しをしている。渡された荷物からは小さなドラゴンが顔を出してきゅいーっと鳴いていた。怯える様子もなく、なんだか懐いているようにも見える。餌付けでもされてしまったのだろうか?そう思った私は矢も盾もたまらず二人の前に飛び出した。


「ちょっと待ちなさいっ。ってヴェイグ?」

「げ、なんでここに居るんだよ。邪魔をするな」


 走っていた男がドラゴンを手渡していた相手はヴェイグだった。女の子みたいな顔して言葉遣いが悪い。と思ったら魔法攻撃を仕掛けてきたので慌てて避けた。


「約束通りドラゴンは渡しましたよ。じゃあ、あっしはこれで」


 私たちが追いかけまわしていた男は逃げた。捕まえたいけれどドラゴンの方が大事だとあきらめよう。と思ったらエルンストが杖を振りかざし光のロープで捕縛した。その様子を横目に見ながら私はヴェイグと対峙する。


「どうしてこんなことをしているの?」

「うるさいな、こいつの親に返すために盗み出すように依頼したんだ」

「えっ?」


 どういうこと?と聞こうとした私の耳に、遠くからばっさばっさと音が聞こえてきた。ヴェイグはその隙に逃げ出してしまう。


「あ、こら、待ちなさい」


 親ドラゴンが逃げるヴェイグの前に降りたった。着地と共に地響きを轟かせ、羽ばたきは暴風を引きおこす。咆哮は辺りの空気を震わせて、山々に木霊をもたらした。間近でドラゴンの咆哮を受けてしまったヴェイグはその場に膝を折って座り込んでしまった。


「まずいですっブレス来ます」


 リッカが叫んだ。開いたドラゴンの口には鋭い歯がびっしりと生えていて、その奥にほんのり明かりが灯り始める。慌ててヴェイグを回収して後ろへ下がる。私たちの後ろには町がある。避けることは容易(たやす)いが、それは選べない選択肢だ。


「エルンスト、防いでっ」

「了解」


 真っ赤な炎がドラゴンの口から吐き出された。エルンストの前に出現した大きく透明な壁が、絶えず吐き出される炎を防ぎ続けている。熱気が少し漏れて暑い。私はその間にコハクに指示を出した。


「コハク、ブレスが終わったら攻撃お願い。無力化するだけ、出来るわね」

「承知」


 私はヴェイグの手から小さなドラゴンを袋ごと奪った。ヴェイグの顔は恐怖で引きつってしまっている。可愛い顔が台無しだ。


「けがは無いようね、話は後で聞かせてもらうわ」


 そうしているうちにブレスが止んでコハクの吠え猛る声が聞こえる。コハクの気はそう言った使い方をするのね。私の無詠唱魔法のような感じかと思っていたら少し違っていた。

 ドラゴンはふらふらとよろめき地面に巨体を沈めた。完全に気絶はしていないらしく金色の目だけがぎょろりと動いている。私は小さなドラゴンを持って近くに寄り話しかけた。


「乱暴なまねをしてしまってごめんなさい。この子はあなたに返すから、どうか町を襲わないでください」


 そう言って小さなドラゴンを差し出すと、小さなドラゴンはぴとっと親ドラゴンに張り付いてきゅいーきゅーっと鳴いた。


変なところで切ってしまってごめんなさい。

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