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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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お嬢様はスピード狂

 エリーゼの家の別荘があるのはレユール山脈の麓、飛空船の発着場がある町だ。平地よりは標高が高く、真夏だと言うのに長袖のカーディガンを羽織っても少し寒いくらいだった。町から見える山脈の最高峰スフェール山は山頂周辺に万年雪を頂いていて、この辺りは避暑地になっている。その町のはずれにあるのが金竜家の別荘。広大な敷地内には畑や果樹園、廃鉱となった魔石鉱山の洞窟も含まれている。この町への移動は公共の飛空船を使ったが、金竜家では自家用の物も所有しているらしい。


「ようこそおいで下さいました、エリーゼお嬢様、コルネリア様にこちらは……」

「初めまして、アリシアです。お世話になります」

「エルンストと言います。アリシアの護衛兼保護者としてきました」


 エリーゼとコルネリアにも付き添いが来ている。リッカとコハクもつれてきた。祭りは師匠が連れて行ったのにとエルンストが駄々をこねたので師匠は付添を譲ったようだ。エルンストはきっと山脈に住むドラゴンが目当てなのだろう。

 到着した日はどこへも出かけずゆったりと別荘の中で過ごした。この辺り特産の果実のケーキやお茶を堪能する。甘党のエルンストはこれにいたく感激したようなのでレシピを教わった。同じ果物が王都で手に入るか分からないけれど別の物でもアレンジできそうだ。




「ねえ、エリーゼ。今日はあれ行こうよ」

「わかったわ、あれね」


 次の日の朝食の席で、二人は訳知り顔で話している。私が何かと聞くと二人は行けばわかると言って話してくれなかった。敷地が広すぎるので目的地まで馬車で向かうらしい。それぞれの付添と一人のドワーフを連れだって山の方へと向かう。ドワーフの名前はルドニクと言ってこの屋敷の畑と鉱山の管理をしているらしい。ずんぐりむっくりで髭や髪に少し白髪が混じっている。廃鉱となる前の鉱山の管理責任もしていたとの事だ。掘り進める場所は西の方へと移動し若いドワーフ達はそちらへ移ったが、年のせいもあってここの管理のために残ったそうだ。


「エリーゼお嬢さんが来るときいてここ一週間ほどメンテナンスをしとりました。コンディションはばっちりですじゃ」


 ついた場所には洞窟へと続くレールとトロッコが一つ。洞窟の反対側にはネットが張られている。来ても分からなかった私はエリーゼに聞いた。


「これに乗って鉱山の中を駆け回るの。速くて、ものすごく面白いんだから」


 なんとジェットコースターのようなものらしい。レールは中で一周して戻ってくるようになっていて、それなりにスピードが出るそうだ。


「これが安全ベルト、これとこれがブレーキ。でも迂闊に止めると前に進めなくて、トロッコを押しながら歩いてくるはめになるのよ。


 少しおっとりした感じのエリーゼが喜んで乗れるくらいだし、スピードが出ると言っても大したことは無いだろう。前世でコースターは特に好きと言うわけでもなく、何度か乗ったことがある程度だけだ。トロッコで一回転はありえない、大事な金竜家の一人娘を危険な目に合わせるわけがないと高を括っていた。乗り込んで安全ベルトを締めるとルドニクが後ろから物凄い力で押す。


―――甘かった。


 洞窟の入り口を入るといきなりの直角に近い傾斜。トロッコの前面についている明りだけが頼りで、暗い中壁にぶつかると思ったらまた急傾斜。急カーブとアップダウンがすごく、特に大きなカーブでは遠心力で車輪が浮く感覚すらした。狭くて暗い坑道の中を猛スピードで走り抜けるコースターの恐怖は、私の想像をはるかに超えている。……うっかり魔王になってしまたらどうしよう。リッカとコハクも一緒に乗っていて最初はトロッコのヘリから顔を出していたのだが、終わりごろには足元にうずくまってしまっていた。二人とも安全ベルトを付けないから余計に怖かったらしい。


「おかえりー。どうだった?」

「怖かった。舌を噛みそうで悲鳴を上げる暇もなかったわ」


トロッコから降りようと立ち上がるが、足が少し震えているように思えた。ゆっくりと足を下ろしたものの踏ん張れずにエルンストにしがみ付いてしまう。リッカはふらふらと飛んできて私の肩に止まり、コハクを抱き上げてトロッコから降ろすと少しだけプルプルと震えていた。


「あら意外ね、アリシアは平気かと思ったのに。私の意見をドワーフに聞いてもらって実現した改良作なのよ。よりスピードが出るように傾斜を急にしたり、でもここへ戻ってこなくてはならないから角度や距離の計算もたくさん必要だったわね」


 エリーゼが少し興奮気味に説明する。この世界の人は改良の類が得意ではなかったはずだと思ったらルドニクは転移者だったらしい。次はコルネリアが乗った。出てくるときには前と後ろが入れ替わるから前後にブレーキが付いているのか。ライトも前後についている。内部で止まってしまった時にどちらにも進めるようにしてあるらしい。出てきたコルネリアはものすごい笑顔だった。次に乗ったエリーゼもほんのり顔が赤くなってとってもいい笑顔。きゃあきゃあ言いながら二人は何度も何度も乗った。

 リッカは自分で宙返りしても怖がらないし、私も空を飛んだ時に落ちる様な感覚も経験したけれどそれほど怖くなかった。おそらく自分でコントロールが効かないのが怖かったんだろうと思う。


 待っている間、エルンストはルドニクに、最近ドラゴンを見ていないか聞いていた。


「緑色の奴がここいらから原種の森にかけて、縄張りにしとるようですな。も少し東の方の山には群れがおるようですが、一匹だけで行動しとるようです」

「よく見かけるのですか?」

「ええ、あ……いやここん所はそう言えば見かけんような気が……」


 ルドニクが首をひねる。見かけはじめたのは十年ほど前からで、特に人間に危害を加えるでもなく、ゆったりのんびり空を飛んでいるだけらしい。週に一度は見かけていたのに、三月ほど見ていないそうだ。


「エルンスト、緑色の竜って飛空船の遠足の時の」

「ええ、可能性はありますね。この辺りの気温でこの季節だと、子育ての可能性もありますよ」

「あのドラゴン、メスだったの?」


 私は驚いた。話をした限りではそんな事を微塵も感じなかったからてっきりオスかと思っていた。エルンストは質問に首を振って否定する。


「転移元の世界によりけりですが、性別が無かったり、自分の分身を作って命を引き継いでいくものもいますよ。ドラゴンの生態に関してはまだまだ研究の余地があるんです」


 へえ、と頷いた。聞いていたルドニクや付添いの人たちも初耳だったらしい。エルンストの知識に感心していた。エリーゼ達が何十回も乗っておしゃべりの話題も尽きてきた頃、ルドニクが戻ってきたエリーゼに声を掛けた。


「エリーゼお嬢様、そろそろ昼時ですぞ。ほれ、おてんとさんがあんなに高いところに」

「あら本当。今日はこれくらいにして戻りましょうか」


 皆で馬車に乗り込んだ。それにしても、エリーゼがこんなにスピード狂だとは思わなかった。車やバイクが有ったら喜んで運転していそうだ。この世界の乗り物がゆったり進むものばかりで本当に良かった。


 別荘の近くまで戻ってきた時、どこからかきゅいーっと動物の鳴き声のような音が聞こえた。辺りを見回しても何もいない。何か聞こえたかみんなに尋ねてみたが、誰も首を縦には振らなかった。私の気のせいだったのかな?


ビッグサンダー〇ウンテン。テレーゼさんは商売化を狙っているがエリーゼは自分が乗りたいときに乗れないのは嫌だと反抗している…かも。

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