初めての調合
「まずは、スァグの実をすりつぶして……」
乳鉢に入れて乳棒ですり潰す。すり潰している間は何だか無心になれるよね。サラサラな粉状になるまでゴリゴリとすり潰す。
「ユハヴェク油を混ぜ込んで……」
「ふむふむ」
いくつか工程を経て傷薬が完成した。初めてにしてはうまくできたと、ばば様に褒められた。
「聞いた事のない植物ばかりだね?」
「わしに調合を教えてくれた人が異世界の人だったからのう」
「道理で……あ、メモとってもいい?」
「それだったらこれを使うと良い」
ばば様が手描きで調合の仕方を書いた本が渡された。ひもで閉じてあって、結構厚い。
「うわあ、すごいねぇ」
「うむ、努力の結晶じゃ。あ、これとかこれはわしのオリジナルじゃ。」
イラスト付きのレシピを見ると、四角いビスケットの様なものが書いてあった。
タイトルを見ると……。
「え、これって冒険者の携帯食料?」
「菓子職人の経験を活かしてのう。元々日持ちのする焼き菓子と、ブレンドした薬草を混ぜて、体力回復と栄養補給と軽度の治癒効果を付けてみたんじゃ」
「おぉ、もしかして秘伝のレシピ?」
「あ、いや、これはギルドと契約を結んで、売れるたびにいくらかお金が入ってくるようになっていて……」
「儲かった?」
「……うむ。ちょっとだけな」
ちょっと無粋な質問だったかな?でも、ばば様はちょっと照れている。
―――何度か簡単な調合を行って、日も傾いてきた頃。
「アリシアが異世界の記憶を持っているからいうのじゃが……そしてこれはわしの単なる思い込みかもしれぬが……」
ばば様が言い淀んでいる。何だろう?
「この世界の人間は技術を進歩させる事が無いかもしれぬ」
「どういうこと?」
「以前、どうして自分で考えて作り出すことをしないのか、聞いた事があってのお」
「うん、それで?」
「帰ってきた答えが『それは転移者が為すべきことだろう』じゃった」
聞いた人間がそうだっただけなのかもしれない。たまたまそういう性格の人だったかもしれない。
ばば様の話をもう少しくわしく聞いてみる。
薬の作り方を教えてくれた人以外の転移者は見たことが無かったそうだ。もちろんじじ様を除いて。
転移者がいろいろな技術を持ち込んだり、本人がそれを利用して進化させたりしても、二代目、三代目はそれを伝える程度にとどまる。そんな人たちしか会ってこなかった、と。新しい発明をしようと努力する人はいなかったと。
「ただただ利用されるだけってのが嫌になってしまってのう。それでじじ様と一緒にここへ住むようになった」
まるで世捨て人のような生活をすることは、前から不思議に思っていたけれど。そんな理由だったのか。
「それじゃあ転移する人がいなくなったら……」
「文明は停滞するのう」
「もしその状態で人ではなくて未知のウィルスとかが転移してきたら……」
「薬を開発しようとする人がそのままいなければ……」
「下手すると世界滅亡?」
本当に空想の域を出ないけれど、……そしてそれは大げさかもしれないけれど。似たようなことは起こりうるかもしれない。ウィルスタイプの魔王なんて想像したこともなかった。
「わしの思い違いならいいのじゃが……」
他の人には言わない約束をして、初めての調合は終わった。
植物の名前と調合の仕方は適当です。ばば様は異世界でカロリーメイ〇を作った!?




