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第11章 悟性と霊的反作用

ホテルに戻って、オルタナの部屋の前に行くと、少し扉が開いていた。中を覗くと、ヘテロと魔理沙、そしてパチュリーや天子、にとりが楽しそうにトランプをやっていた。

入るのに気が引けた彼女はそのまま去ろうとした時、その様子を不思議に思われた白河に何やってるんだ、と背後から声を掛けられた。心底一驚に馳せるも、ナントカ声を出さずに済んだ。彼女は彼の方を向いては、それこそお前は何をやってるんだ、とでも言いたげな視線を送った。案の定、彼はその向けられた視線に応えるように口を開いた。


「俺は下の売店でタバコ買いに行ってきたのさ。それより何だ、元気ないな」


此処で彼女は彼にさっきの事の全てを打ち明けたのであった。

彼は驚いた仕草を一瞬で見せては其れを隠し、困惑の表情を浮かべた。しかし彼は彼なりの最善策を類推させている。模索に模索を重ねた僅かな時間、彼は結果を口から発したのである。


「…俺としては、キミは奴らに捕まるべき存在ではない。それこそ来たのがウェーバーだからまだ良かった方で、此れがかの妹紅やオーウェン、カミルだったら惨事になっていた」

「ウェーバーは常識人なのカ?」

「常識人だね。何事も冷静に対処できる。しかし他の奴らはワケが違うだろう、すぐさま武器を持ってお前を駆り立てんとするだろうね。何とも後味の悪い奴らだからな」

「…そうなのか」

「そう、そうなんだよ。あいつは確かに…ニュースでもやってたろう、ヴェルサス抗体の話。…オーウェンの言う事には賛同してたけど、暴力的な方法は脱するべきだって述べててね。マスコミの偏向的な報道で立場が極化してるけど、アイツは実のところ中間位置なのさ。それぐらい常識を噛み合わせている。

そんな奴がお前にわざわざ会いに来た、と言う事は…既にお前の居場所がバレてるんだよ、誰が流したかは分からないけど」


咄嗟にアリスの顔が頭に浮かんだ。

彼女は自分に対して嫌がらせを行ってきた…やはり誰かと通じてるのだろうか。零人理部の統轄にまでのし上がったなら、魔理沙の寵愛を受けて信頼されているはずだろう。

色々と辻褄が合うような気がする。元よりサーカムフレックス体に恨みがあるなら、確かにオーウェンや妹紅と言った輩にワタシを引き渡せばウィンウィンの関係になる。其れは大同病院を裏切る形になるが、彼女にとって"そんなのは"どうでもいい事としか思っていない…そうだろう。

彼女は決して何事をも、自分の為ならやる―――其れこそ命令に忠実な臣下のように、自己の復讐心と言う帝王の前に立ちはだかる化身の兵士として、槍を構え、甲冑を着ているのだ。

どうも、そうとしか考えられない…考えられないのであった。まさか、眼前のシラーがやるとは思えない。部屋で仲良く遊んでる魔理沙やにとりやパチュリーが流すとは考え難いのだ。否、もしかしたらのもしかして、の割合で、可能性はあるかもしれないし、其れは完全に払拭できない。だがオルタナの思考が其れを排他と見なした―――見なしたのだ。見なされたが所以、其れは〈異端〉となった。有り得ない、に分類されたのだ。

残されたヘテロとアリスだが、ヘテロ自身がサーカムフレックス体なのに流す事は自己への不利益に繋がる、それより大きなメリットを受け取っているとは考えられないし、何しろ短絡な性分で計画を練るのは苦手な筈だろう。そう考えれば、必然的に残されたアリスとしか考えられないし、導けないのだ。

彼女は静かに頷いて見せた。思い当たる節がそれしかない…それしか、考えられなかった。にとりに言われた事を含めても、やはりそうだった。


「…アリス、かなァ」

「彼女だと見当付けてたのは俺とて同じだ。そもそもお前たちを余り良く見ていなかった」

「だとしたら、やはり……」

「かもしれない。…此方はお前らを保護するよう努力するし、全日本零人理研究会が強硬手段を執るなら此方もやるしかない。其れしかないからな…」


白河は苦しそうな顔を浮かべた。


「…確かに、ウェーバーの言う通り、我々はマイノリティだ。マイノリティである以上、我々は戦うしか無いのかも知れない。今や日和見なんて事は出来ないのか」

「オーウェン、妹紅ってそんなに気性が荒いんだネ」

「あいつら2人はまるで"親子"とでも言われてしまうほど性格がそっくりでね…憎い事にどちらも研究で功績を残しているんだよ。…だから、それなりに権力もあるって訳さ」

「……やっぱり、此処に長居していたら危険カナ」

「危険だな」白河は即答付けた。「既に末端存在のウェーバーが来たんだ、きっと此のホテルに居る事も気づいてるだろう」

「……早く家に帰った方がいいカナ」

「もし後を付けられていたら、其れは其れで厄介だ。…此処は全員に打ち明けるべきではないのか?例え容疑者候補のアリスも、もしかしたら違うかもしれない。下手に行動に出るよりは全員に言った方がいい」


◆◆◆


オルタナが「話したいことがある」と言うので、ヘテロやアリスなど例外なく、只見に行ったメンバーを集めた。天子には話を聞かないようパチュリーが念に念を押していたため、暫くは大丈夫だろう。

オルタナの部屋に集まった全員は、彼女の話を聞いた。…白河は既知であったために反応は特に見せなかったが、他の全員は驚いたようであった。そして皆が皆、重苦しそうな表情をした。先程まであった楽し気なムードは一気に灰塵となって消え失せたのだ。


「…兎にも角にも、此処で暢気に過ごしてる場合じゃないってコト?」ヘテロが言った。

「そう言う事だね。…早く戻った方がいいのかもしれない。見つかるのは時間の問題だよ」にとりが憶測を立てて物事を喋った。

「……時間の問題だよなァ!!」


此処で、ドアを突き放すように開けては音を立てて入ってきた男がいた。

そいつはオルタナたちを見下すような視線で、纏っている白衣に合わない黒の両手袋、宵闇を気取ったマフラーを捲いており、獲物を見つけたかのように口元は引きつっている。

やがて男の後ろに、同じように白衣でありながら拳銃を構えては武装蜂起する連中のように血生臭さを滲み出している者共が三、四人集まった。男はただ嗤いながら、オルタナとヘテロに視線を行ったり来たりしている。


「まさか枢密を研究会に隠してたとはな、魔理沙。何かウラがあると思ったら」

「…チッ、来るのは早いんだな。…オーウェン」

「残念だが、引き渡して貰うぜ…オルタナレクリプスXV、そしてヘテログロジア。お前ら2人は我々研究会の至高の研究材料となるのだからな」

「…そんなの、嫌に決まってるだろ!」ヘテロが声を上げた。

「我々人間は、極端に"死"を懼れてるのさ」オーウェンは両手を拡げ、演説するように言った。「其処で、唯一不二の不滅の持ち主、サーカムフレックス体を研究することで、不死を目指そうとしているんだよ。違うかい?…目的論としては正にコレで、君たちも極端に死を懼れてるはずだ。怖いだろう?」


オーウェンの言葉は、何処かオルタナに響くものがあった。

其れは感銘を受けるとか、そういうモンじゃないのだ―――過去に繋がる何かが、其の言葉を頭の中で輪廻転生を繰り広げさせるのだ。感性が其れを引っ掴み、離さない。


「…私も怖いね。死は…誰に対しても"人間である限りは"例外なく襲い掛かってくる。…悪魔だよ、マッタク……死に神は誰にでも其の鎌を振り下ろすのだから。鎌に駆られれば忽ち死ぬんだよ……。

―――それでもお前たちは、同胞と思い込んでいる2人を手放さず、死を視るのか?此れは歴史上でも類を見ない、人類の飛躍に繋がるのに」

「――――だから何だ。2人を引き渡しても、無能なお前ら如きが見事な研究を遂げるはずがない、結局は死ぬんだ、俺たちは」

「そうだろうね。…だったら、お前らを此処で殺して、お望み通り「死」に案内してやるよ…。其れが良いんだろう、お前らは!?」


此処で彼は胸ポケットに入れていた拳銃を取り出した。

オルタナとヘテロは咄嗟に持ち前の武器を構え、他の全員は後ろに隠れた。緊迫した空気が、部屋の中に流れる。


「…悪いね」


此処でオルタナが、扉を塞ぐオーウェンたちを無理やり突破して、外へ逃げたのであった。まさかの行動であったが、咄嗟にヘテロも後に続く。

逃げられたら元も子もない、オーウェン率いる全日本零人理研究会の連中は後を追った。オルタナはやがてフロントから外に出て、ウェーバーと話しあった駐車場から少し外れた場所に在る、雪が薄く積もった平原に来た。その理由として、ホテルに迷惑を掛ける訳には行かないと言う、飽くまで良心上の話であった。

―――だが、その良心は正しかったと思う。只でさえ降雪と言う最悪のコンディションの中、しかも広々としているので攻撃を避け易い。だが障害物の何物が無いので、白兵戦となるだろう。

平原に来た2人を追い詰めたオーウェンは、小賢しい動きをするオルタナとヘテロを見据え、そして言い放ったのであった。


「……もう逃げられると思うなよ」

「蒙昧に逃げられて、覚束ないのを言い訳にするノカ」

「言い訳?違うね……これは人類の希望を賭けた戦いだ。保守的に生きるのも手立てだが、死は怖いのだよ……もはや研究が進めば人間が懼れる事は無い。…世界は、数多に翔けた創生の名の下で生まれているのだから!!」


◆◆◆


オルタナは早速、両足の裏に取り付けられていた反重力装置を展開させ、徐に剣を空中で抜刀した。

此れにオーウェンの背後に居た科学者たちは一斉に拳銃で穿とうとするも、空中で舞う天使のように動きが俊敏な彼女に狙いを定めるのは難しかった。

此処でオーウェンは、オルタナに気を取られつつあった彼らに対して、持ち前のペン型ナイフ―――見た目はボールペンなのだが、中身はナイフと言う器用な道具―――を用いて、撃鉄を起こした。

此処で彼は迫りくるヘテロに向けて拳銃を差し向けるも、空中から降下する際にオルタナに斬られた囲いの1人がオーウェンとぶつかった。

その狼狽えの隙を伺ったヘテロはナイフで一気に腹部から右肩にかけて切り傷を深く刻み込んだ。


「…くそったれ……意地でも人間に希望を与えないつもりか」

「非人間には常識が無いんじゃない?お前らが言うところの、さ」

「…非人間には非属性を、だな」


オルタナは遠くで囲いの連中を一掃し、オーウェンを除いた全員を剣の錆にした。

全員が狼狽え声を上げながら、そのまま死に伏せたのだ。…言うところの死生観を至近で観たのであり、確かに人間が死を懼れている事は把握した。

だがサーカムフレックス体の運命なのか、死と言う現象をイマイチ理解出来ないのであって、剣から垂れる紅も現実味が無かった。

2人に挟まれたオーウェンであったが、増々"死"と言う物を怖く感じた。…今までは大義名分上の垂れ幕に過ぎなかったが、死んだ囲いを視界に映しては凍てついた。

やがてオーウェンは全身を震わせた。寒さのためじゃない、恐怖によるものだ―――世界は変わった。オーウェンは真剣な眼差しを浮かべ、ヘテロを視た。


「……お遊びは終わりだ」

「お遊び上等。…最初から本気で来なよ」


オーウェンは一気にヘテロに近づいては、背中に存在していた鞘から剣を抜刀しては斬りかかった。

だが、その剣戟は華麗にナイフを扱う彼女の敵では無く、金属音が雪の中で響くだけであった。その虚空に、オルタナが近づいた。

咄嗟に勘付いたオーウェンは背後に対しても斬りかかったが、対象は既に上空に居た―――そして彼女はヘテロと並んだ。

ヘテロは拳銃を構えてはオーウェンを撃とうとした。だがオーウェンはすぐさま躱しては遠回りして2人に近づき、時を移さず構えたもう一つの拳銃、合計2つのもので2人を狙った。

だがオルタナは反重力装置を展開させ、空中に反るように飛び上がり、空中から剣を投げつけたのであった。

剣は忽ちオーウェンの元に襲い掛かったが、すぐさま躱してしまう。続いてヘテロが避けた先で反撃の銃弾を撃ったが、オーウェンは其の動き早い体能力を活かして攻撃を躱した。

疲労の汗が寒気に染みて寒い。だが、人間の尊厳と比べたら軽いものだ。


オーウェンは持っていた拳銃の片方を仕舞い、飛ばされてきたオルタナの剣を手に咥えた。

だがヘテロが手と柄の狭間を上手く射撃し、剣は遠くへ飛ばされてしまう。此処で追撃を仕掛けるようにオーウェンに対してオルタナが穿ったのだ。

しかしオーウェンは其の僅かな間隙を用い、ヘテロを拘束した。首を右手で絞め、動けなくしたのだ。

ヘテロは唖然とし、同時にオルタナに対して謝罪の念が生まれた。…飽くまで人質戦法を用いる気なのである。頭に拳銃を突きつけ、勝手な動きが取れない。


「…オルタナレクリプス。お前は友人が大事じゃないのか?」

「…ダイジ、ダイジ」

「そうだよなぁ、大事だよなァ。なら、やる事は一つだ。武器を下ろせ。そして敗北を認め、"奴ら"が来るまで待て」

「奴ら?」

「そう、奴らだよ―――既に全日本零人理研究会直属の私兵機関、『ゼロ』さ。既に此処に来るよう手配してある、数分待てば此処に来るだろう」

「……卑怯な真似、するんだナ」オルタナは抗議した。

「卑怯?…勝てば官軍、負ければ賊軍なのさ。賊軍は官軍に取り留められて終わり。…空しいね」


怒りが込み上げてきた。行く先の無い、愚か染みた怒りだ。

視界に映る、拘束された哀れなヘテログロジアと、ただ勝ち誇っているオーウェン。こんな奴が全日本零人理研究会のトップなのか、と半ば絶望した。

そして、全身全霊を震わせて興る、微かな狂気。其れは血を真っ青に染めるように狂悖に暮れていた。

やがて彼女は下を俯き、再三オーウェンを見た。髪の向こうの眼、それこそオーウェンは見れなかったが―――「コワれた」目が映っていた。

ふと、指環が輝いた。其れは忽ち閃光を放ち、オルタナに光のベールを覆う。やがてオルタナは、何かに憑かれたかのように声を発したのだ。其れはヘテロも分かった。―――"彼女の本性"なのだと。


「……世界に死を、萬物に終焉を。終わりなき夢に、ハカイを――――――顕れよ、召喚獣…オーバーソウル!!」


その瞬間、指環から人魂のようなものが幾多も出現し、閃光は忽ち燐光へと変化した。

不気味な不穏性が漂い始め、やがて彼女の前には死霊の集合体、オーバーソウルが姿を顕示させた。其れはオルタナの丈の何倍を行くものであった。

幽霊の帝とも言うべきそれは、薄褐色と紫色のボロボロの衣を纏い、骸骨のように身肉が乏しい。そして骨を露呈させた右手で、人の憎悪の顔が何重にも彫られた木杖を持っているのだ。

其れを天に掲げると、雪を降らしていた雲の集合はたちどころに赤みがかった雲に変遷し、そのまま下を見下ろした。

眼下には、怯えた目を浮かばせるオーウェンとヘテロが居た。壮大な霊体は、其れを目がけて杖先を向けたのだ。

その瞬間、巨大な霊体の周囲を飛んでいた人魂が忽ち爆弾となって、オーウェン目がけて降り注いだのだ―――恐るべきことに、其れはオーウェンに痛みを感じさせ、同時にヘテロには何の痛みも無かった。

オーウェンは耐えられなくなり、一目散に逃げようとした。


「…お、覚えてろ!!」


やがて彼は遠くに来たトラックに乗り込んだ。…あれが私兵機関、ゼロのものだろう。

そしてオーバーソウルは、その一部始終を見届けると、すぐさま指環の中に吸い込まれるようにして無に帰ったのであった。

同時にオルタナも目を覚ました。…記憶こそはあったが、ぼんやりとしていたのであった。

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