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第七話

 俺が起きると、珍しくマオさん以外はもう出払っていた。あぁ見えて偉い人たちなので、忙しいのかもしれない。

 マオさんに挨拶をした後、朝食を済ませて掃除を始める。いつも通りのやつだ。

 しかし、なぜかマオさんが俺へついて来ていた。どうしたのだろうと見てみるが、じっと見ているだけ。変なの。


 何も言わないので気にせず掃除を続けていると、マオさんが口を開いた。


「実はな、オーヤ」

「はいはい、どうしました? また甘い物でも食べたいんですか?」

「こっちの世界は飯がうまいよなぁ。いや、そうじゃなくてな? ちょっと面倒なことになってんだよ」


 面倒なことと言われ、俺は手を止めた。どうやら真面目な話らしい。

 居間へと移動し、二人分のお茶を注ぐ。しかし、マオさんはお茶に手を付けず考え込んでいる。

 豪胆な性格な彼が、こんなに悩むこととはなんだろう? 焦らすことなく、じっと待っていたら、一口お茶を飲んだ後に話し始めた。


人狼(ワーウルフ)って知ってるか? あいつらを傘下に入れようとしたら、なんか逆らって襲って来てな」

「へぇー、なんでですか?」

「いや、分からん。本当勘弁してほしいよな。うちのやつらもやる気満々になってるしよぉ」


 なぜ仕事のことを俺に話すのかは分からないが、愚痴りたいときもあるのだろう。

 ……そういえば、爺さんが愚痴を聞いてやれって言っていたような? うろ覚えだが、言っていたかもしれない。

 マオさんは戸棚からお菓子を出し広げる。な、なんか長い話になりそうな気がしきてきたぞ。

 そこはかとなく嫌な予感はしたが、付き合うと決めたのだから、話を聞く覚悟をした。


「あいつら数は多いし、血の気は多いしでな? すーぐ喧嘩吹っ掛けてきやがる。だから面倒になって、滅ぼされたくなかったら傘下に入れゴミって言ってやったんだ」

「アウトー! 完全にアウト! マオさん、それ普通怒りますからね!?」

「え? まじで? だって、俺様の下につけるんだぞ? むしろ喜べって感じじゃね?」


 彼の目は純粋無垢であり、本当に疑いなく言っている。どうしてその言い方で、仲間になると思ったのだろうか?

 いや、傘下だから仲間じゃなくて部下? まぁどちらにしろ、明らかに言い方が悪い。しかも、それを本人は分かっていなかった。

 ここは、俺が分からせてやるしかない。人狼族のためというか、マオさんのためにも言うべきことに思えた。


「マオさんいいですか? 普通は、そんな言い方されたら怒るんです。仲間になってほしかったんなら、同じ目標とかがないと厳しいですよ」

「同じってもなぁ。俺様は、最終的には全世界を手中に納めるわけだろ? 早くから仲間にしてもらえるだけで、感謝するもんじゃね?」

「でもまだ世界を納めたわけじゃないでしょ? なら、向こうだってその気かもしれないじゃないですか」

「あいつらも人狼が世界のトップになる! みたいな考えがあるってことか? ……おい! ふざけんなよ! 俺様に勝つつもりってことか!?」


 あんたも同じこと言ってんだろ! ……とは言えないので、言葉を選ばなければいけない。

 マオさんの自分が最強、自分が一番理論はすごい。確かにそんな理論が自分の柱になっているのであれば、譲ろうなんて考えはないだろう。

 困ったな、なんて言えば分かってくれるんだ? 非常に難しい。

 悩んでいると、マオさんが先に口を開いた。


「まぁいいや、人狼は次なんかしてきたら滅ぼす。で、人間がじわっと攻め込んで来てるんだけどな? あれ、滅ぼしてくれってことだよな?」

「なんで最初に滅ぼすことが浮かぶんですか!?」

「普通そうじゃね?」

「普通じゃないです! いや、そっちではそれが普通でも、俺の中では普通じゃないですから!」

「そうなのか……」


 どうにも埋められない壁を感じる。その後、いくら話しても駄目だった。

 もしかしたら話を聞いてほしいだけなのかな? 俺は昼食を二人で食べているときに、漸くそこに気付いた。

 でも勘違いかもしれないし、どうする? ……悩んだ結果、聞いてみることにした。マオさんには、隠すより聞いたほうがいいだろう。


「マオさん、もしかして俺の返答って余計ですか?」

「そう思っていたら話さねぇよ。大体、俺様にビビッて言わないやつが多いからな。オーヤみたいに言ってくれると助かるんだぜ」

「なら良かったです」


 ほっとしながらも、なぜか嬉しくなっていた。魔王の相談に乗り、喜ばれるって早々あることではないと思う。

 俺なんかでも力になれているのかもしれない。そう思うと、心が温まる感じがした。



 少しいい気分になりながら、マオさんの話を聞いていたときだ。バーンッと居間の扉が開かれる。入って来たのはキューさんだった。


「マオ! お前、どういうことだ! 人狼どもが、手を組んで魔王ぶっ殺そうぜと言ってきたぞ!」

「あぁ!? あいつら、まじふざけんなよ!?」


 トップが別の世界でつるんでいるとは、誰も思わないだろう。どことなく人狼に同情をしてしまった。

 そんな俺には気付かず、二人はギャーギャーと言い合っている。なぜ怒鳴りながら話す必要があるのかは、俺には分からない。


「あいつら、妾のことをやらしい眼でじろじろ見おって……! 絶対どこかで裏切るつもりじゃ!」

「やっちまうか? なぁやっちまうか? 裏で手を組んで、少しだけ追い込もうぜ? 数が半分になれば大人しくなるだろ」

「ふ、二人とも落ち着いて……」


 完全に殺意に塗れた二人を宥めようとしていると、またバーンッと扉が開かれた。

 そこにいたのは、当然ゴブさん。俺は少しだけ真っ当な人が来た気がして、胸を撫でおろす。

 ……しかし、これも間違いだった。


「マオ、キュー。どういうことだ? 人狼どもが、魔王ぶっ倒した後に妖怪どもを襲う。女を半分分けてやるから、傘下に入れと言って来たぞ」

「マオはともかく、妾も裏切る気か! あのくそ狼どもが……!」

「いや、話に続きがある。そのすぐ後に別の人狼グループが来て、暴走している同族殺したいから手を貸してくれと言って来た。ギヒヒッ、どうする?」

「へー、暴走してるのか。なるほどなぁ……俺様いいこと思いついた」


 絶対に禄でもないことだ! 分かり切っているが、俺は自分の口を押えた。これは巻き込まれたらあかんやつだろう。

 全身の毛が逆立ち、聞くな、離れろと言っている。……なのに、少しだけ興味があった。危険だが、もう少しギリギリまで聞かせてもらおう。


「暴走している人狼たちぶっ殺して、残りの人狼をうちの傘下にする。これでどうだ?」

「おいおい、なんでお前のとこで丸儲けしようとしているんじゃ? 妾たちが人狼ぶっ殺して、傘下にしてやろう」

「ギヒヒッ、お前たちは引っ込んでろ。うちは下に見られているんだぞ? 許せないよな」

「「「……」」」


 どうやらすぐにギリギリの状況が来たようだ。俺は静かに立ち上がり、その場を後に……させてもらえなかった。

 もふもふで柔らかい何かが、俺のことを包み込んでいる。これは、キューさんの尻尾だ。嬉しいが、嬉しくない。今は逃がしてほしい。

 だが、その願いは届かない。俺は気づけば三人に囲まれていた。


「オーヤ! 俺様たちが最初に喧嘩売られたんだから、優先殺戮権があるよな!?」

「あいつらは妾たちを利用した後、嬲ろうとしていたのだぞ? 妾たちが優先で殺してもいいであろう!」

「見下されていたオレたちには、戦う理由がある。それに暴走しているやつらを殺す依頼もされているんだぞ? ギヒヒッ、考えなくても分かるよな?」

「え……えぇっと……」


 物凄い顔で、三人は俺を見ている。どうしてそんな重大そうな結論を、俺に委ねようとしているんだ!?

 自分たちで考えてくれ! 何かあっても、俺には責任がとれない! 勘弁してください!

 そう思っているのに、ずずいと三人は俺へ近寄って来る。尻尾はぐるりと俺の体に巻き付いており、身動き一つとれない。柔らかくて気持ちいい。


 完全に目が泳いでいる俺に、逃げ出す方法は一つも浮かばない。そして逃がしてもらえることはなく、何かを言わなければ解放してもらえない。

 仕方なく、ぽつりと呟いた。


「……三人が情報を共有していることはバレていないし、共同で三面作戦とかは?」

「具体的に言ってみろ!」

「すみません! まずキューさんのところが協力すると言い、暴走しているやつらをおびき出します! そこに敵対しているマオさんの陣営と、依頼されたゴブさんのところが攻め込みます! で、三人が争っても得は無いので、倒したら撤退!」


 自分で言ったのだが、恐ろしいことを言っている気がする。もしもこの作戦が了承された場合、暴走した人狼族は皆殺しにされるかもしれない。

 しかし、俺も三人に追い詰められ続けるのは辛い。許してほしい……!


 三人は考え込んでいたのだが、納得し切れていないらしく俺へと問いかけて来た。


「メリットはなんだ? それじゃあ、誰も得しないよな?」

「そそそんなことはないです! 三人とも、襲って来ようとしている馬鹿を始末できます! なによりも……」

「なによりも、なんじゃ?」

「すっきりすると思いません?」


 すっきりするなんて、儲かるわけでもなんでもない。そんなメリットが通るはずはないのだが……三人はにやりと歪に笑った。

 すまない、本当に人狼さんたちすまない。俺には三人を冷静にして、話し合いの場を設けることはできないようだ。


「……がっはっはっ」

「……くっくっくっ」

「……ギッヒッヒッ」


 三人は、固く握手をしていた。これ以上ないほどに恐ろしい同盟が、一時的に締結されてしまった気がする。


 三人が帰って来たのは三日後の夜遅くだった。

 その顔は満足そうであり、非常に楽しそうでもある。

 もちろん、結果については怖くて聞けなかった。

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