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第十五話

 朝、身支度を整えて部屋を出た。

 今日も一日頑張ろうと伸びをすると、足元でジャギッジャギッと物音がする。

 聞き覚えのある音に目を向けると、想像通りマーダーうさぎのマーくんが座っていた。廊下でなにしてんだ?

 ウラミちゃんが落としたのかな? 届けてあげたほうがいいかもしれない。

 そうも思ったのだが、これ触って大丈夫なのか? 持ち上げることに躊躇いを覚える。

 だって、手を伸ばそうとするたびに、ジャギッジャギッと鈍い鋏を合わせたような音を、口から立てている。


 ……よし、見なかったことにしよう。それが一番だと判断し、俺は居間へと向かおうとし、転んだ。

 足にはツギハギだらけのうさぎのぬいぐるみが抱き着いており、口をジャギッジャギッと鳴らしている。もうこれホラーだろ。


 ここまでされて放置するわけにもいかず、仕方なくマーくんの首根っこを掴む。

 改めて見てみると、なんてサイコなぬいぐるみだ。中身も殺人鬼だったらしいし、スーパーサイコだよ。

 で、攻撃してくる節はないが、俺はこのマーダーなぬいぐるみをどうすればいいの? 考えるまでも無い、居間に連れて行くしかない。


 噛みつかれないように気をつけながら、マーくんを持って居間へと入る。

 なぜか居間には誰もおらず、とても静かだった。

 なんか、これよくないよね? そう思い見回していると、机に一通の手紙。開くと、それは四人からだった。


『今日は忙しいので、先に出ます』


 すごい社会人っぽい台詞を見た。早出して仕事をする。あぁみえて、ちゃんと働いているんだなぁ。

 感心したのはいいが、大きな問題が残っている。

 普段は誰かしら一人が家にいたのに、今は俺とマーくんだけ。しかもマーくんはジャギッジャギッと歯を鳴らしてやる気十分。

 誰もいない家で、これと二人きり……? まずいだろ。


 そっとソファへマーくんを置き、俺は部屋へとダッシュした。申し訳ないが、マーくんと二人で過ごすのには勇気が足りない。二週目を期待してくれ!

 扉を開き、すぐに閉じる。そしてガチャリと鍵をした。よし、これで一段落。

 誰か帰って来るまで、今日は部屋に引きこもろう。やれやれと思いながら振り向くと、机の上にうさぎのぬいぐるみが乗っていた。


 正直、ギリギリ悲鳴を上げなかったという感じだ。なんとか耐えつつマーくんを見ると、ジャギッジャギッと口を鳴らしている。

 どうする? どうする……!? と、悩んだのも束の間のことだった。

 よく考えたら、なにかされたわけでもない。一緒に過ごしても平気なんじゃないか?


 落ち着きを取り戻した俺は、マーくんを連れて居間へと戻り、自動掃除機を動かす。そして自分は食器洗いを始めた。

 フライパンは油物だから、後で洗おう。まずは水に浸けておいた食器から……後方からジャギッジャギッと音がする。やかましい。


 食器が洗い終わり、男物の洗濯物を干す。今日はいい天気だ。

 縁側では、ジャギッジャギッと音がしている。口を鳴らしているくらいなら、手伝ってくれればいいのに。


 洗濯物を干し終わり、廊下の掃除をする。ジャリジャリと砂の音がしているが、ジャギッジャギッという音に比べればなんてことはない。

 おっと、そういえば借りていた映画を明日返さないといけない。今日見ておくかな。


 居間へと戻り、適当に昼食を作り、自分とマーくんの前へ置く。ぬいぐるみが食べるかは分からないが、まぁいいだろう。

 ……昼食も食べ終わったので、マーくんとソファに並んで座る。部屋を暗くし、スイッチオーン!

 楽しみにしていた、ホラー映画が始まった。



 ふーむ、こういう映画だったのか。呪いのビデオってやつを、マオさんとかが見たらどうなるんだろう? TVごと吹き飛ばしそうだな。

 さて、洗濯物が乾いたか見に行こうかな。そう思い立ち上がろうとしたら、妙に体が重かった。

 なんだこれは? まるで変な物に憑かれたかのような……。肩と足が重い! ホラー映画のせいか!?


 重い肩に手を回して見ると、ぷにゅっと何かに触れた。ひんやりしていて、むにむにしている。


「お、お兄ちゃん、この映画怖いんだけど……」

「え? ウラミちゃん?」


 俺の肩にしがみ付いていたのはウラミちゃん、足にしがみ付いていたのはマーくんだった。

 ちなみにどちらも震えあがっている。どうやら俺が触れたのはウラミちゃんの頬だったらしい。

 今日は忙しくて、みんないないんじゃなかったっけ? そう思い話しかけようとしたのだが、全然話にならない。

 だっこちゃん人形のように張り付いている。なので仕方なく、そのまま聞くことにした。


「ウラミちゃん、今日は家にいたの?」

「こわいこわいこわいこわい……TVから出てくる……」


 ノーライフクイーンだとか言っていたのに、すごく怯えていた。ついでに殺人鬼のマーくんも怯えている。

 二人のほうがよっぽど怖いと思うんだが、そこのところはどうなんですかね?


 しょうがないので、そのままの状態で洗濯物を入れに行こうとしたのだが、物凄い勢いでしがみ付かれて転んだ。


「どこに行くの!? わたしを置いてどこに行くの!?」

「干した洗濯物を入れに……」

「お兄ちゃんとマーくんが、二人だとどうなるんだろうってイタズラしたから怒っているの!? もうしないから! だから一人にしないで!」


 情けないことを言う年上少女を宥めつつ、ジャギッジャギッと歯を鳴らす殺人うさぎを持ち上げる。

 俺は二人を纏わりつかせたまま、洗濯物を入れることにした。


 おや? ちょっと曇って来たかな? 日の光を浴びれば、二人もいい気分転換になると思ったんんだが、そうもいかないようだ。


「急に曇り出したよ!? あいつの仕業なの!? 呪いのビデオを見たから、TVから出てくるの!?」

「いやいや、あれは創作だからね? 日本の映画は確かに怖いって言うけれど、本当にそんなことが起きたりはしないよ?」

「TVの中に引きずり込まれちゃう!」


 駄目だ、さっぱり話を聞いてくれない。

 結局、みんなが帰って来てからも二人は俺から離れなかった。


 食事の時も、膝にウラミちゃん。ウラミちゃんの膝にはマーくん。不思議な状態で食べている。


「オーヤ、お前なにしてんだ?」

「はぁ……」

「TVからTVから」

「ギッ? TVがどうしたんだ?」

「TVから出て来るの!」

「なにを訳の分からんことを……」

「本当だよ! なら、みんなで見ようよ!」


 このウラミちゃんの提案は、なぜか受け入れられた。食事が終わり、全員揃って居間で鑑賞会だ。

 俺はなぜか本日二度目の視聴。どうせなら違う映画が見たかった……。


 しかし、この後に予想外なことが起きた。

 隣に座っていたキューさんが俺にしがみ付き、マオさんとゴブさんが肩を組んで「大したことないな」と震えながら言っている。


 映画が終わった後も、それは変わらなかった。


「そろそろ風呂に」

「よし! 入るか!」

「仕方ない、オレも一緒に入ってやろう。ギヒヒッ」

「待て待て! 今日は妾がオーヤと入ろう!」

「おおおお兄ちゃんとは、わたしとマーくんが入るよ!」

「勘弁してください!」


 俺はマオさん、ゴブさんと風呂に入り、その後に入ったキューさんたちを洗面所で待つことになった。

 何度も何度もいるか声を掛けてくるので、すごく大変だ。


「オーヤいるか!?」

「いますよー」

「お兄ちゃん、今ガタッて音が!?」

「気のせいだよー」


 この経験を経て、俺は一つ学んだ。

 今後、ホラー映画は一人で見よう……。

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