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第十二話

 ふーろふろふろ風呂掃除っと! 今日も俺は元気に風呂掃除をした。だが、この風呂おかしいんだよなぁ。風呂が妙に綺麗な気が……。

 五人で使っているはずなのに、綺麗な風呂? そんなことはありえない。しかし、一人暮らしのときと同じくらいしか汚れていない。

 もしかしたら他の人も風呂掃除をしているのか? うーん、考えても分からない。


 分からないことを気にしてもしょうがない。俺は湯を張り、先に風呂へ入ることにした。

 他の人が帰って来るまでもう少し時間もあるし、たまには一番風呂もいいだろう。


「あああああああ!」


 体も洗い、気持ちよく風呂に入る。一日の疲れが飛んでいくような、この瞬間がたまらない。

 今日も一日なんとなく頑張ったなぁ……。そう思っていると、ガラリと風呂の扉が開かれた。


「きゃーっ!」

「オーヤじゃねぇか。何、変な声出してんだ?」

「いや、なんとなく……」


 入って来たのは、マオさんだ。狭い風呂に入って来ないでほしいと思いつつ見ていたのだが、戻ることなく中へ入って来た。

 いやいや、男二人で狭い風呂で肌と肌を擦り合わせるとかごめんですよ? 後、筋肉と傷がすごいです。

 そういう趣味は無いが、少しだけ触りたいなどと思っていたら、マオさんが周囲を見回しだした。


「狭い風呂だよな」

「分かっているなら、出てくださいよ。俺もすぐ出ますから」

「よいしょっと」


 バンッとマオさんが壁を叩く。何をしているんだと思ったが、ゴゴゴッと室内が鳴動した。

 地震? 地震ですか!? 風呂で地震って、裸で逃げるの!? それはちょっと色々抵抗がありますよね!

 あたふたとしていたのだが、すぐにもっと慌てることになった。


「おーっし、これでいいな」

「……はい?」


 足が伸ばせるどころか、体全部伸ばせる広い風呂。十人だって楽に入れそうだ。

 獅子の頭からは、お湯がドボドボと出ている。どこぞのお貴族様の風呂みたい。

 洗い場だって広い。旅館かってくらい洗えそうなスペースがあった。


 首を傾げていたが、訳が分からない。お湯をパシャパシャとかけ、顔を洗う。うん、頭がすっきりしてくるね。

 さて、つまりどういうことかな? えーっと……分からない。

 眉間に手を当て考えていると、マオさんが隣に入って来た。


「かーっ! やっぱり風呂は広くないとな」

「マオさん、分かってますよ。これ魔法で広くしたんでしょ」

「おう、慣れてきたな。いつもこうやって、広々入らせてもらってんだ」

「まじっすか……」


 人の家の風呂でなにしてるんだ? とも思うが、二階の空間が捻じ曲げられているから、今さらな気がする。

 この人たちの部屋はどうなっているんだろう? プライバシーもあるので入っていないが、不安になる。

 入ったらジャングルとかでも、俺は不思議に思わないよ。


「そういえば聞けよ。今日はゴブリンどもをぶっ殺してやったんだぜ。俺様の鉱山を狙うとか、あいつら馬鹿だよなぁ」

「ゴブリン? ゴブリンって、もしかして」

「ギヒヒッ、邪魔するぞ。魔族どもをぶっ殺して血塗れだ」


 噂の人が入って来る。この非常にまずいタイミングで、一番合ってはいけない二人が出会ってしまった。

 やばいことになるのでは? そう思っていたのだが、血を洗い落としたゴブさんは割と平然としたまま、風呂へと入って来た。


「マオ、あの鉱山もらったぞ。ギヒッ」

「はぁ? いや、お前ら撤退したじゃねぇか」

「フリだフリ。これでうちの資源が潤うぞ。ギヒヒヒヒヒッ!」


 楽しそうにゴブさんは笑っているが、これはまずい。俺は慌てて立ち上がり、二人の前へ手を突き出した。

 オーケー、落ち着いて話し合おう! 争うの駄目駄目! まずは話し合いから! そういう意味を含めていたのだが、マオさんも平然としていた。


「まじかー、読みが甘かった。まぁ今日は終わりってことで、また明日頑張るかな」

「あぁ、悪い悪い。お前が家に帰って来てたなら、こっちも撤退するべきだった。ギヒッ、許せ」

「そこも俺様の読みが甘かったってことだ。しゃあねぇしゃあねぇ。……ってか、オーヤ。お前なんだ? 俺様たちに一物を見せてんじゃねぇよ」

「ひゃんっ!」


 俺は変な声を上げ、座り込んだ。別に見せたかったわけではなく、二人を止めようとしただけだったのに。

 だが、なぜ二人は争っているのに争っていないのだろう? 疑問は聞くのが一番。俺は素直に問いかけてみることにした。


「あの、マオさん。怒らないんですね」

「怒る? ゴブのことか? あっちのことはあっちで解決する。話くらいはするが、こっちには持ち込まないってことになってんだ」

「うーん、でもゴブさんが、マオさんが帰ったところを狙った可能性もあるわけですよね? もちろんそんな人だとは思っていませんが」


 フォローを入れつつ、少しドギマギしながら聞くと、マオさんは「がっはっはっ」と笑い出した。

 聞いたらまずかったかとまで思っていたのに、まさか笑い飛ばされるとは……。ってか痛い。ばんばんと俺の背中を叩かないでほしい。

 ちょ、痛いって! ゴブさんまで俺の背中を叩いている。左右から叩かれているこっちの身にもなってくれませんか?


 やっと叩くのをやめてくれ、背を擦っていると、マオさんが話し出した。


「そこまで読めなかった俺様が悪いだろ? 怒るのは間違ってるからな」

「ギヒッ、オレも同じ立場だったら、マオを怒ったりしないぞ」

「へぇー……。なんだかんだで、仲がいいんですね。魔王とゴブリンで手が組めそうです」


 いい関係だなぁと思っていたのだが、二人はぴたりと止まった。

 そしてギリギリと俺の肩を掴みだす。マオさんの手は万力のようだし、ゴブさんの指が食い込む。いててててて!

 しかし、俺の顔が歪んでいることにも気付かず、二人は笑って話し出した。


「いやぁ、俺様は器が広いからな。このくらいのことじゃ怒らねぇって。手を組む? 傘下になら入れてやってもいいぞ?」

「器が広いのはオレだろ? お前らが襲って来ても許してやってるんだからな、ギヒヒッ。頭を下げるなら、公式の場でやれよ?」

「……あぁ? あそこは俺様の領土だったろ」

「……ギヒッ、うちのほうが近かっただろう」


 あれ? なんだこの剣呑な雰囲気は。二人とも額に青筋を浮かべ、睨み合っている。というか、俺を壁にしているような……?

 いやーな空気で困っていると、マオさんとゴブさんの手が同時に光った。まずい!


「二人とも落ち着いてあびゅっ!」


 俺の顔に、お湯がかけられる。結構な威力で、そのまま湯の中へと倒れ込んだ。

 鼻にお湯が入ってツーンとしたが、止めなくてはと起き上がったら、二人はジャコジャコと武器をチャージしていた。

 そう、手に持っているのは、俗にいう水鉄砲ってやつだ。


「食らえやゴブ!」

「ギヒッ、当たらんぞ!」

「ぶほっ、当たってる! なんで水鉄砲持ってるんですか! 後、めっちゃ俺に当たってまぎゃぼっ」


 人の体を壁のようにして、ぐるぐると回りながら、二人は水鉄砲で打ち合う。

 魔法じゃなくて助かったが、こりゃひどい。息がごほっ、できな、げふっ。……くそっ! 許せん!

 俺は逃げるように風呂場から飛び出した。


 腰にタオルを巻き、急いで部屋へと走る。


「お兄ちゃんなにして……やだ、服着てよね」


 ウラミちゃんが何か言っているが、関係ない。部屋へと入り、ガムテープを剥がし、箱を開けた。

 取り出した物を両手に持ち、洗面所へと駆け込んで水を補給。よし、戦闘準備完了だ!


 俺が風呂場へ戻っても、二人は打ち合いを続けていた。俺が戻って来たことにも気付いていない。

 くっくっくっ、今度はこっちの番だ!

 前に買った、ほとんど使っていない強力水鉄砲をランボーのように二丁持ち、俺は二人へと攻撃を開始した。


「つめたっ! オーヤてめぇ!」

「ギッ!? 水はずるいだろ! ギギギッ!」

「はっはっはっ! 謝るなら今の内ですよ!」


 その後、俺たち三人はノリノリで水鉄砲での打ち合いをした。

 ……ちなみに俺だけ風邪を引いた。ごほっごほっ、ほどほどにしておけば良かったよ。

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