ョシバジナオ ←
ョシバジナオ ←
「急用が入ったんだ」
「こんな見っとも無い姿だけどいい?」
お姉様はドレスの裾を持ち上げてゆっくりと座った。
ふわりと靡くその黒髪はまさに死神というに相応しいものだった。
「そんな事ないですよぉ~、お姉様ぁ~」
ニコリと笑みを返す。
お姉様は挑発的な笑みを浮かべた後にまた無表情に戻った。
そのままお茶の入ったカップを口に運び、ゆっくりと飲んだ。
艶っぽい表情でカップを口から離して、ぼそりと言った。
「アッサムか」
「道理でミルクが置いてあると思ったよ」
音も立てずにソーサーごとテーブルの上へとカップを置き、慣れた手付きでミルクを追加する。
本来ならば少々のマナー違反である。
しかし、ひとつひとつの仕草から上品さが窺えて、文句のつけようがない。
「セカンドラッシュからは少々時期がずれているが」
「それでも、アゲハカンパニーから最高茶葉を提供してもらってますよぉ~」
お姉様は眉をピクリと動かした。
そして口元に運んでいたカップを少々乱暴にテーブルに置いた。
鞄から古びた煙管を取り出して、近くにあった蝋燭で火を付けた。
その煙管は今の姿とは相容れぬような、花魁が持つような形状であった。
吸う気はないのか、火を付けただけでじっと煙管を見つめている。
「タケル、これる?」
ラナは目を見開いた。
まさか、お兄様までこちらに来るなんて…。
お姉様が名前を呼ぶと、煙管から煙が高く昇る。
そして煙が少しずつ薄れたところで、スーツを着たまま煙草を噴かしている男性が現れた。
「用事はどうって事ない」
「新しい茶葉を提供してくれ」
「お前、アゲハの事が嫌いだもんな」
「媚薬なんて卑怯な物を盛る方が悪いんだ」
そんな物を盛るあの蝶の女は確かに卑怯だ。