エマチグウョジウトノウコウク ←
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空港の搭乗口は慌ただしい。
僕は忙しない人を横目に見ながら、溜め息を吐いた。
その隣で白いワンピースを着たお姉様は言う。
「溜め息をついたら幸せが逃げるぞ」
「いいんですよ」
「無限にあるんですから」
お姉様は無関心そうに読んでいた本のページを捲る。
ブックカバーはもちろん白。
何もかもが白すぎて、忙しない人もお姉様を見てギョッとするという一連の動作になっている。
僕はまた溜め息を吐いた。
「我慢していたものを全て曝け出せるようになりました」
「が、僕の言動で人を不幸にするのには変わりないですね」
とある人間を指差しながら、僕は「あと3歩で転ぶ」と呟いた。
すると、その人間は右、左、右のステップで転んだのだった。
曝け出すにしたって、曝け出し過ぎるとまた誰かを殺してしまうだろう。
お姉様は本を閉じて立ち上がった。
「笑う門には福が来る」
「はい?」
くるりと回って、お姉様は僕を見た。
スカートが広がって、黒髪が線を描き、数秒後に垂直に垂れ下がる。
いつものように無表情で、いつものように無感情で、お姉様はこう言った。
「もうあの女のとこに行かなくて良い」
「記憶の操作も、女性ホルモンの投与も必要ない」
カツカツと白いヒールを鳴らししながらお姉様は警備員に近づいた。
そして首から下げていたカードを見せて、警備員を驚かせる。
深々と頭を下げさせながらお姉様はチケットのない人間が入る事の出来ない搭乗口前を後にしたのだった。
僕は思わず、また溜め息を吐いてしまう。
「お姉様は一体、どこであんなものを手に入れたんだろうか……」
僕はロリィタに身を包んだままキャリーケースを引く。
そして搭乗口から飛行に気乗り込むのだ。
また日常に戻らなくてはいけないからだ。




