ロイラクサ ←
ロイラクサ ←
「( )!」
コード07になる前の名前を叫びながら、その死神はコード07に抱き付いた。
その美しい桜柄と桃色の着物、深紅の袴を身に付けた死神が、その腕で優しく包んでくれた。
シャラン……と揺れた黒髪に刺さる簪が、コード07の視界に映る。
こんな死神、この世界にいたんだ。
「ああ、こんなに汚れて……!」
2つの剣を携えた死神は懐から桜色の手拭を取り出して、コード07の顔に付いた血を拭った。
ごしごしとされるから、目を開けづらくてそのまま目を瞑っていた。
何となくだが、目を開けてはいけない気がしたから。
「あなたは……何者なんですか?」
「うーんと、眠り姫を起こしに来た王子様かな」
女性なのに、王子様って言いきった。
何となく違和感があるけど、とりあえずされるがままにされてみた。
全身が空気に触れる感覚がして、思わず身震いをする。
それでもコード07は目を開けない。
恥ずかしい。
恥ずかしい、けど……懐かしい。
ゆっくりと柔らかい何かが少しずつ肌を包んでいく。
これは……子供がお母さんに服を着せてもらう感覚だった。
でも、どうして懐かしいと思うのだろうか。
自分は生まれた瞬間に、お母さんを殺している。
お父さんも航空事故で殺している。
弟も、祖父母も、親族も、全員、殺しているはずなのに……! 【事故ナンカジャナイ】
「童話のお姫様は、眠っている間にどんな夢を見たんだろうね」
ふと、桜の死神に話しかけられる。
コード07は何も答えずにただ目を瞑り続けた。
でも、自分だったらきっとこんな夢を見るだろう。
この優しい感覚に触れたまま、触れられたまま、少しだけ眠り姫を演じてみよう。
幸せな夢を、自分が起こしうる現実を。
涙が溢れ出るのはきっと気のせいなんだ。
コード07は、幸せだから……泣く事なんてない。
それでもきっと今は夢の中だから、誰にも見られていない。