エマンイウョビノウョチ ←
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ラナは自宅の前でタクシーから降りた。
キャリーケースを運転手に降ろしてもらい、可愛らしく運転手に手を振った。
ほんの少しだけ運転手は笑い、手を振り返して本来の仕事に戻る。
タクシーが完全に見えなくなった後に、ラナは自宅と向き合った。
自宅とは、病院の事だ。
「おっ、ラナじゃんっ?」
「なにしてんだよっ、こんなところでっ!」
やけに弾むような、跳ぶような喋り方をする青年の声。
その聞き覚えのある声が下方向を見れば、黒い兎耳が付いたパーカーを着た青年がいた。
ストリート系のファッションだが、そのパーカーは実に可愛らしい。
青年その者の象徴である。
「自宅に帰ってきて何かいけない事でもあるのぉ~?」
「4番目のお兄様ぁ~?」
4番目のお兄様、通称ウサギくん。
見てわかる通り、兎が大好きな人。
まるで原宿にいる女子か、というぐらいにキーホルダーを付けた鞄が目に入る。
ぶら下がっているものは、全部が兎だった。
「4番目のお兄様は何しにここへぇ~?」
「ああっ、ちょっとこの前に怪我しちまってっ!」
忙しなく、跳ねるような喋り方。 【喧シイト思ウノハ僕ダケ?】
痛々しい話でさえも目を輝かせて離すその姿は、兎そのものだ。
しかし、兎は恐怖があると隠れるという可愛らしい習性もある。
まあ結局のところ、そんなものは温室育ちの兎でしか見た事がないが。
このお兄様は野生の兎さんだから、恐怖を知らないし、知る事もない。
「でもっ、アゲハに診られるって気持ち悪くねーのっっ!?」
必要以上に跳ねる声。
それは4番目のお兄様が必要以上に強い感情を込めて言う時。
まあ、6番目のお姉様に身体を診られるのは……多分みんな嫌だろう。
「嫌に決まってるぅ~♪」
だって、このラナでさえ嫌なんだから。
でも、6番目のお姉様は死神だから……この幸運で死ぬ事はない。