ョシバジナオ ←
ョシバジナオ ←
【暇というのは究極な娯楽であり窮屈な作業でしかない】
【楽観するべき事ではなく、悲観するべきものである】
もう既に働いているお姉様の言葉はそうだった。
石の上にも3年。
3年間は修行の身で、給料に見合う仕事は絶対にできない。
それができるようになるのは3年後。
それか、すぐに成果を出したいのならこうすると良い。
誰かの身代わりになれ。
どの社会においても、人為的な不幸は存在する。
例えば、目が細い顔が気に喰わないだとか、自分の失態の身代り、だとか。
この部屋はきっと、そんな胸糞悪い不幸のデータバンクだ。
資料を捲る度に出てくるのは、絶対に2人の人物名。
失態をやらかした人間の署名と、失態を被った人間のデジタル文字で書かれた名前。
その下には本来、前者の人間が被るはずだった罪状が大きく書かれている。
「ほんっとうに、くっだらない世の中ですねぇ~」
「大人っていうのはぁ~♪」
ラナは資料を上へと放り投げる。
紙吹雪よろしく、ひらひらと舞い降りる不幸の紙は地上に落ちた。
床に散らかる不幸の紙を踏みつけて、踏みにじった。
まるで不幸を木っ端微塵に砕いてしまうかのように、踏み続けた。
「気持ち悪い」
心の底からそう言った。
キャリーバックに手を伸ばし、バックの底からジッポライターを取り出す。
そしてボッと火を付けて、資料の山の中に投げ捨てた。
焦げ臭いにおいが充満してしまい、とりあえず服に臭いが付く前に外に出よう。
きっと、この部屋の火災報知機と防炎設備は日頃の点検不備によって機能しない。
きっと、この建物は見えない柱の重要部が老朽化していてすぐに崩れ落ちるだろう。
きっと、この会社は人員不足で倒産するだろう。
ラナが願えば全てがその通りになる。
この世はラナの願い通りに全てが進む。
ラナは部屋を出て、エレベーターへと乗り込んだ。
扉が閉まり、ゆっくりと降下していく。
中途半端な浮遊感。
それは何となく気持ち悪いが、どうせこれもすぐに終わる。
ここの大人達はこの気持ち悪さに気付かない。
気付かないではなく、気付いていないフリをし続けた。
だから、今のこの状況も気づかないフリをして済ますだろう。
人生の終着点に気付かないまま、人生を終えるだろう。
ラナは外に出て、ガラス張りのビルディングに向かい合った。
そしてスカートの裾を持ち上げて、ゆっくりとお上品に頭を下げる。
刹那、広がるのは炎だった。
「それでは、皆様ご機嫌よう」