テッドモニトモ
テッドモニトモ
そう、ラナが唯一他人に干渉されたのがこの時だ。
自分の思い通りに動かない人間がそこにいたのだ。
いや、人間じゃない。
人の形をした、死神だ。
お姉様はこれから起こるラナの不幸を全て背負った。
そして、ラナに残ったのは無限に溢れ出る幸福だけ。
この広いフロアの中を普通に歩き、騒がしく書類の整理をする人間達が死んでも、ラナは幸福のまま。
なぜならば、人が大量に死ぬほどの悲劇が起ったとしても、ラナはたった一人生き残れるから。
何度もそんな奇跡を体現しておいて、どうして不幸だなんて思わないといけない?
エレベーターで会ったお姉さんが声を掛けてくる。
お父さんは見つかった?って聞いてきたんだ。
ラナは大きく頷いた。
「散歩!」
今のコード07は会社見学をする女の子。
在りもしないパパの存在を疑わない人間達を見て、ラナは内心蔑んだ。
なんて哀れなんだろうか。
なんて不幸なんだろうか。
ラナには不幸であり続ける理由がわからない。
だから、お姉様が不幸を背負った意味がわからない。
何を思ったのか、何を求めたのか、何がしたかったのか。
白いワンピースを着て、黒い髪を靡かせるお姉様の考える事はわからない。
『でもきっと、付き纏われるその不幸だけは君が背負うべきものだ』
お姉様はそう言った。
そう、ラナに残された最後の不幸だけは、お姉様で代用できるわけじゃない。
これはコード07が付き合って、向き合って、愛していかなくてはいけない刑なのだ。
ラナにはもう、これ以上の不幸は背負えない。
だからお姉様が自身の幸福を削ってでも、献身的に不幸を背負う理由が見えない。
この幸福を持ってしても、物理的な視力を上げたって、見えないんだ。
「行き当たりばったりだけどぉ~、ここが一番怪しいかなぁ~?」
ラナは大きな扉の前に立って、それを開放した。
中にある歪な資料の山は、きっとこの会社の不幸の集合体。
理不尽な不幸なんかじゃなくて、人為的な気持ち悪い不幸だ。