来世
俺は死んだ。
死んでしまったのだ。
「はっ!」
そして目が覚めた。
世界は一変する。
目の前に整った顔。
シキミハラ・ヨイナはすべてを虜にするような優しい微笑みを浮かべた。
「思いだしたん?」
俺、いや、私は彼女の天使の笑顔をみて、不条理な怒りに囚われた。
「今のが、ワタシの前世の記憶ですか?」
頭がクラクラする。喉が渇いた。
ヨイナは無言で首肯した。
「あまりにも突飛すぎて……にわかには信じがたい話、ですね」
「死にかけたルゥナ・シュィーニィーの喉元にこの転生ナイフを突き立てたんよ」
掲げられたのは、まだワタシが青年だったころちらつかされたナイフだった。
「一か八かだったけんど、うまく転生出来てよかったんよ」
「疑問なんですが、なんでわざわざ前世の記憶を甦らせたんですか」
私は自身の青い髪を手櫛で整えた。思考をまとめる時の癖だった。
「ルゥナは賢者やから、異世界の知識を持っておいた方がええと思ったんよ」
ヨイナは手に持った『赤い石』を掲げてみせた。
自分の前世が分かるとかいう眉唾な聖遺物だったが、効果は本物だったらしい。
それにしてもなんてことを思い出せるのだろう。この天使は相変わらずマイペースだ。
「なるほど。お蔭で一つまた真理に近づけました」
とりあえず、疑問にたどり着くことができた。
正直に言うなれば、私は女の子が好きだ。男の人に興奮したことがない。
そりゃそうか。前世は男だったんだもん。可愛い女の子を見て、優しい気持ちになるのは間違いじゃなかったんだ。
だけど、性欲が沸いてくるわけじゃない。ムラムラしない。
結局体は女だから、同姓には興奮しない。もて余した性欲の正体が今日はっきりした。
「最後に一つお願いしてもいいですか?」
「なんよ?」
「殴らせてください」
八つ当たりだ。
人生が失敗なんてあり得ない。
私の前の人生を取り返すため、今度こそしっかりやってやろう。




