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女って怖い。

そう思っていたのは今は昔、小学生の頃だった。

もちろん、今は怖くないかと聞かれたら、即座に怖いと言い返せる自信がある。

しかしそれは小学生の頃のものとはまた違ったものであり、純粋に怖がっていたあの頃と比べれば、色々と理解出来るようになってきたが故の怖さである。

同時に僕は、女という異性に対して、人並みの、もしくはそれ以上の興味を抱いてもいる。

全く理解できないもの、未知への興味、と言うと大袈裟かもしれないが、まあ、それに近いものを僕は小学生の頃からずっと抱き続けていたのである。

それ故に、今こうして彼女といるときに色々なことを聞いてみたくなるのは当たり前ということが分かるのである…。


「だからって聞かれて話したいかは別だよね」


「まあね、あんまり話したいことではないよね…」


彼女も色々な経験をしてきているようだ。

まあ、彼女と言っても僕と付き合ってはいないのだが。


「話せないわけじゃないけど、そんなに聞きたいの?」


「うーん、まあ、純粋な興味と言いますか、学術的興味と言いますか…」


「…なんか思ってたのと違う」


「いや、無理に聞くつもりはないよ。ただ、今までこんなに女の子と仲良くなったことってなかったから、普段女の子がどれだけ大変かとか、辛いかとか、ちょっと聞いてみたかったんだよね」


「そうなんだ。じゃあ話さないでおくね」


「…うん」


…話さないんだね。

…そこまでなのか。


「まあねー、私のことはあんまり話したくないけど、みんな何かしら経験してるとは思うよ?」


「やっぱりそうなんだ…」


その声は明るいながらも、複雑な感情がにじみ出てくるようだった。


「そりゃね。女子は男子と違って陰で色々あるからねー」


「陰で…」


「うん、陰でね。いじめなんかは特に陰湿だよ。誰でも経験あると思う。私はそういう陰でやるとかは嫌いなんだけどさ」


「そうなんだ…」


「それに比べて、男の子って本当に呑気だよね」


「純粋に単純なんだよ」


「まあ、そうなんだろうね。良い意味でも悪い意味でも分かりやすいよね、男の子って」


「あははは…。返す言葉もありません…」


力なく笑っては見たものの、場の空気は変わらなかった。

彼女、女の子から見た男なんて、本当に呑気で能天気に見えるだろう。

…自分でもそう思う。


「…でもね、私は男の子が羨ましい」


「へぇ、意外」


良い意味で女の子らしい彼女がそんなことを思うなんて、ちょっと意外だ。

…しかし、ある意味当たり前なのかもしれない。

自分が嫌いな事をする人と同じ(せい)を持っているということは、同じ(さが)を持ちうるということでもあるのだろう。

それ故の同族嫌悪が彼女をそういう思考へ導いたのかもしれない。


「そうかな?でもそう思いたくもなるよ、色々経験すると」


「そういうもんか…」


「うん、そういうもん」


今までこういう話を直接聞いたことがなかったのが本当に悔やまれる。

なぜ僕は、男はこんなに鈍感なのか。

考えはまとまらない。

まとまらないながらにも、彼女に声をかける。


「一応男だって、大変なこともあるんだよ?」


なんとなく、自分のことについて話したかったのかもしれない。

彼女ほどではないにせよ、僕もたくさんのことを見て、聞いて、経験したのだから。


「へー、例えば?」


「た、例えば、ねぇ…」


そう言われると、やっぱり大したことがないような…。

いや、まだ僕自身に話す勇気がないのかもな…。


「ーーーやっぱり大したことないかも…」


「なんーだ、大したことないのか」


「ないね。比べちゃうと」


だから、こうやって当たり障りないことしか言えない。

僕も彼女のと同じだ。

話せないことは誰だってある、ということなのだろう。


「まあ、これを機に少しは私たちのことを気にして見てくれると嬉しいかな」


「それはもちろんだよ」


「ふふ、頑張ってね」


そう言うと彼女はこちらを向いて微笑む。

そして再び正面に顔を向けなおすと、さらに言葉を続ける。


「ここでこうしてるのさ、すごい落ち着くんだよね。居心地がいいというか、ちょうどいいのかな。私は女で君は男の子だけど、それだからこそ、こういう関係を作れたのかなって思うんだ」


大学の敷地内にある小さな木陰の小さなベンチ。

そこに並んで座る僕ら。

僕は左側で、彼女は右側。

程よい距離感。

そして僕は彼女を見る。

穏やかな風に吹かれ、彼女の肩までかかった髪が揺れる。

会った頃に比べて、随分と伸びたなぁ。

ふと、そう思った。

彼女は続ける。


「私、女友達もまともに出来ないから、男の子の友達なんて絶対出来ないと思ってたんだけどね」


「それは、僕も一緒だよ」


辛うじてそう返す。

彼女はそこまで一人ぼっち、というほどでもないように見えるが、本人はそうは思ってない、ということなのだろうか。

確かに僕自身、話せる人、つまり知り合いは多いが、友達とはっきり呼べる人はあまりいない。

そう言う部分が僕たちは似てる、のかもしれない。


「君はそんなことないでしょ」


「さあ、どうかな…。僕は本来人見知りだからね。初対面だったら女の子はおろか、男子と話すのだって苦手な方だよ」


「確かに、君にはそういうところあるかもしれないけどーーー」


「だからさ」


僕は少し語気を強め、彼女の言葉を遮る。


「こうしてこういう話を出来る女の子の友達が出来て、僕は本当に嬉しいよ」


僕はちらりと彼女を見る。


彼女は穏やかな表情でこちらを見ていた。


「私も、そう思う」




ひどく静かに時間が流れる。

こうした時間を、あれほど怖がっていたはずの女の子という存在と過ごしているのかと思うと、感慨深く、また、人生の有り様についても考え出したくなってくる。

まあ、彼女は別の意味で色々怖いが、それも含めて彼女だ。

僕はこの時、彼女という存在の新しい部分を垣間見たような気がした。

そしてもっと、彼女について知っていきたい、そう強く思ったのだった。

それは僕が女という存在に対して感じる、新しい感情だったのである。

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