運命の曲がり角
道路の曲がり角は運命の出会いの場。
学校に遅刻しそうになっている少女が、パンを咥えて走り、ちょうど曲がり角で出会い頭にぶつかる。そこからの恋愛に発展……。
なんてことはないだろうか?
ある日僕は学校に遅刻しそうになっていた。
朝食を食べる時間がなかったので、パンを咥えて家を出る。
いつもはゆっくり歩いてるこの道も、今日は走って通過する。
そして曲がり角に差し掛かろうとしていた。
「ちょっと待て」
僕は慌てて急停止した。
これは運命的なことが起こるのではないか?
その運命を僕が全力疾走で相手を怪我させてしまうかもしれない。
なんたって相手は女の子なのだ。
そこいらにいる男なら構わないが、女の子の身体は極めて脆い。
そう思い、僕は少し走るスピードを緩める。
もうすぐで僕が曲がるっていうのに、周りから足音が聞こえない。いや、僕の鼓動の音が大き過ぎるのだ。
まあ、僕も学校に遅れる訳にはいかない。軽く走りながら角を曲がる。
今日は危なかった。もうすぐで学校に遅刻するところだった。
朝起きるのが遅く、朝食を食べる時間すらなかった。
だが、パンを咥えて走りながら登校するということは出来た。そして結果、漫画の世界のように楽に走れるものではない。呼吸は乱れまくって、走り辛い。僕は途中から手にパンを持って走っていた。
一番重要なのがここから……。あの曲がり角での出来事だ。これは僕の一生を左右するほどの力を持っていたに違いない。だが、結果は……、少女にぶつかることもなく、というより、曲がっても僕一人しかいなかった。
現実で漫画のようなことは起きなかった。
今日の僕はただ焦って登校した普通の高校生だった。
次の日、僕はまた遅刻をしそうになっていた。
今日の朝食はご飯もの。途中で食べれるようなものはなかった。
仕方なく僕は何も食べずに家を出る。
昨日は期待をしてワクワクしていたこの道も、今日は冷静に「そんなことは起こるわけない」と呟きながら走っている。
そして曲がり角に来た。今日は少しスピードを緩めて曲がる。
理想が現実になるわけがないと考えながら。
ドンッ
「⁈」
僕は曲がった瞬間、誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
顔も見ずに僕は謝る。そして手から落ちてしまったバックを広い顔を上げる。
「あの、こちらこそすみません。よそ見をして歩いていて……」
そこには金色の髪を風に靡かせている碧眼の少女が立っていた。
「え、い、いえ、僕が不注意だったがために……」
彼女は僕とぶつかり、横にある塀に少し身体が当たったのだろう。肩の所に少し、コンクリートの粉が付いていた。
「大丈夫ですか?」
僕は彼女に尋ねる。
彼女は全然平気ですと言う。そして学校に遅刻してしまうのでと言ってすぐにさって行った。
それから毎日僕は曲がり角に来るたびに思い出す。また、あの少女が現れてくれないかと。
あれから彼女には一度も会っていない。いや、会う方が難しいだろう。あれは偶然が重なった結果なのだ。
一年ぶりだろうか。僕は遅刻ギリギリに家を出た。理由は単純、寝坊だ。
道路を走って学校に向かう。この時僕は彼女のことしか頭になかった。また、あの角でぶつからないかなと。
ドンッ
やっぱり、僕は曲がり角でぶつかった。
「あ」
顔を前に向けるとそこには……。
「また、ですね」
ニコッと微笑んだ彼女の姿があった。
それから僕は彼女はよく曲がり角で会うようになった。僕が意識的にずらすとともに、彼女もそうしているのだろう。
少しずつ、少しずつ、時間を重ねて仲良くなった。僕は彼女に一目惚れし、また、彼女も僕のことを好きになっていたかもしれない。
僕は彼女と一緒にいる時間が一番好きだ。
僕の人生の分岐点となったのは、あの曲がり角だ。