人魂サプライズ
僕たちは夏のある日、肝試しと称して、夜の学校に忍び込んだ。
そこで見たものは、人魂。
校舎に入る前に三階の廊下をゆらゆら動く三つの赤い玉を見たのだ。
それを確かめるべく、三階に行ってももう人魂の姿は見えなかった。
僕たちの学校には何かが住み憑いているのだろうか……。
「おい、あの時のあれ、マジだったよな?」
僕の友達Aが肝試しをした時のことを参加していなかったクラスの男子に言いふらしていた。
「マジマジ、そこにいた俺たち全員が見たんだぜ?」
とBも続く。
「うん、僕もしっかりこの目で見たよ」
あの時学校に忍び込んだのは僕とAとB。そして二人の女子だ。
夏と言ったら肝試し。肝試しと言ったら男女のペアということで女子を呼んだのだが、一人は用事が入ってしまい来れなくなったのだ。
「でも、あれからCさんとDさん学校に来てないよね……」
肝試しをした直後から、女子二人が突然学校に来なくなってしまったのだ。
「先生は体調不良って言ってるからな」
もう五日は顔を見ていない。
僕の頭の中にはもしかしたら……、なんてことがよぎった。
「まっ、気にする必要なんてねぇって」
Aが肩をポンポンっと叩いて去って行った。
どうだろうか。僕には何かがある気がする。二人が同時に休んでるし、肝試しをしたメンバーだ。
そして僕たちは人魂を見てしまった。その人魂のせいで彼女たちは学校に来れないのではないか?
数日して今度はAが学校に来なくなった。
「ねぇ、これってちょっとやばくない?」
僕は隣の席にいるBに言った。
「確かに……。これは普通じゃないな……。けど、たまたまかもしれない。明日になったらAは来るだろ」
流石にBも少し顔が強張っていたが、直ぐに頭の中を切り替えたのだろう。すぐにいつもの顔に戻っていた。
次の日、Bが学校を休んだ。
「えーっ、この頃体調不良が多いがみんな注意しとけよ」
担任が軽く言ったが、僕にとってこの事態はかなりまずい状況だ。
肝試しをしたメンバーが一人ずつ確実に学校に来なくなっている。
これはたぶん、いや、確実にあの人魂に関係しているのだろう。
最後は僕だ。皆はもういない。僕しか残ってないのだ。
ダメだ、考えないようにしなければ。考えると自我を保てなくなる。大丈夫、僕は大丈夫だ。落ち着け、皆が休んでるのはたまたまだ。時期が被ったのもたまたまなのだ。
そう思っていないとやっていけない。
僕は家に帰るといつも一人だ。
両親は共働きで、帰りも遅い。普段はそれを何とも思わないが、今日は違った。
次は僕。最後は僕。
いやいや、考えるな。考えたら悪い方に進むだけだ。
ギギーっとドアが開く音が聞こえた。
音がしたのは一階。僕の部屋は二階にある。だが、音の正体を確認しようとは思わなかった。
僕は布団を頭から被って、何も聞こえない、見えないようにした。
これで少しは安心できるのだ。
「サイゴハ、オマエダ……」
耳元で声がした。いや、たぶん自分の頭が勝手に作り出した声だ。そう思う、そう思いたかった……。
「サヨナラ……」
何かに布団を引っ張られる感触があった。
「僕は違う!何もやってないし、何も見てない!」
布団の引っ張る強さは増すばかりだった。
「ごめんなさいごめんなさい。もうあんなことしません。だから許してください」
僕は必死に命乞いをした。
「おーい、起きろー」
目を開けるとそこには肝試しをしたメンバーが立っていた。
「どう?怖かった?」
Cさんが僕に言った。
「え?どういうこと?」
僕は今の今まで襲われると思っていたので、目の前にある状況が理解できなかった。
「サプライズぅ」
とBが言うと、
「「「「大成功!」」」」
と四人同時に言った。
「え、え?」
頭の中が真っ白だ。
「お前、いつも誕生日は一人なんだろ?そんなお前に対して壮大な計画を立ててこの怖いサプライズをしてやったのさ」
四人の笑いは少しの間続いた。
なにはともあれ全員が無事で良かった。