西棟二階のトイレ
『トイレの花子さん』は多くの人が知っているだろう。学校のトイレについてだ。
僕の通っている学校にももちろん、その手の噂は絶えない。
誰かが実際に見たとか、友達が被害にあったとか……。
僕にとっては正直どうでも良い。
僕は自分に被害がなければそれで良いし、トラブルには巻き込まれたくない。
こんな僕には、友達なんていない。
学力も運動神経も中の上。普通よりも少し良い程度で、目立つほど凄くはない。
別に目立ちたいわけではないし、普通に生活出来れば僕はそれで良い。
「なあ、今度『トイレの花子さん』について調査しようぜ!」
なんて声がクラスのどこからか聞こえてくる。
この学校に伝わる噂。実際に見たことはないが、かなり信憑性が高い。
証言がとても明確で、話している時の顔もかなり怯えているのだ。
それを調べたいという輩はどこからともなく湧いて来る。
今回のターゲットは恐らくあいつになるのだろう。
「おっ、いいね。それ乗った!」
何人かが噂話に釣られる。もちろん僕には関係ないが……。
次の日、クラスの男子の様子が少しおかしかった。
昨日は『トイレの花子さん』について話していた連中だ。
多分昨日行ったのだろう。噂されている西棟二階のトイレに……。
僕たちの使っている教室は東棟三階。西棟は三年生が使っているので、普段は用事がないので通ることすらない。
クラスの男子はわざわざそこへ行き、確かめてきたのだろう。ご苦労なこった。
「あれ、マジでやばかったな……」
「ああ、もしかしたら俺たち、死んでたかもしれなかったし……」
どうでも良いような会話が耳に入ってくる。
死ぬ?そんな馬鹿な話があるわけない。『トイレの花子さん』なんて、誰かが作った噂話だろうと思っていた。
今日は親が帰りが遅いと言ったので、学校で勉強してから帰ることにした。
教室は一人だと淋しいので、西棟にある図書室に行った。
図書室は、勉強好きなのか読書好きなのかわからない奴らが何人かいる。もちろん話すこともないので、無人の教室より集中しやすい。周りに誰かがいないとサボってしまう癖があるのだ。
「今日は、ここまでかな」
適当にやる範囲を決め、さっさと勉強に取り掛かる。
集中していると時間はあっという間に過ぎてしまった。
周りにいた人も数人いなくなっている。
時計を見ると午後七時の三十分前を指していた。
「そろそろ帰るか」
帰りの支度をし、図書室から出る。
その時、急にお腹が痛くなり、ダッシュでトイレに向かった。
図書室は三階にあるが、男子のトイレは二、四階にしかない。なので僕は二階のトイレに向かった。
コンコンッ。出入り口から一つ目と二つ目はドアがしまっていた。
三つ目は少し嫌な感じがする。
噂話は信じていないが、『トイレの花子さん』は三つ目にいるなんて耳に挟んだからだ。
ギュルルル。
「ええい、知るかそんなもの!」
僕は腹痛に押されて三つ目に入った。
「ふっー、快便快便」
大便をし、スッキリした僕は水で流そうとした。
「ヨクキタ、ショウネン。オマエハ、イイヤツダ……」
何やら遠くで声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
「オマエノイノチ、イタダク……」
僕はなぜ便器の中に注意をしなかったのだろう。なぜ三つ目に入ってしまったのだろう。腹痛にならなければこんなことには……。
この学校には奇妙な噂があった。
西棟二階のトイレには『トイレの花子さん』がいると……。
数年前、ここの生徒が一人行方不明になった。
西棟二階の出入り口から三つ目のトイレに彼の鞄があった。恐らく、彼は大便をしていたと予想される。
しかし、そこからの消息が全くわからない。
彼は今、どこで何をしているのか。また、もうすでにこの世には存在しないのだろうか。学校に伝わる『トイレの花子さん』は多分、噂から現実になったのだろう……。