理科室の人体模型あるある
学校の理科室にある人体模型が夜になると勝手に動く……なんてことは聞いたことがあるだろう。
学校に伝わる七不思議の一つだ。
誰が作ったかはわからないが、今や定番中の定番。本当に誰が作ったのだろう……。
今夜また、生徒が学校で肝試しをするらしい。
昼の時間に話をしていたのを風の噂で聞いた。
「肝試しって言ったら、理科室は欠かせないよね」
クラスの女子が言う。
「まあ、定番だからな。夜の理科室楽しみー」
肝試しを提案した男子が女子に向かって言った。
きゃっきゃっと騒いで昼休みが終わる。
現在の時刻は、二十三時。そろそろ生徒が理科室に来るだろう。
「ってか、思ったり怖くねぇな、夜の学校」
廊下を歩きながら喋る男子の声が聞こえる。
「充分雰囲気はあるけどねー」
それに女子の声が答える。
だったらお前らを恐怖に落とし入れなければならないか……。
学校の七不思議、動く理科室の人体模型。
「ま、怖くないと思うけど、締めの理科室突入ー!」
男子の声と共に、理科室のドアがガラガラと開く。
「えっ、ちょっと何⁈」
女子が下を見ると白い煙が床を覆っている。
「はっ⁈え、どうなってるんだ⁈」
男子もあたふたしている。
理科室という教室には様々な物がある。その中にある一つの物がこれだ。
「ちょっ、こ、これ、いきなりやばい感じじゃない?」
足を一歩踏み入れた所で止まっている女子が言った。
「ま、まま、まあ、大丈夫だろ」
そう言って男子はズコズコ奥へ入って来る。
そろそろ私が動こう。動く人体模型のショーが始まる。
「おっ、うわっ⁉」
垂直に立っていた所から私は前に倒れた。
この理科室にいる男女二人以外いない夜の学校に音が響き渡る。
「きゃっ!」
女子の短い悲鳴も聞こえた。
だが、ショーはここから始まるのだ。
何をするにしてもまず立たなければ……。
ギーっと音をたてて私は立ち上がった。
「は、はあ⁈なっ、何で人体模型が……」
そう、私はその顔が見たかった。人の恐怖する顔。何とも言えない幸福感。最高だ。もっと、もっとその顔を見たい。
「こ、これ、マジでやばくない?早く理科室から出よ?」
女子がその場で立ち尽くしながら言った。
「そ、そうだな……。これはちょっと……」
男子も後ろを向いてドアに向かい走る。
だが、それを私が掴んで止めた。
「はっ、えっ、な、何⁈」
慌てて男子は振り向こうとする。
私はその行動をする前にドアの前に立ち尽くす女子に向かって走る。
「えっ、ちょっと、来ないで!」
言葉では強気だが、膝はガクガクと震えている。
バンッ!と理科室のドアを閉めて二人を閉じ込めた。
反対にもドアはあるが鍵がかかっている。それに私が走ればすぐに追いつく。
「おっ、おい!マジでヤバイぞ!」
男子が大声で女子に言った。
夜の学校に忍び込むからこうなるのだ。軽い気持ちで肝試しをするものではない。
「ど、どうするのよ!」
女子も男子に対して大声で問うが、ストンッと膝から崩れてしまった。
「どうするもこうするもないだろ!とにかく校舎から出るぞ!」
男子は勇敢にも私に向かって走ってくるが、その力は私を突き飛ばすには弱すぎる。
男子を吹き飛ばしてドアを堅守する。
「もう!どうすればいいのよ!」
ついに女子はネジが外れた。その場でただ泣いている。
その時私はやりすぎたかなと思ったりもした。私は人を怖がらせるのは好きだが、優しい心も持っているらしい。
「おい泣くな!泣いても意味ないぞ!何をしてでもこっから出るんだ!」
男子の心はまだ折れない。本当に強い子だ。何度も何度も私に向かって突進をする。
何度跳ね返しても向かって来る男子に少し心を許そう。私も遊び過ぎは良くないな。
そう思って私は力を抜き、いつもの状態に戻った。
「うわっ⁉」
突進してきた男子が私もろともドアを突き破る。
「な、何だ?急にこいつの力が……。ま、まあ、いい。おい、行くぞ!」
女子に声を掛けて立ち去ろうとする男子。
「ダメ、腰が抜けて……」
だが、女子は立てない状況でいた。そこで男子が女子をおんぶしてこの理科室から去って行ったのだ。
やっぱり少しやり過ぎた感が出てしまった。自分の仕業でないといえど、学校のものを……。
私は外れたドアをはめ、煙に使ったドライアイスを元の場所に戻した。そして私もいつもの場所に……。
次の日、私の噂は学校中に広まっていた。たった一夜の出来事が大きな問題へと。
もちろん教師陣は生徒の話は全く信じず、私がこの学校からいなくなることはなかったが、理科準備室の奥にはしまわれた。
学校の七不思議に理科室の人体模型をいれたのは正解だ。
誰が考えたかはわからないが、私は七不思議の一つだ。