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Code:SECRET  作者: いけめん
13/14

天地逆転

僕と佐々木さんは目的地の手前の駅で途中下車をした。つまるところ放課後の寄り道というわけだ。

一見思春期男女の甘酸っぱい青春だが理由としてはある意味かけ離れている。僕が佐々木さんを極限まで追い込み泣かせてしまい、やむなく降りたのだ。


「……ごめんなさい、取り乱してしまって」


ホームに設置されている椅子に座った佐々木さんはようやく落ち着きを取り戻したようだ。

ここで言葉の選択を間違えたらまた泣いてしまう。まるで薄氷の上を歩くかのように慎重に言葉を選んで話す。


「こっちこそ責めたてるようなことしてごめん。それで、結局何をやらかしちゃったの?」


うぅ…と彼女の頭がまた垂れ下がっていく。チョイスを間違えたかと慌ててフォローに回る。


「いやいやそういう意味じゃなくてさ、もしデータを消しちゃったとかなら僕の力でも復旧できるかもしれないんだ」


「……誰にも言わないでもらえますか?」


上目遣いでこちらを見てくる佐々木さん。こんなのを見せつけられて断る男がいるのだろうか。


「絶対に言わない。言ったら僕まで怒られそうだし」


「…………本当に言わないですか?」


「僕は口は固い方だから大丈夫さ。天地神明に誓って誰にも言わないよ」


「……………………本当に?」


うんうんと彼女をなだめる。なんだか佐々木さんとの距離が縮まったなあと思う。


「それで、何があったの?」


「実は、その……私、あの黒い箱の中に入ったんです」


「うん………………えっ、それだけ?」


「こ、これだけじゃないですよ!……問題は、その後、なん、です…」


彼女の言葉は後ろに行くにつれてしぼんでいく。

お前は他人の気持ちを考えるということができないのか中学時代の担任の先生に言われたことを何故か思い出した。


「その問題ってどんなの?やっぱりデータを消しちゃったとか」


「データは無事です………でも、あの箱に入ってから、その、少し、目がおかしく

なってしまって…どうしたらいいのか、分からなくて」


彼女の告白に自然と息を飲む。悩み自体は大したことないが、俯いている彼女の姿、スカートを握りしめる小さい手、彼女の声の張りやトーン、その全てが彼女の抱えていたものの大きさを僕に伝わってきた。

彼女は真面目ゆえ幻覚が出ていることより、自分のしてしまったことを悩んでいるのだろう。

真面目なことは優秀であると同時に、自分が過ちを犯すと、その事を解決しようと思う前に、自分の過ちを考えすぎてしまう。

そんな彼女の葛藤に気づかず、心理戦などと遊び半分で考えていた僕の愚かさは計り知れない。

だからこそ僕がその問題の解決の手助けをしてあげなければと思う。幸いにも症状は僕と似ている。根本的な解決は出来ないかもしれないが彼女の不安や重責を減らしてあげることは出来るかもしれない。

それに女の子を泣かしてまで得た情報なんだ、最後まで責任を取らなければならない。

優しく、なるべく相手を傷つけないように、と意識しながら彼女からその時の状況を聞き出していく。


「黒い箱の中に入った時、外部通信室に立ち寄った?」


「外部通信室は志賀君の事があったので入りませんでした。私が入ったのは多分、コントロールルームです」


「コントロールルーム?」


コントロールルーム。僕の記憶が正しければの話だが、僕が謎の結晶塔に触ったところだ。

だが今はそれよりも気になることが一つある。


「多分ってどういうこと?ホノカさんの資料に書いてあった構造があったし場所は確認できたと思うんだ」


「多分というのは、その中が変だったからです」


「変?何か変わった物でもあったの?」


「私が見たのは、何と言えばいいか、その、大自然でした」


「大自然?CONNECTでの接続が想定されてないのにそんなめんどくさい設定をするのかな」


「だから、"多分"なんですよ」


そう言って彼女は再び俯く。

選択を誤ってしまったのかの焦るが彼女の様子を伺ってみると不安というよりどう言ったらいいのか分からない、といった感じであった。

状況をもう少し具体的に聞き出してみるのがいいのかもしれない。


「そこがどんな感じだったかなるべく具体的に教えてくれないかな」


「えっと、他の空間では重力がなかったのに、そこだけ重力が働いてました」


「なるほど…それで、中の感じはどうだった?地面の感じとか、空とか、分かる限りのことを挙げてみて」


「そうですね…地面は色々な草花で覆われてたんですけど膝丈くらいでした。なんというか、雑然としてるけどそれがかえって花の美しさを表現している感じというか……空は今まで見たことのないくらい綺麗な朝焼けがずっと、いつまでも続いてました」


「朝焼けか…ん?夕焼けじゃなくて朝焼けなの?」


「それは…感覚というか、何故かそう感じたんです。どこか遠くの暗いところから顔を出すお日様、それに照らされて全てが輝いてる光景を見て、これは朝焼けなんだなと理解しました」


僕の記憶とはまるで正反対の証言に無意識に頭を掻く。僕の見た無機質でどこか未来的な光景と彼女の見た大自然、共通点は今のところない。


「あと、その部屋の中心には大きな樹が立っていました」


「大きな樹?それはどんな感じ?」


どう言えばいいのでしょうか、と彼女は空を仰ぎ人差し指を顎に当てる。しばらくして何かいい例えを見つけたのか再び口が開かれる。


「そうですね、例えるなら塔みたいな感じでした。まるで空を支えるくらいに高くそびえ立っていました。それで、その樹に蔓がまとわりついてました。その蔓が地面にずっと走ってました」


僕の見た光景とどことなく似てる気がする。

塔みたいな感じの樹、それにまとわりつく蔓、ものは違えど僕の見た結晶の塔に走る線という本質的な構造は同じなのだ。

ここでふと、ある一つの、絶対にありえない可能性が脳裏をよぎる。その可能性を確固たる事実とする為、彼女にある質問をする。


「あのさ、その樹に触らなかった?」


「はい、触りましたけど…」


案の定帰ってきた答えはYESだ。おそらく佐々木さんは次の質問の返答も多分同じだ。


「もしかして、触った瞬間に蔦が体に絡みついてこなかった?」


「はい、絡みついてきました」


「もしかして、そこからどんどん情報が流れ込んできたりしなかった?」


「ええそうですけど…なんで知ってるんですか?」


やっぱりそうだ。彼女は、いや、僕はあの時コントロールセンターに立ち寄っている。


「実はさ、情景こそ違うけど僕の見た幻覚の内容と全く同じなんだよね」


「本当ですか?じゃあもしかして遠藤さんのチャットも…」


「ああ、僕には『Hello world』としか見えないんだ」


ええっ!と彼女は驚く。ただその顔からは安堵の表情が少しだけ見えた。

彼女の重荷を少しでも和らげられてよかった、という気持ちとともに、この可能性が本物なのかどうか、疑念が心に広がっていく。




結局、いつもより一時間遅くけやき探偵事務所に着いた。帰りの電車の中で佐々木さんとこのことを正直に話そうと決めたのだが、いざ目の前にするとやはり緊張する。

佐々木さんと顔を見合わせ、覚悟を決めて扉を開ける。


「ただいま戻りましたー…ってあれ、誰もいない」


部屋の中には誰もいなかった。いるとすれば所長が暇な時に愛でているサボテンのサボ太郎が机の上にポツンと置かれているくらいだ。

せっかく幾重にも張り巡らせた緊張の糸がぷつりと音を立てて切れ、ソファに座り込んだ。それに続くように佐々木さんが向かいの席に座る。


「なんか期待外れだなぁ」


「本当はちょっと安心してたりして」


自然とお互いに笑みが浮かぶ。佐々木さんの表情も本来持っていた可愛らしいものになりとりあえずは一安心だ。

所長が帰ってくるまで自室と化した資料室で一眠りしようかと思ったが、やはり佐々木さんも来ているし、何か話をした方がいいのかななどと考えていると、ありがたいことに彼女の方から話題を持ちかけてくれた。


「あの……所長さんに話すのはいいんですけど、結局これはなんだったんでしょうね」


「ここからは僕の完全な推測になるし、間違ってるかもしれない、おまけにとんでもないときてるけど、聞くかい?」


彼女はコクリと頷く。

僕も所長にこのとんでもない現象を報告するとき怒られないようにある程度の仮説は立ててある。


「遠藤の所属してる研究所は知ってるよね?」


「総合情報研究所生体回路グループ所属、だったな」


虚空から唐突にどこか妖艶さを漂わす声が響く。

びっくりして振り返ると、玄関の方に出かけていたはずの所長が立っていた。

所長は驚いている間に生じた一瞬の隙を突き手で作られた刀を僕達の頭に振り下ろす。

頭が真っ二つになったかと疑うほどの激痛に思わずソファに倒れこむ。


「ぐおぉ…いつお帰りになられたんですか」


「今帰ってきたことくらい分かるだろ。全く、異常があるなら報告をしろとあれほど言っただろ、探偵の基礎の基礎だぞ」


所長は呆れたようにため息を一つつくと寝転がっている僕を奥へと追いやりソファに座る。

突然の登場に気持ちの準備ができてないのか、早くも泣きそうになる佐々木さん、フォローを入れるべきところだと確信し恐る恐る尋ねる。


「あの…いつからこのことをご存知で?」


「隠し事に気づいたのは、ナオに関しては初めてIMLのサーバーに入った後の会議、ユイは宮本が帰った直後のあのやりとりでだよ」


内容が分かったのはその後だけどな、と所長はまたため息をつく。

しかし最初から知っていたということだ。この人には絶対隠し事をできないと考えてると今度は所長から質問が飛んでくる。


「ところでナオ、お前は今回の件をどこまで把握してる?」


「そうですね、結論から言いますと、マサさんとホノカさんが結構やばいですね」


所長は頷くも結構やばいってどういうことだと、僕に話の続きを促す。


「おそらくですけど、今回の件は宮本が関わってますね。僕らをIMLにわざと潜入させ、そして遠藤を調べさせた」


「ちょ、ちょっと待って下さい!なんで私達以外危ないんですか?」


話について来れないからか、佐々木さんが珍しく話の途中に割り込んでくる。

所長は僕にアイコンタクトをとりにきた。どうやら私に説明させろということらしい。


「ユイ、お前はホノカがナオに対して言った言葉を覚えているか?」


「ええっと……ナオ君はお姉さんが嫌になったから家出したんでしょ、ですかね」


「うーん、微妙に違うな」


「微妙も何も正解にカスりすらしてないですよそれ!もういいです、やっぱり僕が説明しますから!」


佐々木さんと所長のボケで場の空気が少しだけ和む。和むのはいいのだが僕の非常にデリケートな問題を笑いに変えないで欲しい。


「ホノカさんは会議の時、『ナオ君は外部通信室でずっとログを漁ってた』と言っていたんだ。だけど僕にはコントロールルームに入った記憶がある」


「はぁ、それが一体どうしたんですか?」


「佐々木さんは外部通信室に入っていないにも関わらず僕と同じ症状が出てる、と言えば分かるかな?」


佐々木さんはやっと気付いたのか目を少し見開いた。

もしホノカさんの記憶が正しければ僕はコントロールルームに入っていないことになり、佐々木さんと同じ症状が出ていないはずだ。

しかし現実として僕の目に映るのは「Hello world」の一文のみ。これが表すことはただ一つ――


「もしかして…間違っているのはホノカさんの記憶?」


そういうことだな、と所長は頷く。

だが佐々木さんはまだ納得していないようっでなおも食い下がる。


「で、でも、ホノカさんが間違った記憶を持っているからって、やっぱり私達の目や記憶がおかしくなったことには変わりないんじゃないですか?」


「じゃあ決定的な証拠を一つ。ユイ、君は宮本のことを何処まで知っている?」


「えーっと、本名は宮本修、情報省国内情報局総務課の課長で、その、品の良さそうな、中年の、おじさん、です…」


佐々木さんは自身が対象の情報をきちんと覚えていないと判断したのか動きが止まった。

そこから何かを感じ取った所長は僕に耳打ちをしてくる。


「おいナオ、さっきもこんな感じで泣かしたんだろ」


「えっ、分かるんですか」


「彼女の目元辺りをよく見てみろ、崩れた化粧の落とし残しのせいか、若干黒くなってるだろ。駅のトイレかなんかで急いで直したんだろうな」


「……そこまで分かるなら泣かすようなことしないで下さいよ。落ち着かせるまでに結構時間かかったんですから」


ほーん、とよく分からない返事を返してくると、何を思ったか正面で未だに困った顔をしている佐々木さんの方を睨みつける。

その圧倒的な眼力に気圧され彼女は再び号泣フェイズへ移行の準備を始める。

これ以上見ているのは忍びない。


「大丈夫、僕も、というより所長以外全員何も知らないから」


「えっ、そんなことはないと思いますけど」


「宮本が訪ねてきた後、ホノカさんが宮本の調査を一週間やってたけど、思い返してみれば僕たちはその報告を聞いていないじゃないか」


「ああそういえば聞いてないかも…あれ、じゃあ宮本さんは一体何者なんですか?」


「宮本の肩書きは合っている。私も昨日から調べているが奴はどうやら総情研と繋がっているんだ」


所長は僕に黒い箱を取ってくるよう命じる。

黒い箱という言葉を聞いて佐々木さんが怯えた表情になるが今はそれに構っている暇はない。

黒い箱を応接室に運び入れ、パソコンに繋いで所長にバトンタッチをする。

所長がしばらくパソコンをいじくるとあるファイルがモニターに映し出される。

それは遠藤がIMLのサーバーに仕込んだプログラムであった。

僕と所長はこれが何か分かるのだが、こういった方面に明るくない佐々木さんの首が傾く。


「これは言ってしまえば、特効薬みたいなものだよ」


「特効薬?なんのですか?」


「宮本が仕掛けてきた物のだよ」


どうやら僕の例えが悪かったようで、佐々木さんの頭の上には相変わらずハテナマークが浮かんだままだ。

見兼ねた所長が僕のフォローに入る。


「宮本は我々に仕込んできたウイルス、それを対処するためのプログラムだ」


「あー、だから特効薬なんですね……あれ、でも遠藤って総情研の人ですよね?それだったらもしかしれこれも遠藤が仕組んだ罠ってこともあるのでは?」


「中々いい読みをしているな、流石私の見込んだ人材だ」


だがな、と所長は否定を入れるとソファを立ち上がり、所長専用席へと赴いた。

サボ太郎に霧を吹きかけると少し乱暴に机の脇を叩く。するとどこがどう反応したのか、応接用の机がくるりと回転し、モニターが現れた。

その画面にはテレビのニュースが映し出されていた。


「どうやらマスコミまでは操作できなかったようだ」


所長は皮肉げに笑う。

報道されていたのはヘリコプターの墜落事故であった。一見なんの変哲もない事故だ。

ただ、光の位置や加減によって影の形が変わるように、着眼点を変えてみればそれは僕達にとって重要な出来事へと変貌を遂げる。

どのような事故が起こったのか、ではなく、誰が亡くなったのか、何故その人が亡くならなければならないのか、という点にスポットライトを当ててみればどうだろうか。

この事故の被害者である遠藤要一は何故ヘリコプターに乗っていたのだろうか?




「うーん、つまり私が何処かでウイルスを掴まされたってこと?」


所長の連絡を受け、急いで駆けつけたホノカさんは不満げに言う。

今までの事実からしてそう考えるのが妥当である。

宮本の調査中にホノカさんがウイルスに感染、それがCONNECTを通してマサさんや所長、それに僕と佐々木さんに感染したというのが大筋だろう。

これは推論だが、おそらく宮本、ないし宮本の所属する組織は僕らをこのウイルスのテストに使ったのだろう。

それを快く思わない遠藤は僕らを誘い出す役を引き受け、対抗策となりうるワクチンをコントロールセンターに仕込んだんだろう。

現在感染元であるホノカさんは所長と一緒に何かやばそうなものを準備していた。不満の速射砲と化したホノカさんの愚痴はさらに続く。


「でもさー、現実にまで影響を及ぼすプログラムなんて聞いたことないんだけど」


「まあ、それは遠藤が遺してくれたプログラムを解析し次第分かる感じだな…調子はどうだねお二人さん」


うぃー、と返事にならない返事を返したのは僕とマサさんだ。解析、と言ってもCONNECTを通していないため画面に映る文字列をひたすら追いかけるだけの作業をしているだけだ。

現在はCONNECTという存在があるため、記述されている言語もConnectという言語に統一されている。

これによって解析用のソフトなんかも市販されているのだが、二、三十年前までは様々な言語が氾濫していたため、解析作業は中々大変だったらしい。

などと、無駄なことを考えている暇はないのについつい考えてしまう。

これほどまで集中力が切れているのは佐々木さんがソファに牡丹の如く座っているからである。

多分皆が同じことを考えているのだろう、それを感じ取った佐々木さんがムッとした表情になる。


「私は大丈夫です。戸締りはしっかりしておくように家の方には伝えたので」


僕達は顔を見合わせ、誰が次の台詞を言うのか目線だけで協議する。厳正なる協議の結果、一番後輩の僕がそれを担うことになった。

こういう役を引き受けるから人の心を読めないとか言われるんだろうな。

再び薄氷を叩いて渡るように言葉を選び、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「あのさ、何かをやめさせようとしてるわけじゃなくて、何もやらないんだなーって、その、なんというか、邪魔というか」


言っている最中にも佐々木さんの牡丹はしなしなになっていく。薄氷は叩いたら割れることを完全に失念していた。

所長やマサさんに助けを求めるもそっぽを向かれる、ホノカさんはダメだ、見たところでどうせ意味深なウインクをされるだけだ。

やはり薄氷は勢いで渡るしかないのだろうか。


「いやいや!違うんだ!そこに座っているのもあれだし何かした方がいいんじゃないかなって!」


「ああそういうことですか!なら料理を作ります!」


そう言うと彼女はキッチンへと向かう。

よくあるシチュエーションだが、大抵クソまずい飯を出されるか、そもそも料理にならずにキッチンが爆発するかの二択である。

これなら僕が作った方がマシなんじゃないかとも思うが、せっかくの女性の手料理なので黙っておこう。

そんなことを考えている間にも解析作業は終わっていた。

画面に映し出されたのは、ぐるぐると回る渦巻き模様だろうか?


「……………なんですかねこれ」


「お前が理解できないものが俺理解できると思うか?それよりこっちを見てみろ」


マサさんは自分の方の画面を指差す。そこにはCONNECTを介すとどのように見えるかを3Dモデルで表示されていた。

そこには真ん中にそびえ立つまっすぐな柱と地面が表示されているだが、それらは全て黒く染り、形もうねうねと秒単位で変化していた。


「……………なんですかねそれ」


「お前が理解できないものを、と言いたいがこっちは大体分かるぞ。117行目から163行目にここに入ってきた奴の深層心理を表示させるように記述されている」


「ああ、だから入った人によって場面が違ったんですか。でも何の為にそんなことをするんでしょうね」


「やっぱり現実にも影響を及ぼすとなると心とかを書き換えたりするんじゃねーの?」


「それは多分違うな」


いつの間にか所長が背後に回り込んでこちらの画面を覗いていた。

エロサイトを見ているわけではないのだがやはり反射的に焦ってしまう。

そんな僕の姿を見て察した所長と、気がつけば増えていたホノカさんが爆笑する。


「そんなことより多分違うってどういうことですか?何か他に思い当たる節でも?」


「そうだな…ナオ、お前はCONNECTがどうやって脳に情報を送っているか知ってるか?」


「たしか脳の表層に弱電流を流すとかそんな感じじゃなかったでしたっけ」


「まあ半分正解といったところだな。CONNECTは脳に張り巡らされた生体回路を誤作動させることによって幻覚を見せているんだ」


「そんな感じでしたね、で、それが今回の内容とどう関係が?」


「時にナオ、催眠術は知っているか?」


「脳の起こす錯覚を利用するやつでしたね」


「それも半分正解と言ったところだな。催眠術はトランス状態に陥った脳の回路がリセット、そこに情報を吹き込むことによってによって起こる現象だ」


そこでだ、と所長は向かい側のソファへと座る。それに続いてホノカさんも座った。キッチンの方を見るとどうやらご飯ができたらしく、テーブルには見た目は完璧なオムライスが並べられていく。

会心の出来らしく、佐々木さんの顔からは自信が溢れ出していた。


「催眠術を応用したウイルス説を提唱させてもらう………それではいただきます」


「そんな馬鹿げた話があるんですかね……いただきます」


「深層心理を引きずり出すことでトランス状態に陥らせたと考えればあり得なくもないか…いただきます」


「私はとにかくいただきまーす」


皆それぞれに一口目を食べ、顔を合わせる。再びアイコンタクトで会議が開かれた。度重なる討議の結果、一番の若輩者である僕が味の感想を任せられた。

覚悟を決めて彼女の方を見ると、どう?渾身の出来でしょ?美味しいでしょ?と言わんばかりの彼女の顔が目に入る。

一回所長たちを睨みつけ、彼女と再び向き合う。

薄氷は走り抜けた方がいいんだよな、と心の中で復唱し、感想を言う。


「あのさあ………これ、オムレツ作るときに塩コショウ振った?」


「いえ、入れていませんよ。一日の塩分摂取量を超えてしまうので」


「じゃあバターは最初にフライパンにひいた……よね?」


「そんなことしたら、脂質の摂取量も超えてしまいますよ?」


「…………………そっかあ」


彼女の頭の上にはハテナマークが浮かんでいた。ここまで善意百パーセントの顔をされると何も言えない。

僕らの表情から何かを感じ取ったのか、佐々木さんも自分のものを一口食べる。


「………………おかしい、でもあれ以上入れたら一日の摂取量が………」


彼女の作ったそれは良く言えば精進料理、悪く言えば無味、つまりは微妙に不味かった。


よんでくれてどうもありがと(・ω<)☆

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