プロローグ〜探偵事務所からの刺客〜
ノリと勢いだけで書くので考証とか一切ないです。
ラブコメは次から始まる気がするからちょっと待っててね
俺も探偵事務所でばいとしたいなあ
時刻は午後十時。暦の上では春の筈だが夜の風はまだ寒さを運んでいる。
目の前には暗闇の中、横の家々から漏れ出る光を浴び朧げに輝く桜が並び、仰げば黒い海に三日月が寂しげに浮かんでいる。いつもはゴミばかりが目に付く川も今だけは月の光と共に流れている。
僕はそんな美しい世界をしばらく歩き、とある家の前で止まる。
愛用している灰色のフード付きカーディガンのポケットから1枚の縦長のガラス板を取り出し、中央にある赤い円に人差し指で触れる。
するとそのガラス板はカラフルに光りだし、幾つかウインドウを表示する。
「反応を見る限り一応家主は"CONNECT"を使ってないっぽいな…しかしその人の近くまで行かないと判断できないってやっぱり不便だよなあ」
不安と緊張に耐えきれず、言わなくていいことを、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
"CONNECT"――インターネットにアクセスする際に使用するシステム。使用するには"CONNECT"に色々と個人情報を登録してIDを取得する必要があるが、ネットショッピングやネットゲームなどの際このIDがほぼ必ず要求されるので登録していない者は少ない。
そんな"CONNECT"を通して、目の前の家に住む資産家の個人サーバーに今からアクセスする。
僕は身を隠すために近くの桜の木の上に登り、フードを被りつつポケットからイヤホンのようなコードを取り出す。ただそのコードの端にはスピーカーではなくシールのようなものが付いている。
コードの端をガラス板に、シールをこめかみにそれぞれ装着する。少し不恰好だが旧世代機なので仕方が無い。
ガラス板中央の赤い円を再びタッチし、"CONNECT"を通してネットに接続する。
刹那、視界が黒く塗りつぶされ、意識を身体と繋ぐ糸がぷつりと切れた。
気がつけば、只々白い地面が延々と広がる空間にいた。上を見れば胡散臭いほどに輝く星が空に散りばめられている。そんな世界には金庫の扉がポツリと浮かぶのみ。
僕の格好もジーパンにカーディガンという格好からグレーのスーツに変わっている。普通では考えられない現象に襲われたが、僕は驚かない。"CONNECT"を通してインターネットに接続するとこうなるのだ。
インターネット上に意識を飛ばすことができる。これが"CONNECT"の最大の特徴だ。
これを使えば視覚、聴覚、触覚など人間に備わる機能でネット上のあらゆる情報を受け取れる。"CONNECT"にスキンを登録しておけば今の僕みたいにネット上では自分の好きな姿になることもできる。
僕のいる、白い床に浮かぶ金庫の扉は"CONNECT"を通さずに見ると白いページにパスワード入力画面がある質素なページになる。
問題はこの扉だ。この向こうには資産家が脱税をしてまで溜め込んだ大量の金があるらしい。こういった汚い金は盗まれても持ち主は警察沙汰にできないだろうというのが僕の考えだ。
万が一警察に通報されても大丈夫なように保険として最近世間を賑わせている"怪盗無限面相"を名乗り侵入するし大丈夫だろ。完璧すぎる計画。やはり天才が考える案には付け入る隙もない。
『そろそろ時間かな……さーて、天才ハッカーの怪盗無限面相様が華麗に侵入しちゃいますよ!』
犯罪を前に怯える自分を鼓舞するためか、自然と語気が荒くなる。
そんな自身の変化に気づかず、早速鍵の解析にかかる。
『んん、この鍵はアドレアル社製かな…海外のは雑だから逆に開けづらいんだよなあ』
僕はパスワードを解析するにが異様に速い。
こうした無駄なぼやきをよそに30秒とかからず"CONNECT"を通して視覚化されたパスワードは解析され、扉は開かれる。通常ではあり得ないスピード故、僕は天才を自称する。
『ふぅ、こんなもんか。まあこの俺様にかかれば鍵なんて簡単に……あれ?』
扉を開けた先には何もなかった。侵入する場所を間違えたのか考えていた時
『ようこそ、怪盗無限面相さん』
凛とした声と共に、星空が剥がされていく。
そこに現れたのは巨大な顔だった。
歳は多分20代後半といったところ、顔は闇夜に佇む桜の様に可憐で何処か儚く、髪は先程見た川の様に長く、黒く、輝いていた。
その顔が僕の全てを監視するかのようにじっと見つめる。彼女はまるで女神だった。
情報世界に君臨する女神の美しさに僕は思わず見惚れてしまう。
『あれ、あの変なお面被ってない…こいつ無限面相じゃないな。まあ侵入者であることには変わりないしとりあえず捕まえちゃうから準備始めてー』
女のその一言でふと我にかえる。
『薄々気づいてはいたけどやっぱりトラップかよ!ふざけんなクソババア!』
緊張と焦りを悟られないように精一杯の悪態をつき、急いで逃げようと振り返る。
しかし先程までそこにあった筈の扉が消えている。
退路を断たれた。
体からネットに意識を飛ばしているはずなのに意識が遠のくような感覚が体を襲う。
『まずい、逃走手段を断たれた。そんな顔をしているぞ少年。』
退路がないなら進めばいいじゃない、と某なんとかネットの様なことを思いつつ扉を開けるために振り返る。
しかしその扉も消え、代わりに見るからにバリバリのヤクザとやけに体のラインが強調されたボディスーツを着た女神が立っていた。
その女は言う。
『大人しく降伏しろ。そうすれば先程のババア発言は取り消してやる』
『取り消すのは発言だけかよクソババア!』
『…………………やれ』
そう女が命じると隣のヤクザが身体中のあらゆる関節を鳴らしながらこちらに近づいてくる。
『ボスはああ見えても中身はピチピチの乙女なんだわ。次からは口の利き方には気をつけろよ』
とヤクザは呟く。
『それも暴言だろ!』
極度の緊張のせいかこんな状況なのに思わずツッコミを入れてしまう。
こんな無駄なやりとりの間にもここからの脱出手段を考えなければ。
ここから逃げる方法はなく相手は恐らくプロ、それも2人。100人中100人が「詰み」と考えるこの状況を突破するにはやはり奇襲をかけるしかないか。
『怪盗無限面相を名乗るならちゃんと下調べくらいしないとなあ。奴は変なお面を被って盗みを働いてるんだわ』
『…フッ、なんで僕が無限面相を名乗ろうとしたか知らないようだな』
僕は余裕綽々を装いつつそう言い放つ。
その台詞を聞いたヤクザとその後方の女神の疑問の顔が驚愕の感情で塗りつぶされる。
それもそのはず。何故なら僕は目の前の女神へと姿を変えたのだから。
僕が天才ハッカーを、怪盗無限面相を名乗ったもう一つの理由。それは自分のIDとスキンを一度会った相手のそれと全く同じにできることにある。世間で天才ハッカーと呼ばれる怪盗無限面相と同じことができる。故に僕は天才を名乗るのだ。
『ヒャーッハッハッハ!これでどっちがお前のボs』
気付けばヤクザの全く躊躇のない右ストレートが僕の顔面に刺さっていた。
『目の前で変身したら誰だって偽物だと分かるだろうが!』
薄れゆく意識の中でヤクザの的確な指摘を聞いた気がした。
読んでくれてどうもありがと(・ω<)☆
表現を多くすると文章が長くなるし難しいなあ