プロローグ
西暦21XX年、旧世紀に行われた杜撰な宇宙計画は、人類から宇宙を遠ざけさせ、スペースデブリという存在を作り上げた。
また第三のエネルギーなども見つけることは出来ず、人類は今も石油枯渇問題を声高に叫び続ける。
そして世界は今もまだ国家間の紛争を続けていた。
昨日までは――
俺達がまだ小さい頃、テレビで放送されていた巨大ロボット――
戦場を翔け抜け多くの敵をたった一機で倒していく。
その姿は子供達の憧れであり、夢であり、ヒーローだった。
そして現在……
中東のサウジアラビアに現れた一機の巨大ロボットは少年の頃に憧れたそれに酷似していた。
だが、突如として現れたそれは人々から夢も希望も……国家すらも奪い取った。
「…サウジが無くなったそうだ。急いで準備しろ」
「隊長! 亡くなったとか言いますが、俺はサウジなんて人知らないんですけど?」
つまらない冗談などではなく本気で言ったんだが、堅物の女隊長には理解できないようだ。
彼女は頬が緩むどころか眉間に皺を寄せて俺を見下している。
「10時36分、中東に国籍不明の巨大ロボットが現れた。14時07分、サウジアラビアが無政府状態へと陥いり、それと同時に各国精鋭による国連軍が招集される事となった。我が隊からは、黒崎六郎……つまりお前が招集される事になった……」
黙っていれば大和撫子と言われる隊長こと神楽涼子は、一言も噛むことなく俺にそう伝える。
彼女は遠目から見る分には構わないが、近寄ると必ず俺に災いが起こる。そんな女性だ。
もっとも、周りからは仕事上の失敗を注意されているだけと思われている。今回も周りからの冷ややかな目が痛い。
「えー、三佐の隊長が行けばいいでしょ……出世コースですよ?」
「うむ、出世したいのは山々だが、今回は君の出世した姿を遠くから“黒服で”拝ませて頂くことにする」
「それ喪服やん、しかも死んでるやん……」
「うむ、現時点での生存率は限りなく0%だ。ユニバーサルスタジオ大阪のゾンビアトラクションに行った気で頑張って来い」
このご時勢に死んで来いとは目頭が熱くなった。
こんな無茶苦茶な命令は歴史教科書でしか見たことが無い……だが彼女は平然と言ってのけるのだから何て素晴らしい上司なんだろう。
「何と言うか……部下に対する愛情はないのですか?」
「心配するな。私は生還しなくても額縁に写真くらい飾ってやるくらい優しいぞ?」
「俺も隊長の写真集をバッグに忍ばせるぐらい優しいですよ!」
六郎は半ば切れ気味に、神楽涼子の写真集(盗撮)を引き出しから無造作にバッグに突っ込む。
うわぁ…という他の職員からの声が漏れているが気にすることは無い。
それ以上に冷たく、殺すような視線が目の前にあるのだから――
「……まあ、どうせ死ぬしな」
「うわぁ、ちょくで言いやがった……」
翌9月2日、黒崎六郎は国連軍に出向した。