ふぁんたじっく・あーてぃすと
お題:冷静と情熱の間にあるのは絵描き 必須要素:ヤクザ 制限時間:1時間
8/3即興小説バトル参加作品
カザーン大陸には二つの民が住む。
ひとつは、論理的思考を至高とするソルフェイアの民。
肌の色は白く、髪も瞳もその冷静な心にふさわしい寒色。
魔法を収め、政も話し合いを以て進めるを旨とする。
今ひとつは、天性の直感を頼みに険しき世界を生き抜く、アズガイアの民。
褐色の肌、燃えるような髪、濃色で爛々と光る瞳に溢れる情熱。
武器を取って、あるいは時に素手での戦いで、生きる道を切り開く。
どう見ても真反対、いがみ合うこと必至かと思われる二つの民は、しかしなかなかどうして上手く折り合いをつけていた。
なんとなれば、より大きな脅威が立ちはだかっていたから。
魔王。
眷属を率いて、人類を滅ぼさんとする強大な存在。
彼を不倶戴天の敵として、彼らは共闘の日々を送っている。
文書に残る最も古い戦いの記録は、千年前にも遡る。
つまり、少なくとも千年の間、二つの民は均衡を保っているのである。と。
「えーと」
私は頭を掻いた。
「いちお、大まかなところは理解出来ました」
「それはありがたい」
目の前の美丈夫がにっこりと笑う。
肌の色は、日本人である私と近い、黄色系。
髪の色は、ぬばたまの夜の黒。
目の色は、何とびっくり金色。
今聞いたふたつの民のどちらにも属さないっぽい外見。
極めつけは、その頭に生えたねじれた二本の角。
彼は自分こそがその魔王だと名乗った。
「えーと、ですね」
「うん」
「で、それで、なんで、私はこの世界に呼ばれたんですか?」
ここは魔王の宮殿。
だだっ広い謁見の間。
学校の帰り道、ちょっと目眩がしたなーと思ったら、次の瞬間にはここにいた。
魔王様が召喚したのだと。
しかし。
自慢じゃないけど、私の取り柄は平凡なこと。
容姿、頭脳、体力、性格、全てにおいて平均値。
いくら「平凡な人間が異世界で勇者に」という話が流行る昨今でも、限界ってものがあらあな。
どんだけブーストしたって、ちーともチートじゃないんですよ。
と、頭の中で寒いダジャレをつぶやく私の手を、なんと!
魔王様はお取りになられてあらせられられら。
これで、私の、異常事態にも何とか耐えてたメーターは、限界値を突破。
角が生えてても、美形なことには変わりが無いし、何しろ男性というものに免疫が無いので、心臓ばくばく、冷や汗だらだら、顔が、顔が熱い!!
「それは」
魔王様、声もイケメン。
「吾と共に、世界の平和を守って欲しいのだ。ヨシノ」
あ、ヨシノというのは私の名前ね。宮崎芳乃。
「せかいの……へいわ?」
「うむ」
何か新しいぞ、世界の平和を願う魔王様。
「そなた、絵心があるであろう?」
「へ?」
「その力が、吾には必要なのだ」
「へ?」
え、絵心ぉ!?
すみません、それは何かの間違いです。
だって、平凡で平均値、ザ・人並みを名乗りたい私の、唯一平凡じゃ無いところ。
それは、絵。
絵が、めちゃくちゃ、ものすご、どえらく、下手、なんですよ、あの。
「否」
汗を飛ばして説明する私を、魔王は静かに押しとどめた。
「そなたのそれは、天賦の才能だ。創造の神の力だ」
そして、どこかから現れる、特大のキャンバス。
「描いてくれ」
これまたどこかから現れた絵筆と絵の具を握らされ、私は困惑するしかない。
「えと、その、……何を?」
「吾が眷属を」
魔王様の眷属っつー事は、あれですよね、魔物ってヤツですよね?
……私、犬を描いても猫を描いても人を描いても、何でこんな化け物を描いたとしか言われないんですけど。
ドラゴンとかそういう強そうでかっちょよさそうで、難しそうなの、描けるなんて、思えないんですが。
「いいから、描いてくれ。心の赴くままに」
じっと、じっと見つめられて、何だかわき上がってくる、不思議な感覚。
初めて、求められている。
嘲笑の対象にしかならなかった私の絵が。
その他大勢でしかなかった平凡な私が。
求められている。
「……どーなったって、知りませんよ」
わざと、すごくヤクザな目つきをしてみせた。
心の底に滲む感情を隠すように。
すると魔王様はうなずいて。
「信じている」
予想の斜め上を行く殺し文句をくれちゃったものだから。
私は、白いキャンバスに、最初の一筆を置いた。
後に聞いたところによると。
魔王は魔王で、千年以上ずっと長生きとかではなく、密かに代替わりしているらしい。
新魔王がまずすることは、自らの相方を異世界から召喚すること。
そして、相方とともに、眷属を生み出すこと。
なんと、私は、勇者じゃなくて人類の敵ポジションで召喚されちゃったんですね、これが。
今日も私は、白いキャンバスに絵筆を置く。
色が、するすると流れ出て、滲んで、形を作り上げていく。
絵自体は、悲しいかな、慣れ親しんだ、私の、ひっどい絵なんだけど。
これが、実体化しちゃうんだな、なんと。
自分で言うのもなんだけど、かなり醜悪です、はい。
名状しがたい感じです、はい。
SAN値直葬、間違い無しです。
実際、強力らしいです。
代替わり前、死期を控えた魔王様の元では眷属も弱るんだけど、そうやって魔物の脅威が落ち着いちゃうと、ふたつの民は争いを始めちゃうらしいのね。
で、ここ数年、あちこちで人間同士の小競り合いがあったけど、それがすっかり落ち着いたって。
魔王様、ご満悦。
私もまあ、いいかな、なんて思っていたりする。
だって、初めて求められたんだもの。
今日も私は眷属を生み出す。この絵筆で。
久しぶりにパソコンで文章を打ちました。
速度は出たけど、油断して直し直しになって、進まなくなってしまう。
特に冒頭の、ファンタジーっぽい部分をそれっぽくでっち上げるのが辛うございました。
話の流れは気に入ってますが、文章に細やかさが足りないなとも思う。
設定があっちこっちから借りてしまってる感じが、よくないなあ、とも。
ちなみにヒロインが描くのがどんな絵なのかというと……
タイトルを「画伯と呼んで」にしようかとも思った、ってことでお察しください。