2話
「ただいまー」
「おかえり光輝。さっさと着替えて支度しなさい」
「え、なんかあったっけ?」
「アンタ馬鹿なの、死ぬの?」
「流石の母さんでも言い過ぎだと思うんですけど!?」
「つっこみもいいけど早く支度しなさいよ?」
「だから何が……あ、あれか」
「いいから、早くしなさい」
「うぃーっす」
とまぁ、こんな感じの会話を母さんとしつつ俺はさっさと私服に着替え母親の車に乗った。
そう、今日は――
「再婚相手と初めて会うんだよな」
「アンタはね」
「逆に母さんも会ったことないなら、よくそれで再婚決めたね!?」
「それは、ほら。今流行りのTwit○erで恋愛をしてだね」
「流行ってるのか!? あと、それで結婚まで行くのはほんのわずかだと思う!!」
「……光輝、つっこみばっかりでしんどくない?」
「誰のせいだ、誰の!」
「少なくても私じゃないわね」
「母さんしかいないわ!!」
「え、嘘!?」
「前見ろ、前!!」
なに、この母親!
昔から思ってたけど、天然なのか!? そうなのか!?
それから15分ぐらいのつっこみパレードが続き、目的地に到着。
……なに、この高級感あふれるレストラン。
初めて入るわ。
「ほら、行くわよ」
「ちょ、ちょっと待って! 俺、超ラフな格好だけど!?」
「まぁ、大丈夫なんじゃない。あ、私ちょっと着替えてくるから」
「俺の分の着替えは」
「ない」
「ですよねー!! ってか、こう言うところなら先に言ってくれよ!」
「言ったら、そういう服装できたの?」
「……」
「着替えてくるわ」
……いや、少しは出来たからな? 本当だからな?
「あのー、お母様?」
「なによいきなり。気持ち悪いわね」
「ここ、本当にマジものですね」
「なによ今更…」
やばい、思ってた以上にアウェーだ。
せめて制服を着ていれば…!
「ああ、なるほどね。…ほんと、なんでこんな服装なのかしら」
「誰かさんが教えてくれなかったせいだ!」
「静かにしなさい、馬鹿息子!」
母さん、その声も大きいから!!
と、そんな会話をしていると、すみませんと男性に声をかけられた。
「あ、うるさかったですよね。すいませんでした、うちの母親が」
「え? あ、いえいえ」
男性はクスクスと笑いながら答えてくれた。
へー、なんか気さくな店員さんだなー。
「智文さん!」
「千世さん、こんばんは」
「へ?」
……ん、ん?
「あ、そうそう。光輝は知らなかったわね。こちら佐藤智文さん」
「え、あ、どうも」
「そして、この馬鹿そうな子が私の息子で光輝です」
「初めまして」
「は、初めまして」
智文さんと呼ばれた、メガネをかけた男性が俺に笑いかけながら言ってくれた。
なんだろう、この人。
凄くニコッって擬音が似合う人だなと思う。
「光輝、この人が新しいお父さんよ」
「あー、なるほ……え、えぇえええええええええ!?」
「うるさい!!」
「あ、ごめ…いやいやいやいや! いろいろとストップ! ジャスタモーメント!」
「できない英語を使うほど混乱してるのね…」
「英語ができないのは母さんも同じだから、言われたくないんだが!?」
「失礼ね、ちゃんとできるわよ!」
「私は貝になりたい、はい英訳どうぞ!」
「I am a Shellfish」
「それだと、私は貝ですだからね!?」
「なん…ですって!?」
「二人とも、落ち着いてください」
ヒートアップしかけたところで、智文さんが俺たちを制止した。
いや、まぁ確かにこれ以上は他のお客さんにも迷惑だろう。
「えっと…あの、そろそろいいですか?」
「あ、はい。すいません、母親が」
「何言ってるの、光輝のせいでしょ」
「失敬な」
「ふ、二人とも…あの、今日は紹介したい人がいるんですが…」
智文さんは俺と母さんを制止しながらそう言ってきた。
「ほら、美海。おいで」
智文さんはレストランの入口の方へ手招きをした。
すると、ひとりの女の子がこっちへ歩いてきた。
「お父さん、長い」
「あはは、悪い悪い。えっと、こちらが私の再婚相手の折谷さんだ」
「初めまして。娘の美海です」
「「え、ええっ!?」」
娘がいたの!?
…いや、ちょっと待て。
今、母さんも驚いたよな!?
「母さん、知らなかったのか!?」
「え、ええ。まぁ…」
「すいません、言い出せなくて…勿論、これは私が悪いので再婚の話は無しになっても構いません」
智文さんは、しっかりと…目を開いてこっちを見てくる。
その意味はわかる。
「母さん」
「息子に言われなくてもわかるわよ」
母さんはミスを一口飲んだ。
「ふぅ」
母さんは水を飲み、一息ついて言う。
「私、智文さんと再婚するわ」
「まぁ、そうなるよねー」
「そうね。で、光輝はどう思う」
「……どう思うとは?」
「母さんが結婚してもいいかどうかってことよ」
「んー……」
正直、驚いた。
母さんが再婚の話を持ち出すなんて。
昔、父さんが死んだときの話は…まぁ、またの機会にするとしてだな。
再婚か…
「俺にはハッキリとわからないけどさ」
「うん」
「もしも今、父さんが母さんにかける言葉があるとすればこうだと思うぜ…俺のことはいいから、幸せになれ…ってさ」
「……全く、やっぱり光輝はあの人似ね」
「え、そうかな?」
「ええ。だって…今の光輝は、若い頃のあの人にそっくりよ」
母さんはそう言って、一筋の涙を流しながら微笑んだ。
「智文さん」
「はい」
「母さんをよろしくお願いします」
俺はそう言って頭を下げた。
「…はい、もちろんです」
俺が顔を上げると、智文さんは真剣な眼差しで俺を見た。
ああ、この人なら大丈夫だな。
さてっと…
「じゃ、俺はここで帰るわ」
「は?」
「電車で帰れば、なんとかなるだろ」
「光輝、何言ってるのよ」
「俺、やっぱこういうとこ性に合わなさそうだ」
うん、やっぱりそうなんだよな。
こういうのは……無理!!
「ったく…本当に光輝は」
「あの人にそっくり、って?」
「その通りよ。その反応もね」
俺と母さんは…二人で見つめ合い、そして笑った。
「んじゃ、また家で」
「ん、気を付けて帰りなさいよ」
「おいーっす…それじゃ、智文さん。また」
「はい、また…気をつけてくださいね」
「流石に大丈夫ですって」
こうして、俺はこの高そうなレストランから出て行った。