第六十四話「ノイズの生成」
ヴェリオスは、静かな部屋の中にいた。
魔法陣でも儀式でもない。
ただ思考を“形にするための空間”。
彼にとって世界は常に、再構築可能な情報だった。
だが、その日は少し違っていた。
思考の途中で、わずかに“引っかかり”が生まれる。
(……今のは)
消えかけた違和感。
だが確かに、そこに“ずれ”があった。
指先を動かす。
空間に軽く魔力を流す。
形にはならないはずのものが、一瞬だけ歪む。
「……干渉?」
ヴェリオスは眉をひそめる。
それは誰かの攻撃でも、防御でもない。
もっと曖昧で、不完全な“揺れ”だった。
再度、魔法を構築する。
しかし今度は、術式そのものが微妙にズレる。
完成しない。
いや、正確には――
“別の形に変換されている”。
(これは……僕の魔法じゃない)
ヴェリオスは静かに理解する。
部屋の中の空間が、ほんの一瞬だけ重くなる。
圧でもない。
気配でもない。
ただ“情報の密度”が変わる感覚。
「どこかで……何かが動いている?」
独り言にしては、確信が混じっていた。
思考を深く潜らせる。
魔法というより、“世界の構造”そのものへ。
そこでまた、違和感が走る。
(同期している……?)
そんなはずはない。
この世界は本来、連動していない。
少なくとも、そう設計されているはずだった。
だが今、複数の地点で同時に“同じ種類の揺れ”が発生しているように感じる。
距離の概念が薄い。
時間のズレもない。
ただ“同じ現象が並列に存在している”ような感覚。
ヴェリオスは立ち上がる。
机の上に展開していた術式が、勝手に崩れていく。
いや、崩壊ではない。
“再配置”に近い。
「……誰だ」
声は静かだった。
問いかけではない。
確認に近い。
この世界には、彼の知らない“干渉”がある可能性がある。
そしてそれは自然現象ではない。
ヴェリオスは手を握る。
空間がわずかに応える。
だが今までのように素直ではない。
まるで別の層から、同じ現実が触れてきているような感覚。
「面白い」
わずかに口元が緩む。
それは興味か、警戒か、その両方か。
彼は理解し始める。
この世界はまだ“完全には固定されていない可能性がある”。
そして今、その未確定領域が――
誰かの影響を受けているように感じられる。




