大型人狼は煮込むと美味しいらしい~伝説の狩人に育てられた少女は、今日も大型種を食材扱いする~
■赤ずきんの家・午前九時
コチ、
コチ、
コチ。
壁時計。
窓の外。
薄曇り。
森へ続く道は、朝靄でぼやけている。
木造の家。
棚には保存食。
壁には狩猟用ナイフ。
弾薬箱。
乾燥させた薬草。
机の上には分解途中の拳銃と、整備工具。
油の匂い。
ザーッ……
机の端。
古い無線機。
祖母の声。
『東側、また湧いたってねぇ』
母、フライパンを振る。
「新人隊だったみたいよぉ。昨日、弾薬追加で持ってったもの」
『あらまぁ。なら撃ちすぎたのかしら』
ジュウッ。
ベーコンの焼ける音。
赤ずきん、席につく。
赤いフードはまだ被っていない。
「いただきます」
「はい、たくさん食べなさいねぇ」
皿。
黒パン。
スープ。
目玉焼き。
厚切りベーコン。
無線の向こうで、カップを置く音。
『最近の若い猟師は、すぐ胴を狙うから駄目ねぇ』
赤ずきん、スープを飲む。
「頭じゃなくて?」
『脚よぉ』
のんびり続ける。
『動けなくしてから落ち着いて撃った方が安全なの。暴れてる最中に噛まれると大変でしょう?』
「お義母さん、昔から膝抜くの上手いものねぇ」
『年の功よぉ』
朝の食卓の会話ではない。
焼き上がったベーコンを皿へ追加する。
「第三隊の隊長さん、また“弾の消費が早すぎる”って顔してたわぁ」
「新人さん多い?」
「春だからねぇ」
『慣れてない子は連射するのよ』
パンを齧る。
「昨日も来た?」
『一匹ねぇ。窓から』
母、ため息。
「またガラス?」
『今度は壁』
「もっと悪い!」
カラカラ。
無線の向こうで笑う。
「仕留めた?」
『二階から落として、朝に猟師へ回収お願いしたわぁ。報酬は明日振り込みですって』
「あら、今月ちょっと多いわねぇ」
『大型種が増えてるもの』
冷蔵庫へ視線を向ける。
「……保存庫、もう少し空けとこうかしら」
『大型種は食べ切れないものねぇ』
完全に猟師家庭の会話。
机の横。
大きなバスケット。
包帯。
薬瓶。
新聞。
水筒。
その下に整列した弾倉。
赤ずきん、確認。
カチ。
弾倉装填。
「今日は霧が濃いから気をつけるのよぉ」
「うん」
『三本道の左、今朝ちょっと臭うから』
「了解」
立ち上がる。
赤いフードを被る。
母、ふと思い出したように振り返る。
「あ、赤ずきん」
棚の上から短機関銃を取る。
「忘れ物」
「あ」
受け取る。
慣れた動作で背負う。
「それ新型だから、反動ちょっと強いわよぉ」
「え、試作品?」
「うふふ。大型種用」
ちょっと嬉しそう。
『あんまり猟師さん困らせちゃ駄目よぉ?』
「善処しまーす」
「説得力無い返事ねぇ」
玄関扉。
ガチャ。
朝の空気。
湿った森の匂い。
遠くで鳥が鳴く。
その奥。
木々の隙間。
黒い影が、一瞬だけ動いた。
ちらりと見る。
「……朝からお腹空いてるなぁ」
腰の拳銃へ手を添える。
バタン。
扉が閉まる。
ザーッ……
無線。
数秒の沈黙。
窓の外を見たまま呟く。
「……二匹ついてるわねぇ」
『追跡型?』
「ええ。片方、大きいわ」
無線の向こうで小さく笑う。
『なら、新型の試射にちょうどいいわねぇ』
静かに頷く。
「まあ、大丈夫でしょう」
その声には、妙な確信があった。
■第三森林区画・午前十一時二十分
カサ、カサ……
湿った落ち葉。
深い霧。
白く霞んだ森の奥で、何かが呼吸している。
赤ずきん、歩く。
赤いフード。
黒いブーツ。
背中の短機関銃。
片手にはバスケット。
静か。
鳥の声も無い。
足を止める。
「……いるでしょ」
返事は無い。
グチャ。
湿った音。
霧の中。
ゆっくり浮かぶ影。
細長い腕。
裂けた口。
人狼。
ニタァ……と笑う。
「ニンゲン」
「そうだよ」
「クエル」
「食欲旺盛だねぇ」
唾液を垂らす。
「ウマソウ」
姿勢を低くする。
獣のような構え。
次の瞬間。
地面を蹴る。
ドン!!
霧を裂いて突進。
速い。
赤ずきん。
腰の拳銃を抜く。
パンッ!!
乾いた銃声。
人狼の膝が砕ける。
「ギャアアアアッ!!」
体勢崩壊。
前のめりに転倒。
赤ずきん、間を置かない。
パンッ。
二発目。
頭部。
沈黙。
人狼の身体が痙攣し、動かなくなる。
拳銃を下ろす。
「やっぱ脚からだ」
その時。
ズシン……。
重い音。
視線を上げる。
霧の奥。
巨大な影。
通常種より一回り大きい。
異様に長い腕。
黒い爪。
裂けた口から、粘ついた液体が垂れている。
大型種の人狼。
赤ずきん、小さく呟く。
「……あー。こっちか」
巨体が、ゆっくり口を歪める。
「ニク」
「失礼だなぁ」
「アタタカイ」
「ヤワラカイ」
「クイタイ」
「駄目」
一歩。
踏み出すだけで、地面が沈む。
拳銃を構える。
一瞬の均衡。
次の瞬間。
巨体が消える。
ドゴンッ!!
赤ずきんは反射的に横へ飛んだ。
さっきまで立っていた場所。
木が爪で抉り飛ばされる。
木片が霧の中へ散った。
「うわ、力強」
着地。
土を払う。
視線の先。
牙の隙間から唾液を垂らしている。
「タベテイイ?」
「駄目」
再び踏み込む。
速い。
赤ずきんは反射で引き金を引いた。
パンッ!!
狙った膝。
だが弾は硬い皮膚に弾かれる。
止まらない。
「……硬っ」
通常種みたいに砕けない。
低く笑う。
「ニンゲン」
次の瞬間。
巨大な腕が振り下ろされた。
ドゴンッ!!
地面が爆ぜる。
赤ずきんは後ろへ跳ぶ。
風圧で髪が揺れた。
抉れた地面。
土煙の向こう。
喉を鳴らしながら笑っている。
「チイサイ」
赤ずきん、眉を下げる。
「女の子にそれ言う?」
咆哮。
突進する。
真正面。
逃げない。
ギリギリまで引き付ける。
隊長なら確実に怒鳴る距離。
そして。
一気に姿勢を落とした。
ザァッ!!
地面を滑る。
泥を跳ね上げながら、大型種の股下へ潜り込む。
「ドコ?」
赤ずきんはその背後へ抜ける。
滑った勢いのまま片膝を立てる。
カチ。
新型短機関銃。
振り返る。
だが遅い。
赤ずきん、ニッと笑う。
「じゃあ次、頭ね」
ダダダダダッ!!
轟音。
至近距離で短機関銃が火を吹く。
ドガガガガッ!!
凄まじい反動。
赤ずきんの肩が大きく跳ねた。
「っ、ぅ……!」
腕が痺れる。
それでも照準は逸らさない。
巨体の頭部が弾け飛んだ。
血霧。
巨体が揺れる。
数歩。
ふらつく。
そして。
ズドンッ!!
大型人狼の身体が地面へ倒れる。
霧が揺れる。
静寂。
硝煙。
荒く息を吐く。
「……うわぁ」
右腕をぶらぶら振る。
「反動すご……」
ジンジン痺れる。
母の言葉を思い出す。
『それ新型だから、反動ちょっと強いわよぉ』
「ちょっとじゃないよぉ……」
しゃがみ込む。
大型種を見る。
目が輝く。
「それはさておき」
「こんな大きいの初めて!」
ぺたぺた触る。
腕。
爪。
牙。
「おっきい……」
ジュルリ。
「絶対脂乗ってる……」
「煮込みかなぁ……焼きも良さそう……」
完全に狩猟後のテンション。
解体ナイフを取り出す。
カチャ。
だが。
右手。
ぷるぷる。
「……あれ」
握力が入らない。
無理やり握る。
ぷるぷる。
「うわ、痺れてる……」
「解体できない……」
その時。
ガサガサッ!!
複数の足音。
顔を上げる。
霧の向こうから現れる猟師たち。
灰色のコート。
ライフル。
隊章。
先頭。
長身の男。
灰色の防刃コート。
第三隊隊長。
通常種と大型種人狼の死体。
吹き飛んだ頭部。
周辺の弾痕。
そして。
痺れた手でナイフをぷるぷるさせている赤ずきん。
隊長、数秒沈黙。
深いため息。
「……またお前か」
ぱっと顔を上げる。
「あ、隊長さん」
隊員の一人、小声。
「大型種ですよね、これ……?」
別の隊員。
「単独で?」
隊長、死体を見る。
まず通常種。
膝と頭を正確に撃ち抜かれている。
次に大型種。
脚部には被弾痕。
だが貫通していない。
その周囲。
泥を滑った跡。
股下を抜けた痕跡。
至近距離から吹き飛ばされた頭部。
隊長の眉間に皺が寄る。
「……止まらないから背後取ったのか」
「硬かった」
「大型種だからな」
新人隊員たち、若干青ざめる。
「報告は」
「これからする予定でした!」
「絶対今思いついただろ」
「えへへ」
否定しない。
「また婆さん式か」
「ちゃんと教わったもん」
部下へ振り返る。
「大型種確認。周辺封鎖」
「検問設置」
「回収班急がせろ」
「「了解!」」
一気に空気が張り詰める。
新人隊員たちが慌ただしく散っていく。
「ああ〜……」
未練たっぷり。
「なんだ」
「私の獲物なのに〜……」
巨体をじーっと見つめる。
「お肉……」
「駄目だ。検査と換金に回す」
「えぇー……」
「……報酬は支払われる」
ぴくっ。
「いくら?」
「現金に反応するな」
ため息。
「赤ずきんを被ってるってことは、婆さんのところに配達か?」
「そうだよ!」
「ならさっさと行け。封鎖前に抜けろ」
赤ずきん、バスケットを抱え直す。
「はーい!」
その横で。
大型種の巨体へ、白布が掛けられていく。
霧の森。
再びサイレンが鳴り始めていた。
■森林深部・午後一時〇七分
カサ、カサ……
赤ずきん、歩く。
背中の短機関銃。
片手のバスケット。
そしてもう片方には、
大型人狼の爪。
「……はぁ」
未練たっぷり。
「ちょっとくらいお肉欲しかったなぁ……」
隊長に没収された大型種を思い出している。
しょんぼり。
「絶対美味しかったのに」
霧が薄くなる。
森の空気が変わる。
静か。
人狼の気配も無い。
正確には、“近づこうとする気配が無い”。
祖母の家の周囲だけは、昔から妙に湧きが少なかった。
猟師たちの間では、「人狼の方が避けてる」 なんて噂まである。
赤ずきん、周囲を見回す。
「あ」
しゃがむ。
道端。
白い花。
群生。
朝露を残した花弁が、陽光を反射している。
「キレー」
ぷちっ。
雑。
数本まとめて引き抜く。
土つき。
「おばあちゃん好きそう」
バスケットへ突っ込む。
弾倉の隣。
花。
情緒が行方不明。
立ち上がる。
そのまま数分。
森の奥。
木々の隙間から、小さな家が見える。
煙突。
石造りの壁。
周囲には乾燥肉。
軒先。
対人地雷注意の看板。
「ただいまー!」
玄関。
ガチャ。
開く。
暖かな空気。
香草の匂い。
壁一面の銃。
祖母、椅子に座っている。
丸眼鏡。
編み物。
膝の横には長銃。
顔を上げる。
「あら、おかえりぃ」
赤ずきん、バスケットを机へ置く。
「お土産!」
花を出す。
ボロッ。
土が机へ落ちる。
祖母、ぴたりと動きを止める。
数秒沈黙。
「……根っこ付きねぇ」
「長持ちするかなって」
さらに土がぱらぱら落ちる。
祖母、バスケットの中を見る。
包帯。
薬瓶。
弾倉。
その上に土。
「あらあら」
赤ずきん、きょとん。
祖母、苦笑い。
「もう、土が入って、ジャムったら大変じゃないの」
「あ」
「火薬湿気たらどうするのぉ」
「ごめんなさーい」
全然反省してない声。
祖母、ふふっと笑う。
「あとで掃除しましょうねぇ」
「はーい」
赤ずきん、嬉しそう。
祖母、花を受け取りながら尋ねる。
「で?」
「うん?」
「大型種、出たでしょう」
目を丸くする。
「なんで分かったの?」
「血の匂い」
自分の袖を見る。
返り血。
「あちゃー」
「怪我は?」
「ないよ!」
「そう」
祖母、安心したように紅茶を飲む。
赤ずきん、椅子へ座る。
「でもねぇ、隊長さんにお肉取られた」
「あらまぁ」
「絶対美味しかったのに」
祖母、少し考える。
それから立ち上がる。
冷蔵庫を開ける。
中から包みを一つ。
「この前獲れた大型種、まだ残ってるわよぉ」
「!!」
目が輝く。
「煮込みにする?」
「する!!」
祖母、鍋を火にかける。
コト……。
深い赤色のスープ。
香草。
根菜。
そして、大型人狼の肉。
赤ずきん、椅子へ座りながら鍋を覗き込む。
「いい匂い……」
「ちゃんと血抜きしたからねぇ」
「やっぱ違う?」
「雑にやると臭みが出るのよ」
完全に狩猟料理の会話。
木の皿を並べる。
黒パン。
燻製。
温野菜。
そして大鍋。
湯気が立つ。
赤ずきん、そわそわ。
尻尾があったら振っている。
祖母、くすっと笑う。
「ほら、お昼ご飯食べてから帰りなさいな」
「わーい」
元気。
スープをよそう。
「今日は当たり部位よぉ。肩肉」
「やった!」
「大型種は運動量多いから、ちゃんと煮込むと柔らかいの」
赤ずきん、真剣な顔で聞く。
「メモする?」
「食べて覚えなさいな」
「はーい」
「いただきます!」
一口。
はふっ。
目を見開く。
「おいしい!!」
祖母、満足そう。
「でしょう?」
もぐもぐ。
「小さいのより全然柔らかい!」
「脂も甘いのよぉ」
「隊長さんも食べればいいのに」
「あの人、真面目だからねぇ」
窓の外。
森。
静かな風。
遠くで、銃声が一発だけ響く。
赤ずきん、スープを飲みながら呟く。
「今日も猟師さん大変そう」
「お仕事だもの」
「私も大変だったよ?」
「大型種でしょう?」
「うん」
祖母、当然のように頷く。
「なら今日は頑張ったわねぇ」
赤ずきん、ちょっと嬉しそう。
その横。
壁際。
無造作に立て掛けられた対物ライフルが、昼の日差しを鈍く反射していた。
■帰路・夕方
オレンジ色の森。
赤ずきん、歩く。
バスケットは行きより重い。
きのこの瓶詰め。
干し肉。
薬草。
祖母製の弾。
大量。
ガチャガチャ鳴っている。
「重ぉい……」
祖母の家。
玄関前。
祖母、手を振っている。
『ちゃんと学校行くのよぉー!』
「行くよー!」
『授業中寝ちゃ駄目よぉー!』
「善処しまーす!」
説得力ゼロ。
森を抜ける。
途中。
空気が変わる。
金属音。
エンジン音。
前方。
森林区画の境界線。
簡易バリケード。
装甲車。
猟師隊。
検問。
大型種出現を知らせる黄色灯が、ぐるぐる回っている。
鉄柵には赤い警告札。
『第三森林区画・危険指定中』
『通行制限実施』
隊員たちも普段より緊張気味。
新人隊員が周囲へ視線を走らせている。
拡声器。
『第三森林区画、本日大型種確認。通行者は身分証提示を』
赤ずきん、ポケットをごそごそ。
革製の小さな手帳を取り出す。
通行証。
猟師隊発行。
写真付き。
端には赤いスタンプ。
『認可配達員』
新人隊員、二度見。
「……え?」
「子供ですよね?」
横の古参隊員、慣れた顔。
「婆さんの孫だ」
「あぁ……」
納得されるのが早い。
赤ずきん、通行証をひらひら。
「おばあちゃん家、封鎖区域の奥だから」
隊長、書類確認中。
顔を上げる。
「その通行証、まだ更新前か?」
「来月まで使えるよ?」
確認。
ため息。
「……問題無し」
新人隊員、困惑。
「え、一般人に通行許可出るんですか?」
書類へ判を押しながら答える。
「本来は出ない」
ガン。
通行印。
「だが、あの婆さんへの定期補給路がここしかない」
「補給?」
赤ずきん、指を折る。
「薬、規格弾、新聞」
「街の物は届きにくいからな」
「それから、おばあちゃん一人だと大型種解体する時腰痛めるから手伝い」
「最後が重い」
隊長、頭痛を堪える顔。
「元々は猟師隊が担当してたんだがな」
「途中で赤ずきんが勝手に覚えた」
「近道便利なんだもん」
「結果、森の地形も人狼の行動圏も猟師並みに把握してる」
新人隊員、赤ずきんを見る目が変わる。
「……だから単独行動許可?」
「限定付きだ」
「森林区画のみ」
「日中限定」
「大型種確認時は即帰還」
赤ずきん、小声。
「今日は倒したからセーフ」
「お前が言うな」
次に。
隊長の視線。
バスケットへ向く。
さらに沈黙。
「……また増えてないか荷物」
「おばあちゃん愛情深いから」
「弾薬を愛情換算するな」
その横。
隊員たちが大型種討伐報告書をまとめている。
「頭部損傷激しすぎて検視班キレてました」
「回収車まだ来てません」
「大型種の爪、一本足りないんですが」
赤ずきん、さっと視線を逸らす。
隊長、見逃さない。
「お前、持って帰ってないだろうな」
「記念品だよ?」
「駄目に決まってるだろ」
渋々。
大型種の爪を差し出す。
新人隊員、小声。
「この子、本当に一般人ですか……?」
「俺も最近分からん」
通行証へ追加印。
「大型種出た日は検問強化だ。今日は特に帰宅命令も出てる」
「そんな危なかった?」
「お前基準で語るな」
正論。
隊長、書類を返す。
「明日は学校だろ」
「うん」
「人狼持ち込むなよ」
赤ずきん、真顔。
「それ前も言われた」
「前科があるからだ」
「前科?」
「ロッカーから腕が出てきた」
「???」
「解剖途中だったの」
「学校でやるな」
赤ずきん、通過。
「はーい」
全然反省してない返事。
■赤ずきんの家・夜
母、机の上を見る。
「いっぱい持たされたわねぇ」
「大型種の干し肉貰った!」
「あら当たりじゃない」
「明日のお弁当これがいい!」
少し考える。
「……学校から苦情来ない程度にしましょうねぇ」
■翌朝・午前七時四十分
街。
通学路。
学生たち。
その中。
制服姿の少女が歩く。
肩にはスクールバッグ。
その横には細長いケース。
赤ずきん。
今日はフードを被っていない。
通行人がちらりとケースを見る。
赤ずきん、欠伸。
「ねむ……」
学校門前。
教師、ケースを見る。
「……赤ずきんさん」
「はい」
「それは?」
「対人狼用短機関銃です」
教師、空を見る。
「学校に持ってこないでください」
「えぇー」
「えぇー、じゃありません」
後ろの生徒たち、慣れてる顔。
「またやってる」
「いつものだ」
「今日は銃だけか」
ざわざわ。
「新型自慢したかっただけだろ」
「昨日大型種倒したらしいし」
赤ずきん、渋々ケースを開ける。
「職員室預かりです」
「傷つけないでね?」
「そこまで責任持てません」
教師、重そうにケースを持つ。
ズシッ。
「重っ!?」
「大型種対策仕様だから」
「学校は戦場じゃないんです」
その瞬間。
校舎裏から悲鳴。
「きゃああああ!!」
全員、硬直。
教師、青ざめる。
「……先生」
「……はい」
赤ずきん、手を差し出す。
「やっぱ返して?」
教師、数秒悩む。
「……今回だけですからね」
ケースを受け取る。
そのまま抱え直す。
■校舎裏・午前七時五十二分
悲鳴。
生徒たちがざわめく。
教師、顔面蒼白。
「ま、まさか……」
赤ずきん、ケースを抱え直す。
留め具が鳴る。
カチ。
慣れた動作。
周囲の生徒たち、距離を取る。
「あー、またか」
「今月二回目?」
「早くない?」
妙に落ち着いている上級生。
新入生だけが震えている。
「全員、教室へ避難!!」
校舎裏。
ゴミ集積所。
フェンス。
その影。
黒い何かが蠢いている。
グチャ。
肉の潰れる音。
赤ずきん、目を細める。
「……通常種」
人狼。
痩せ細った身体。
裂けた口。
だが様子がおかしい。
腹部。
猟師用の矢が刺さっている。
「逃げ込んできたんだ」
人狼、生徒を見つける。
笑う。
「ミツケタ」
跳躍。
ドンッ!!
赤ずきん、ケースを抱えたまま拳銃を抜く。
パンッ!!
膝。
人狼の脚が弾け飛ぶ。
着地失敗。
アスファルトへ転がる。
「ギャアアアアッ!!」
暴れる。
赤ずきん、距離を詰める。
パンッ。
ヘッドショット。
沈黙。
静寂。
硝煙。
拳銃を下ろす。
「はい、おしまい」
数秒。
校舎窓から見ていた生徒たち。
「「「うおおおおお……」」」
拍手。
「拍手しない!!」
新入生、一人震えながら呟く。
「な、なんであんな冷静なの……?」
上級生。
「赤ずきん先輩だから」
意味不明な説明。
その時。
校門前。
急ブレーキ音。
キィィッ!!
猟師隊の車両。
隊長、降りてくる。
校舎裏。
死体。
拳銃。
赤ずきん。
隊長、目を閉じる。
「……嫌な予感はしてた」
赤ずきん、手を振る。
「あ、隊長さん」
「なんで学校で撃ってる」
「襲われたから」
隊長、死体を見る。
腹部へ刺さった矢。
「……第三隊の静音班か」
教師、目を瞬かせる。
「弓、ですか?」
「森で発砲すると群れが寄る時がある」
「通常種相手は矢を使う班もいる」
赤ずきん、しゃがみ込む。
「この矢、三班のだ」
「なんで分かる」
「羽根の色」
隊長、頭を抱える。
「お前ほんと何なんだ……」
教師、おそるおそる近づく。
「あ、あの……これは正当防衛で……」
「分かってます」
「先生、“学校は戦場じゃない”って言ってた」
「今日は例外です!!」
ため息。
「お前、怪我は」
「ないよ」
「……ならいい」
部下へ指示。
「回収班呼べ。あと校舎周辺封鎖」
「了解」
赤ずきん、死体を見下ろす。
「通常種かぁ……」
「何が不満だ」
「細い」
「食う前提で語るな」
■赤ずきんの家・午前十時十分
ガチャ。
玄関扉が開く。
「ただいまー」
母、台所から顔を出す。
「あら、おかえりなさい」
赤ずきん、靴を脱ぎながら言う。
「学校無くなったー」
「あらあら、大変ねぇ」
全然大変そうな顔ではない。
赤ずきん、鞄を床へ置く。
「また人狼出た」
「あら」
「通常種だったけど」
母、ふむふむと頷く。
冷蔵庫からジュースを取り出す。
「怪我は?」
「ないよー」
「えらいえらい」
赤ずきん、ソファへだらーっと沈む。
母、コップを渡す。
「はい」
「ありがとー」
一口飲む。
母、少し考える。
「……やっぱり校長さんに、武装の確保と銃の授業を推し進めるように、また言おうかしら?」
「さんせー!」
「護身は大事だものねぇ」
「あと解体授業」
「それは家庭科で出来ないかしら」
「人狼解体実習!」
「校長先生また胃薬飲みそうねぇ」
二人。
のんびり笑う。
窓の外。
遠くでサイレンが鳴っている。
赤ずきんはソファへ沈み込んだまま、
のんびりジュースを飲んでいた。
赤ずきん 「人狼ってさ、闇の中からポコポコ生まれるのに、どうしてお肉にも油が乗るんだろうね?」
お母さん 「不思議よねぇ」
おばあちゃん 「美味しいから良いんじゃない」
赤ずきん 「そだね〜」
お母さん 「そだねぇ〜」
遠く。
猟師隊長 「良くないんだよなぁ……」




