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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
不死身の少年
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ep.9 "国の正義"

少年の右目は、かすかに紅く輝いていた

僕の左目と同じだ…


(これは…夜叉ヴァンパイアの能力者…?)


この世界に同じ力を持つ者がいるなんて

考えたこともなかった。

でもどうしてこんな町に…?


町に来てから色々なことが起きすぎて

頭が追いつかなくなってきた。


「奴隷を解放したいんだろう?

でも踏み出す勇気がなくて迷ってるね…」

そういいながら少年は無邪気な笑みを浮かべる。


助けたい

けれど踏み出す勇気がない自分に苛立っている

正しいことをしたいはずなのに

アーヴェス…国の報復が頭をよぎり

足がすくんでいる。


必死に誤魔化して

見て見ぬふりをしようとして…

それでも視界から奴隷たちの姿が消えない

そんな心の苦しい状況の真っ只中だったのに…


少年はそんな僕を見て笑っていた。


笑顔で、僕の葛藤なんて

大したことじゃないように言われた気がした。


「可哀想に…レイヴンさえいなければ、

こんな現実を見ずにいられたのに」


───レイヴン。

その名前が出た瞬間、胸騒ぎがした。


僕の全ての始まりであり、変えてくれた存在…

その名前をこんな風に言われる筋合いはない

思わず目の前の少年の腕を乱暴に振り払う

その瞬間、少年は幻のように掻き消えた。


少年の声が頭へと響く


『ようやく自由の身になったんだ

自分の思ったことをやればいいじゃないか』


その言葉が何を意味するかはわからない。


ただ気付いたとき、僕は目を盗み

奴隷二人の身体を抱えて全速力で走っていた。


~~~~~~~~~~


息が切れる。


二人は驚くほど軽かった

痩せ細り、骨と皮ばかりの身体

その軽さが胸を締め付ける。


「…あ、ありが…とう……」


かすれた声

生きているのが奇跡のような弱々しい息遣い

町の外れの物陰まで走り

僕はそっと二人を人力車の荷台に降ろす。


「これ、二人分の服。

さっき自分用に買ったやつだけど…

フードを深く被って」


「明日…この人力車は町を出るはずだ。

それまで隠れて、逃げてくれ…!」


震える手で、二人の肩に布をかけたそのとき

手を握られる。


「…こわいんだ。

頼む…少し一緒に…いてほしい…」


その震えに逆らえなかった

僕は荷台の暗闇に身を隠し

彼らと共に息を潜めた。


やがて時間が経つと

奴隷二人は震えながら

吐き出すように語り始めた。


「幼い頃、家族が…税を払えなくて…捕まって…

家族もろとも奴隷になったんだ…」


「何も悪いことはしていないのに…

ずっと人扱いをされたことがなかった…」


「貧乏な家に生まれただけで…」


「死んだ方が…楽だって思った…」


「普通に…暮らしたかっただけなのに…」


その言葉一つ一つが胸に刺さる。


悲しみか…怒りか…悔しさか…

自分の感情さえよくわからない

ただ胸の奥が熱くなっていく。


「ありがとう少年…君のおかげで私はまた…

人生に希望を持とうと思うよ…」


その一言を聞いた瞬間

張り詰めていたものが少しだけ緩み

ほんの少しだけ…救われた気がした。


そのときだった。


「アーヴェスさん!この辺りです!」

外から兵士の叫びが響く。


「!」


次の瞬間

世界が閃光に包まれた。


爆ぜるような衝撃が走り、視界が真っ白になる

…気づいたときには、

僕たち三人の胴体は消えていた。


熱い肉片の匂いがする

視界に散ったのは彼らが握っていた

僕の袖の切れ端だった。


アーヴェスが歩み寄り、冷たく呟いた。

「奴隷が人間の生活に憧れるとは…」


僕の身体は再生する。


ゆらりと立ち上がる

震える膝を押さえ込む。


「…?確かに三人斬った感触があったが…」


「どうして…」

声が震える。


「どうして人間が

人間らしく生きたいと願ってはいけないんだ…」


「貴様は…"迷いの森"の…?」

「人間ではない…あいつらは奴隷

罪を犯した者だ。」

アーヴェスは顔色を変えず話し続ける。


「罪って…?」


「国へ反抗することだ

この国の決めた正義を裏切ることだ。

そんな者たちに…容赦する必要はない」


「そういえば…昨日の修道女ミラも罪を犯した。

税を納めず国を裏切っていたため、牢へ入れた。

払う能力がないと判断された場合…

やつも奴隷として人生を歩むだろう」


「…ミラさん…」


息が止まった

ミラさん…休んでたんじゃなくて

捕まっていたんだ

あの優しい人が…あれほど努力していた彼女が…


アーヴェスの表情は微塵も揺れない。


「貴様の行った奴隷幇助(ほうじょ)もまた罪となる」


子供の我儘みたいな国の正義に吐き気がする…

僕はゆっくりと顔を上げた。


「…僕は間違っていない」


アーヴェスは鼻で笑った。


「そうか。

貴様も貴様の中での正義があるんだろうな

だが私も間違っていない。

これが"国の正義"だからだ。

そしてこの国にいる以上、正しいのは私になる」


その言葉を聞いた瞬間

胸の奥の迷いが、完全に消えた。


レイヴンから力を得た時

ずっと心にあった不安。


本当にこの能力を使って…

国に反逆していいのだろうか?


その疑問は、もうどこにもなかった。


僕は静かに息を呑み

アーヴェスをまっすぐ見た。


「安心したよ。」


「…何がだ?」


この力を使って、この国を

ぶっ壊していいって…はっきりわかった。

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