ep.7 "王国と反逆者"
酒場にいた男は
近衛騎士団 北極星の四季
この国の二番目の実力者
アーヴェス・デュランダルだった。
ロジェロは一瞬で血の気が引き、震え出す
「ア、アーヴェス兄様…なぜこんな場所に…」
あいつを知ってるのか…と聞くと
ロジェロは唇を噛みしめながら答えた
「当たり前だ…王女だぞ
…子供の頃、私に剣を教えてくれた…」
そうだった
ロジェロは王国に捨てられた…今や反逆者だ。
まだその事実は王国には知られていないはずだが
もしここで顔を見られれば
捕まる危険はあまりにも高い。
僕らは息を潜めるしかなかった。
アーヴェスは酒場を出て
ゆっくりと町の門へ向かう
"迷いの森"の方角を見つめ
その向こうから迫る異形の群れを睨みつける。
兵士たちは
張り詰めた表情でその背中を見守っていた。
「──貴様らでは勝てん…
何故なら美しさで既に私に敗北しているからだ」
異形に向かってそう呟くと
その手に握られた剣がすっと抜かれ
次の瞬間…刃が燃えた。
アーヴェスが一歩踏み込み、軽く一振りする。
その瞬間
自分の体が発火したのかと錯覚するほどの熱が
周囲を駆け抜け
巨大な炎の閃光が視界を飲み込んだ。
誰もが反射的に目を閉じる。
やがて光が収まり視界が戻ったとき
森から現れていたはずの異形も
解呪異形と思しき存在も…
そこにあったものはすべて
跡形もなく消えていた。
酒場から、町から…
兵士たちの英雄を称える声が湧き上がる。
僕ら二人は息を飲み、言葉を失う
こいつは王を守る騎士団
つまり…敵だ。
何を相手にしているのか…
突然そいつは目の前にやってきて
今、嫌でも理解させられた。
あまりの格の違いに背筋が凍る
アーヴェスはニヤリと笑みを浮かべていた。
僕は洞窟で異形が使った
小さな魔法しか見たことがなく
正直、魔法なんてそんなものだと
焚き火程度のものだと思っていた。
しかし…本物はまるで次元が違った。
たとえ不老不死の力があっても
あの炎を真正面から受けて
生き残れる気がしない。
アスノもこの騒ぎを見に来ていたらしく
拳を握りしめ、その表情からは
恐怖を隠しきれていなかった。
アーヴェスは群衆に向けて声を張り上げる
「これより"迷いの森"の異常調査へ出る
同行者を募る。力ある者は…前へ!」
兵士たちは一斉に手を挙げた。
王都への出世を夢見る者は多い
近衛騎士団の目の前で
実力を見せつけることのできる機会など
そう巡ってくるものではない。
叫び、名乗りを上げる兵士たち。
その様子を眺めながら
アーヴェスもまた静かに笑っていた
彼は兵士たちの気持ちを理解している
「使える駒」が自分から寄ってくる。
僕とアスノは視線を交わし頷く
いずれ戦う相手なら…
今のうちに、力と能力を見ておきたい
そう思った。
ロジェロは正体がバレてはいけない
この町で待ってもらうことにした。
「邪魔だテメェらァ!アスノ様が行くぞォ!」
アスノが兵士たちを力ずくで押しのけ
僕は彼の背中に抱えられたまま最前列へ。
アーヴェスは不敵な笑みを浮かべた
「威勢のいい者がいるな…
そこの大男達、それと修道女、兵士二人。
ついてこい」
こうして
僕たちは"迷いの森"調査の護衛に選ばれた。
アーヴェスは町の奴隷商に命じる
「私の可愛いペットは森へ連れて行けん。
奴隷を二匹用意しろ」
縄で縛られた二人の奴隷が
巨大な人力車を引いてくる
これがこの国の当たり前…なのか。
初めて奴隷を見た僕は
胸の奥がざわついた。
拳を握りしめながらどうすることも出来ず
それを見ているしかなかった。
~~~~~~~~~~
先頭は兵士二人
中央には人力車に乗ったアーヴェス。
その少し後ろを
僕とアスノ、そして修道女の女性
…ミラが歩いていた。
アスノはミラに声をかける
「お姉さんすげェ可愛いなァ!何歳?何歳?」
…僕の仲間って揃いも揃ってこんな感じなのか?
ミラは困ったように目を泳がせながらも
ちゃんと答えてくれた。二十歳です!…と
「ミラちゃんさァ
懺悔したいこととかたくさんあるんじゃない?」
ありますよぉ…と少しため息混じりに応える。
話を聞くと、
彼女は病気の両親を支えながら
遅くまで教会で働き…
さらに合間を縫って
魔法の勉強までしているという
…そんなに詰め込んで大変だろう。
しかし彼女は笑う
"いつか報われる日がきっとくると信じてる"
…そう言ってまた明日も頑張るのだという。
その言葉にアスノは涙を流す。
アーヴェスも会話を聞いており
言葉を投げかける。
「そうだ…努力を続ければ
国は必ず貴様らを認める。
そのために励むがよい」
上から目線な物言いだが…
実際、彼はこの国の頂点側の人間だ
そういう世界なのだと、思い知らされる。
ミラは目を輝かせ感激していた
理想と現実の狭間で
彼女はまだ理想側を信じている。
「アーヴェス様、迷いの森が見えてきました」
先頭を歩く兵士達が言う。
視線の先にはどこまでも伸びる木々の群れ
昼なのに森の入り口は薄暗かった。
僕たちは森の中へと足を踏み入れた。
【北極星の四季 アーヴェス・デュランダル】
♂︎
年齢:27歳
近衛騎士団
趣味:鏡を見る
髪型:金髪、髪は長く後ろで髪を結んでいる。
身長:176cm




