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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
異形研究所(仮)
50/52

ep.50 "剣士の一瞬"

ロジェロvsバルザウト①

場面が切り替わる

轟音の中心

そこでは、ロジェロとバルザウトが刃を交えていた。


~~~~~~~~~~


バルザウトの目がロジェロを一瞥する。


「剣の使い手…一試合、願おう」


ロジェロは黒く鈍い光を宿した剣を握り直す

剣士同士の勝負は、アスノの試験ケジメぶりだ

血が騒いだ…喜びではない

刃と刃がぶつかる 本物の命の奪い合いを前にした

緊張によるものだ。


バルザウトは鞘から刃を抜くとただ空を斬った。


——ヒュッ。


虚空を裂いたはずの一閃から透明な"線"が走る

…斬撃波だ

空間がひきつれたように歪み 粉塵を巻き上げ近付く。


二発、三発…

角度を変えながら降り注ぐ。


(…常に意識を向けなければ、首が飛ぶ)


目を凝らさなければ"見えない"

見えたとしても反応が遅れたら致命傷だ

ロジェロは呼吸を浅くし神経を一本に束ねた

受ける選択肢はない、避けるしかない。


跳び上がる

直後、胴を捻って刃の軌道から身を抜く。


その瞬間空気が歪み、ロジェロの輪郭が揺れる

髪が数本さらりと落ちる

刃の線が頬を掠め、血が走った。


着地…そのまま攻めへ切り替える。


"夜桜閃ヤオウセン"


金属より軽い異形の剣により技は進化する

光速の移動にふっと止まったように見える間を挟み

次の瞬間加速する

緩急で相手の目と判断を狂わせながら

斬撃波の隙間を縫っていく。


くぐり抜けた先

ロジェロはさらに間合いを詰め懐へ入り込んだ。


バルザウトの目がほんの僅かに見開く。


「速いな…」


それは驚きではない

速さは見切っている いつでも斬れるぞ…

そう告げる声だった。


だがロジェロは止まらない。


攻撃を重ねて相手の剣を止める

ロジェロらしからぬ正面突破、猪突猛進の物量作戦

さらに一歩、さらに半歩迫り刃が走る。


"黒蓮撃コクレンゲキ"


近距離で斬撃が"咲く"

喉、脇腹、手首、膝

急所へ向かう軌道が同時に何本も走り

逃げ場を奪う連打。


懐に入った 決まる…はずだった。


だがバルザウトは体勢を僅かに変えるだけだった

まるで動いていないように見える

必要最低限のズレ。


金属が弾く音

すべてがバルザウトの剣技に受け流され

ただ無効化されていく

ロジェロの斬撃が水面に吸われるみたいに消えた。


「美しい剣技だが…我の前ではただ醜い」


バルザウトが柄を握り直す

それだけで空気が変わる。


(…自分の意志とは裏腹に鼓動が後退を伝えている)


説明できない

言葉じゃなく、直感が全力で警鐘を鳴らした。


避けるしかない

ロジェロは反射で後方へ跳ぶ

基礎の動き"桜閃"の要領で一気に距離を取る。


離れた瞬間、首筋がひやりと冷えた。

何故か脳裏に"自分の首が落ちる絵"が流れ込む

嫌なほど鮮明に

バルザウトはほとんど動いていないのに

圧だけが迫ってくる。


(この実力差は…不味いか…?)


(いや…情けない…戦いの最中に、弱音など…!)


ロジェロは逆に踏み込んだ

距離を取ったのは逃げるためじゃない

次の一手を"選ぶため"だ。


前へ。


バルザウトの透明な斬撃波が走る

身体をかすめ、風圧が皮膚を剥ぐ

痛みが来れども足は止まらない

動きに隙を作らないよう最短距離で躱す。


さらに一歩

胸元を狙って鋭い一閃…

だが、当たらない。


バルザウトはほとんど動かなかった

つま先を半歩引き重心をほんの少し傾ける

それだけ。


それだけで、ロジェロが積み上げた最短の一撃が

当たる直前で空振りに変わる

刃が切るのは肉ではなく空気

「届くはずだった距離」が、目の前で一枚ずれる。


避けると言うより

ロジェロの剣を届かない場所へ

置き直しているように錯覚する


ロジェロは歯を食いしばる

届かないなら…届くまで詰める。


だがバルザウトはまた半歩

また、わずかに傾くだけ

そのたびに刃先は急所の寸前で空を斬る。


(実戦なのに、訓練で空を斬っているような感覚…!)


振っても振っても手応えがない 屈辱。


「殺意を出しすぎだ」


「!」


その言葉と同時に、縦の剣筋が落ちてくる

避けきれない攻撃を異形の鎧が受け止める

金属を超える耐久が致命傷を吸収した。


「そんな殺意を撒き散らして…

避けてくれと言っているようなものだ」


「たった一刀で勝敗が決まる剣士相手に

その振り方は悪手だ」


ロジェロは着地で体勢を崩し膝をついた

前を向いた時、バルザウトの姿はない。


背筋が凍る

振り向くと…後ろにいる

バルザウトは寸前まで、殺意が微塵もなくなる

まるでお手本を見せつけられているようだった。


殺意の無い一太刀

剣が振られるその瞬間まで反応できなかった

脳が雷の如く避けろと命令する

身を捻る

無理な角度が全身を裂くように痛む

それでも死を回避する。


避けて、すぐ二撃目

その速さはほとんど目で追えていないが

太刀筋を予想して、勘で避ける。


(このまま避け続けるだけじゃ…いつか…!)


そう思った瞬間 横から冷気が降り注ぐ

バルザウトが凍りつき、動きが鈍る

だがその硬直は一秒も持たず解除される。


「ロジェロちゃん、大丈夫かァ!?」


横からアスノが叫ぶ

ノーディクの攻撃を

わざとバルザウトへ当たる軌道に誘導していた。


「あら…ごめんなさい

当てるつもりはなかったのだけど…」


バルザウトの目が、ゆっくりとノーディクへ向く。


「ノーディク…貴様もこの後斬る」


「…アスノ…すまん、助かった」


一瞬、たった一瞬だが

バルザウトの動きが固まっただけで

ロジェロの生存時間は確実に伸びた。


(剣士の勝負の一瞬は…命そのものだな)


二つの戦局が入り乱れる

剣の勝負を邪魔されるのが癪に障ったのか

バルザウトは苛立ちを露わにした

自分を軸に、剣を一周…三百六十度 振り抜く。


縦の軌道で描かれた円の斬撃が

部屋を切断した。


「「!!」」


壁は崩れ、床が割れる

轟音と粉塵で視界が白くなる

アスノの声とノーディクの気配が遠ざかる。


無重力

部屋ごと下階へ落ちる

必死に受け身を取り 衝撃を逃がした。


バルザウトは粉塵の中で言い放つ。


「邪魔者は消えた…殺戮の再開だ」


ロジェロは剣を構え直す

薄々敵わないと感じている…それでも諦めない

再び飛びかかる。


(殺意のない攻撃…それなら)


桜閃の高速移動で距離を詰める

バルザウトは無駄だと言わんばかりに

縦の一撃を落とす

ロジェロは受け止め、流れるように一太刀

傍目には何の変哲もない一撃。


だがバルザウトの目が僅かに細くなる。


「殺意が薄れたな」

(戦いの最中にここまでコントロール出来るのか…)


「そうか…ならよかった」


ロジェロは強く思い込む

敵を"シル"だと思い込む

斬っても死なない、不死身の敵だと決めつける。


実際、まだ相手に一撃も入れられていない

"この異形人間が

不死身の性質を持っていてもおかしくない"

屈辱だが、思い込むには十分だった。


不死身相手に「殺す」なんてのは無駄だ

夜叉の能力を間近で見てきたロジェロには

痛いほど分かる。


なら剣に込めるべきは殺意じゃない。


相手から選択を奪い取るための一太刀

心を折るための一太刀。


…その頃、遠くでシルがひとつくしゃみをした

自分が敵と置き換えられているなど知る由もない。


「だが付け焼き刃の太刀筋で

我を倒せると思うな…!」


バルザウトが剣を振る

まただ、透明の斬撃波。


部屋が崩れた際に灯りがいくつか死んでいる

さっきより見辛い

一点に集中しないと、線が見えないほどの剣技

常に死が隣にいる…一歩間違えれば首が飛ぶ。


斬撃波を回避する

腕と髪が、薄く切れる

絶え間なく斬撃が飛ぶ

集中するロジェロの口から涎が落ちる。


極限

アドレナリンが噴き出し

意識が研ぎ澄まされる…いわゆるゾーンに入った。


二、三、四、五……

無数の斬撃を、紙一重で交わし続ける

今の状態では透明な斬撃波は命を奪う攻撃ではなく

ただの障害物に過ぎない。


だが…ゾーンの欠点は、一点に寄りすぎることだ。


ロジェロは集中しすぎた

バルザウトが背後へ回ったことへの気付きが

ほんの僅かに遅れた。


気付いた時には…剣が振られている。


避ける時間がない

選べた行動は受けることだけだった。


剣で受け止める

だが衝撃を殺しきるほど力を込める時間がない

手が痺れ、指が浮く。


その状態で無理に振った瞬間

柄が手を抜けた。


剣が宙を舞う

狙っていない

意思で放った攻撃じゃない

文字通り"殺意のない"剣。


至近距離にいたバルザウトの反応が一瞬遅れた

刃が頬を掠め、血が走る

初めて通った一撃は

あまりにも情けない当たり方だった。


だが、傷は傷だ。


バルザウトの顔に見て分かる怒りが現れる

戦いの最中ずっと冷静だった男が

別人みたいに目を見開く。


「…情けない攻撃で、我の顔に傷を…」


怒りで声が震える。


「お主は…絶対に生かして帰さん…」


流れる汗

怒りそのものみたいな形相

…空気が、完全に変わった。

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