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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
傷だらけの子供達
30/39

ep.30 "異鎧浸蝕<オニキス・ハイド>"

「さらばだ…失敗作以下の…雑魚が…!」


膨れ上がったメレスの腕が

処刑台の斧のように振り下ろされる。


アスノは思わず目を瞑った

だが、いつまで経っても衝撃はこない

恐る恐る目を開け

視界に飛び込んできたのは…


メレスの拳を真正面から受け止めている

カナの姿だった。


「カナ!」

アスノは声を上げる。


「異形…人間…!」

メレスの顔にあからさまな憎悪が浮かぶ。


カナの体は

黒くざらついた異形の皮膚へと変質し

肥大化したメレスの腕を

かろうじて押しとどめていた。


「アスノ…今のうちに…!」

歯を食いしばりながらカナは叫ぶ。


アスノは荒い呼吸を押さえ込み

ふらつく足を前へ出す。


カナの体を引きずるようにして

メレスから距離を取った。


「儂は…大丈夫じゃ…!」


「助かった…でも…無茶すんな」


カナを壁際にそっと座らせる

その間にも、メレスの殺気は弱まらない。


(クソ…ゲイルを止めなきゃいけねェのに…

こんなところで足止め食らって…

カナにまで助けられて…)


(男として…情けねェ…!)


力の差を嫌でも思い知らされる

胸の奥に焦りが広がっていく。


──その時だった。


「アスノ…」


カナが呼びかける。


「全身の"血の流れ"を感じ取れ…!」


「…?」


アスノは思わず振り返る

何を言っているのか…正直さっぱり分からない。


だが、アスノは言われるがまま荒い息を無理やり整え

血の流れへと意識を向けていった。


「戦いの最中に…瞑想かぁ…?」

鼻で笑いながらメレスが巨腕を振り上げる

集中しかけていたアスノの体が

その一撃で壁へ叩きつけられた。


「ぐっ…!」

石壁がひび割れ、砂埃が舞い上がる。


それでもアスノは膝をつきながら顔を上げる

歯を食いしばり、ふらつく足で立ち上がり

再び血の流れへ意識を戻す。


(何の意味があるかなんて、わかんねェ…

けど、カナが言うってことは…

何かあるんだろ…?)


殴られ、吹き飛ばされ…その度に立ち上がる。


そしてその度に目を閉じて

全身を巡る血の流れを探るように

意識を沈めていく。


次第に…

腰のあたりだけが不自然に熱くなる。


そこだけじわじわと熱が

こみ上げてくる感覚があった。


(なんだ…これ…!?)


体の内側から突き破ろうとする圧力

皮膚の裏側で何かが蠢いている。


その感覚のまま、腰に力を込めた瞬間だった。


アスノの腰から黒くざらついた皮膚が

突き破るようにして音を立て浮かび上がった。


「う、うわあああああああっ!?!?」

アスノらしからぬ情けない悲鳴が漏れる。


「腰」の周りに、一気に黒い装甲が張り付き

異様な質感を持つ異形の皮膚が

鎧のように体を包み込んでいく。


パニックになりかけたアスノとは対照的に

カナはどこか確信したような目で

その光景を見つめていた。


「…やはり、か」

ぽつりと呟く。


「その能力が発動するだけの強さを…

お前はすでに持っておったか…」


カナは静かに続けた。


「それは…"異鎧侵蝕オニキス・ハイド"と呼ばれておる」


「お、"異鎧侵蝕オニキス・ハイド"…」

先生が思わず声を詰まらせる。


カナは短く頷いた

「理屈はわからん…じゃが

その領域に到達した人間だけが使える…

"人間を超えた力"じゃ」


(異鎧侵蝕…だってェ…!?)


これまで敵として見てきた異形の皮膚が

今、自分の腰を覆っている。


「肉体の一部分にだけ異形の皮膚が顕現し…

そこを"核"として身体能力が爆発的に跳ね上がる」


「しかし…なんで腰なんだァ!?」

アスノは自分の体を見下ろし、そこで気づく。


「…!これは…!」


(ヘルニアを…気にしなくても…戦える…!)


アスノは持病のヘルニアを抱えている

常に無意識のうちに

腰への負担を計算しながら戦ってきた。


今、その腰を覆う黒い皮膚は

まるで鋼鉄のコルセットのように体幹を固定し

鉄柱のように体の中心を支えていた…

痛みも、違和感もない

長年、無意識にかけていた"リミッター"が

一気に外れたような感覚。


「…こんな感覚、初めてだぜ…!」


アスノが力を込めて地を踏みしめると

その一歩だけで床石が沈み込み

ひび割れて砕け散る。


そのまま踏み込み、回し蹴りを放つ。


体への負担を一切気にしない

フルパワーの回転力が脚に乗る

アスノの渾身の回し蹴りが

メレスの右腕に直撃した。


鈍く重い音とともに、

メレスの腕に無数のヒビが走る。


「なっ…人間に、異形の皮膚…だと…!?」


メレスの巨体がよろめき

そのまま塔の壁へ叩きつけられた。


壁石が崩れ、粉塵が上がる。


アスノの攻撃は止まらない

踏み込み、拳、膝、蹴り…

どれもがこれまでとは比べ物にならない

破壊力を持っていた。


肉体的な負担というブレーキが一切ない

常に全開の状態で放たれる一撃一撃

その拳は、メレスの肉体を容赦なく削り取っていく。


"双竜拳"ッ!


両腕をうねらせるように繰り出された打撃は

二本の竜が同時に食らいつくかのように

メレスの胸と顎を同時に打ち抜いた。


メレスの頭が跳ね、

白目を剥いて大きくよろめく。


アスノの口元には

戦いの高揚から来る笑みが浮かんでいた。


状況は、一気に逆転していた。


先生はその光景に、思わず呟く。

「こ、こんな…馬鹿な…」


だがメレスも、この程度で終わる男ではない

膝をつきかけながらも

足に力を込めて立ち上がり

大きく息を吐き、無理やり冷静さを引き戻す。


お互いに拳を構え睨み合う

辺りが静まり返り

二人の荒い息だけが、部屋に響いていた。


沈黙を破ったのはメレスだった

床を蹴り、突き出された巨腕が

一直線にアスノの顔面を狙う。


アスノはその拳を大胆にかわし

腰を軸に全身ごと捻って拳を振り抜いた

重い一撃が側頭部を捉え

メレスの顔が床へと叩きつけられる。


「ぐ…っ!」

メレスの視界が揺れる。


アスノは追撃に移ろうとするが

メレスも素早かった

体を転がして立ち上がり

横からの一撃をアスノの頬へ叩き込む。


アスノもすかさず殴り返す

しかし寸前で頭を引いたメレスには当たらない

空振った隙を突かれ

カウンターの一撃を胸に食らった。


「うっ…!」


アスノの体が床の上を転がる

壁に叩きつけられるも、すぐに立ち上がる。


メレスはかかってこいと言わんばかりに

腕を広げ挑発する

アスノはそれに応えるように

拳に力を込め一直線に突進した。


その瞬間…

メレスの手元から、水の塊が飛び出した。


(こいつ…魔法を…!?)


避けきれず

水の球体がアスノの顔面にぶつかる

冷たい衝撃と共に水が一気に弾け

視界を完全に覆い尽くした。


「っ…!」


目が開けられない

鼻と口に水が入り、呼吸のタイミングが狂う。


ほんの一瞬…

だが戦いでは

致命傷になりかねない隙が生まれる

メレスは、その瞬間を逃さなかった。


一直線に踏み込み

容赦のない拳をアスノの脇腹へ叩き込む。


アスノの体が、大きく床の上を転がっていく

メレスは口を吊り上げ、笑った。


「俺はなァ、魔法も使える…!」


「まさか…殺し合いの最中に

不意打ちが卑怯だなんて…言わねぇよなぁ…?」


アスノは転がりながらも

素早く体勢を立て直し

床を強く蹴って

光の矢のような速さでメレスへ飛び込んだ。


「安心しろ…そんなこと言わねェよ」


「なっ…!?」


あまりの速さに

メレスの反応がわずかに遅れる。


「どんな戦法だろうとよ…

最後に立ち上がってたやつが全てだァ!」


アスノの一撃がメレスの体を大きく揺らし

巨体が浮き上がる

白目を剥き、口から黒い血と共に涎が飛び散る

それでもメレスは構え直し

渾身の力を振り絞って拳を突き出した。


"虎牙拳"ッ!!


虎牙組奥義…虎が唸りながら

獲物の体を噛み砕くような一撃がアスノへと迫る

アスノはそれを避けず真正面から受け止める。


拳がめり込んだ瞬間膝がガクンと沈みかける

だが膝が地を打つ直前で

アスノは踏みとどまり、顔を上げた。


「お…俺の…虎牙拳が…!」


メレスが

信じられないというように目を見開く

アスノは血だらけの口元で笑った。


「そんな拳じゃ…俺は倒せねェよ…!」


「ば…馬鹿な…」


カナと先生は、その迫力に圧倒され

ただ呆然と立ち尽くし

見守ることしかできなかった。


そこから先は…完全な消耗戦だった


メレスの振る拳は

時間が経つほどにアスノへ届かなくなっていく

足取りは重く、動きは目に見えて鈍っていった。


対してアスノの動きは

むしろ研ぎ澄まされていく。


拳が迫るたびに

アスノは鋭いカウンターを

確実に叩き込んでいった。


床石が砕け散るほど強く地を踏みしめ、

アスノの拳が何度も何度も

メレスの肉体へとめり込んでいく。


やがてメレスの動きは

電池の切れかけた玩具のように

ゆっくりとしたものになり…

最後には、アスノの拳だけが

一方的にその肉体へ打ち込まれていくのだった。

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