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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
傷だらけの子供達
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ep.26 "ゼファーの息子"

門の前に立っていた男を見た瞬間

誰もが息を飲んだ

ただそこに立っているだけで

周囲の空気が歪むような威圧感。


アスノよりもわずかに高い身長に

全身を鎧のように覆う筋肉。


緑色の髪はぼさぼさで

垂れた目はどこか優しさすら感じさせた。


こいつが北極星の四季の

ゼファーの血を引く男…ゲイル


カナがゲイルのもとへ駆け出そうとした瞬間

先生が必死に腕をつかんだ。


「カナ!近づくな!」


「なぜじゃ!ゲイルはそんなやつじゃない!

何か理由があるはずじゃろ!

なぁ、ゲイル!」


カナの叫びに

ゲイルは唇を噛みしめ、沈黙が続く

やがて押し殺したような声で口を開いた。


「…僕は…そんなやつだよ」


カナの目が大きく見開かれる。


「父を継ぐ男として、虎牙の頭として…

この町を支配する。

そして虎牙の力を見せつけ

勢力を拡大する」


その言葉はあまりにも冷酷だった

カナは声を失い、その場で固まってしまう。


アスノが一歩前に出る。


「おい、ゲイルってやつ…

それは本当にお前の本心なのか?」


ゲイルはゆっくりとこちらを向き

アスノを見つめる。


「君は…双竜のアスノか

指名手配犯がいったい何の用だ?」


「!?」


カナと先生が"指名手配"という

言葉を聞き、驚きを見せる

虎牙組との騒動で、町には外の情報がほとんど

入っていなかったのだろう。


「双竜組としてな

虎牙組のやることを見逃せねえんだよ。

それにカナの願いだ…お前らを止めに来た」


アスノが拳を構える。

しかしゲイルは、手を前に突き出して制した。


「ここで戦うつもりはない…

そしてこれは僕たち虎牙の話だ

双竜を巻き込みたくない」


カナの声が飛び出す。


「ゲイル!そんなことを言っておったらもう…

もう飯も作ってやらんからな!

寝る前に子守唄を歌ってやるのも

やめてやる!」


その目には涙が浮かんでいた。


「…」

ゲイルは視線をそらし、沈黙する。


そして──


「…すまない、カナ」


「!」


カナの喉が小さく鳴る

ゲイルは今度はアスノをまっすぐ見据えた。


「アスノ…もしそれでも

僕を止めに来るっていうなら───」


「ここから西にある、塔の廃墟で待つ」


その一言に

何か引っかかるものを感じた。


ゲイルはそれだけ言うと僕らに背を向け

静かに歩き去っていった

誰もその背中を追いかけることはできなかった。


アスノは去っていく背中を

静かに睨みつけていた。


~~~~~~~~~~


日が暮れる。


カナはどこか遠くを見るような目をしている

その横顔を見ていると…胸が痛くなる。


僕らは、再びカナの家へ戻り

その夜はここで泊めさせてもらうことになった

そして明日、虎牙組の拠点…

西の塔の廃墟へ向かう。


決戦前夜

けれどこの家の中だけは

できるかぎりいつもの夜を装った。


その日の夕飯は、カナが作ってくれた

ちいさな体に似合わない手際の良さだ。


「明日のためにも

たらふく食っておかねばならん」


そう言いながら

テーブルには次々と料理が並んでいく。


小さな家の中が、料理の匂いと

温かさで満たされていく。


みんな心のどこかに不安を抱えている

明日のことを考えると

胃のあたりが少し重くなる。


それでも…少なくとも

ここではそれを表に出さないようにしていた。

今だけは、戦いのことではなく

「食事」のことを考えていたかった。


カナは

アスノの胡座の上に座り

器を抱えてご飯を食べている。


「ゲイルと体格が似ているからか…

アスノからは安心する匂いがする」


そう言って、すっかり懐いていた。


テーブルから少し離れたところで、

先生は本と紙を広げ、何かを書き込んでいた。


「先生、何やってんだ?」

アスノが声を掛けると、先生は顔を上げる。


「塔の構造について

分かる範囲で整理しているんです。

昔、別の地域の塔の報告書を見たことがあって…

似た構造になっているはずです」


机の上には

簡単な塔の断面図のようなものが描かれていた。


ゲイル率いる虎牙組の主力メンバーは

確認できているだけでゲイルを含め四人。


恐らく塔の中で

それぞれが階を分担するようにして

一人一人が待ち構えている。


塔の中での戦いのイメージが

少しずつ形を持ち始めた。


アスノは先生の肩を軽く叩いた。


「任せろよ。

俺らに怖いもんはねェぜ」


先生はほんの少しだけ肩の力を抜き笑う


「心強いですね。

…ありがとうございます」


「先生は用意周到で真面目じゃな!」


夕飯が終わり、食器を片づけ

灯りが消える。


ゲイルを失いたくないと願うカナ

大切なものから距離を取ろうとするゲイル。


一度は確かに存在していた

二人の穏やかな生活。


どうにかもう一度

同じ食卓に座らせてやりたいと思った。

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