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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
山頂の四季
15/40

ep.15 "血の繋がらない家族"

「ロジェロ…王女サマじゃねぇか!

戻ってたのか!」


大声で入ってきたのは

大剣を肩に担いだ屈強な男

全身に傷跡が走り筋肉で服がきしんでいる

彼の名はゼラ。


「すごく逞しくなってる!

美しさは僕の勝ちだけどね☆」


その隣には、細身で背が高く

男にしては髪は少し長い

顔立ちの整った男が立っている

彼の名はユーリ。


二人の姿を見た途端空気が一気に明るくなる。

ロジェロは立ち上がると、力強く手を握り合った

ツワブキは少し離れたところで

その様子を見ながら微笑んでいた。


その日の夜

ツワブキの家は笑い声で満ちていた。


質素な食卓に並ぶ料理

決して豪華ではないが、どれも温かく

香りだけでお腹が鳴る

昔話に花が咲き夜はあっという間に更けていく。


「なぁロジェロ、あの時ユーリが…」

「ちょっとゼラ、それ言わないでよ…♪」

ユーリが慌ててゼラの口を塞ぐ。


「マリーが泣かされた時はさ…」

「ロジェロ、傷だらけで助けにきてくれた…」

マリーの顔が真っ赤になる。


「あったな、そんなことも…

あの時はツワブキ母さんにも思い切り怒られた」

ツワブキも笑いながら話に参加する。


懐かしい話題が次々と飛び出し

ロジェロもまるで

少女の頃に戻ったように笑っている。


部屋の中の温度が少し上がった気がした。


僕とアスノは

仲間というより家族そのものの雰囲気に

ただ圧倒されていた。


~~~~~~~~~~


寝る前

一通り笑い話も尽き

皆がそれぞれ布団を敷き始めた頃。


ロジェロはふいに立ち上がり

さっきまでとは違う真剣な表情で皆を見回した。


「…そういえばまだ、言ってなかったな。

私、今は指名手配だ…国に追われている」


ツワブキの家の空気が少しだけ重くなる

だが三人は取り乱すことなく、静かに頷いた。


「知ってるよ。町中みんなに話は流れてる」

ユーリが苦い顔で言う。


ゼラも真剣な表情になる

「ロジェロ、町には近付かない方がいい…

賞金目当てのやつも多い、危険だ」


マリーも不安そうに見つめる

「フジの町のことは気にしないで…

逃げて…自分のやりたいことをやってほしい」


その言葉には本気でロジェロの

身を案じる気持ちが滲んでいた。


…そう言われても尚

ロジェロは故郷を放っておけないようで

拳を握りしめながら、僕らに話をしてきた。


「すまん…どうしても

このまま次の町へ進むことは出来ない…」


故郷を見捨てたくないという想いが

声の震えで伝わってくる。


僕とアスノは頷く

「困ってる人を見過ごすことは出来ないよ」


「最初からそのつもりだぜェ!」


フジの町を、救う。

もうとっくに国を敵に回した僕らに

今さら恐れはなかった。


~~~~~~~~~~


次の日、ロジェロは思い出の場所巡りと言って

みんなで出かけていた。


ツワブキは僕らをしばらく泊めてくれると言い

その日も温かい夕食を振る舞ってくれた。


町を心配してくれるのは嬉しいが

本当に大丈夫なのかと

ツワブキの声には不安が滲む。


「まあ…俺たち山頂の四季(クレストカルテット)がいる。

それだけで怖いものなしだ」

ゼラが拳を握る。


ユーリも誇らしげに髪をかきあげて言う

「僕たち、ずっと鍛えてたしね♪…嗅覚を」


マリーも真剣な表情で頷いた

「…私も力を貸すよ」


四人の絆はあまりに強く

その空気に僕まで胸が温かくなった。


ツワブキは

そんな子どもたちを見回しながら

優しく微笑んだ。


「いざとなったら、私があんたたちを守るよ…」

その言葉にある覚悟は、本物だった。


アスノがずいっとツワブキへ身を乗り出す。


「なぁ伝説のババァさんよ!

例の技だ、虎牙組との抗争を終わらせたって噂の

"竜虎覇道"…教えてくれよ!」


「アスノ、その呼び方は二度と言うな。殺すぞ」

ロジェロの怒気にアスノが固まる。


ツワブキは苦笑しながらも

少し考えてから頷いた


「ロジェロを守る男なら

技の一つくらい教えてあげてもいいね」


アスノは椅子の上でガッツポーズをする。


そのすぐ横では

ユーリが何気ない顔でゼラの皿に肉を乗せてやり

マリーは慣れた様子で

ロジェロの口元に付いたソースを拭っていた。


食後

アスノはツワブキに連れられ

庭で"竜虎覇道"の練習に励んでいた

叫び声とときどき何かが吹き飛ぶ

鈍い音が聞こえてくる。


僕は満腹になった腹をさすりながら

ひとり家の外へ出て

山の上から見える夜空をぼんやりと眺めていた。


~~~~~~~~~~


場所は…フジの町、町長の館。

山の静けさとは不釣り合いなくらい

町長の館は豪華な装飾でぎらついていた。


その中心

豪華な椅子にふんぞり返るように座っている男

町長ブラムは

目を細めながら書類をめくっている。


「…ロジェロが帰ってきた、だと?」


その声は金の匂いに反応した獣のようだった。


側近が頭を下げる

「はい、町外れで住民が目撃したとの報告です」


報告者には金を握らせておけと

指先をひらひらと振りながら笑う

人を金で買うことに

ためらいは一切ない。


ブラムの口元が歪む。


「ふふ…金、金、金…

指名手配の王女が…この町へ…?」


椅子からゆっくりと立ち上がり

窓の外を

膨れ上がった町並みを見下ろしながら笑った。


「こいつを捕らえるだけで

王都から莫大な褒賞金が…!」


恍惚とした声音で呟くと

指先で机を叩く。


「…私のペット達を解放しろ」


側近が顔を上げ

よろしいのですか?と確認をする。


ブラムはにたりと笑う。


「ごはんの時間だと伝えろ

胃袋を温めておけ…と」


気味悪い笑みを浮かべ

ブラムは両手を広げた。


さあ…稼ぎ時だ…!


~~~~~~~~~~


次の日…

朝から出かけていたツワブキは

夜になっても帰ってこなかった。


最初は誰もが楽観していた

だが夕食の時間を過ぎても玄関は静かなまま。


辺りが暗くなり始めた頃には

さすがに不安が胸の奥でざわつき始めていた。


そんな中、家には一通の手紙が届いた

差出人は町長ブラム。


手紙を読んだ山頂の四季(クレストカルテット)たちは、

顔色を変え、そのまま家を飛び出していった。


…その頃、僕とアスノは修行をしていて

この山のどこかで何かが動き始めていることに

僕らはそのとき

まだ何ひとつ気付いていなかった。

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