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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第2部 — 天使とその崇拝者たち
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チャプター5 — 凍える闇の中で

翌朝――僕は、息を呑むように目を覚ました。

重たいまぶたを無理やり持ち上げた瞬間、視界に広がったのは、闇。

ただの暗さじゃない。

――息が詰まるほどの、冷たい闇だ。


ぞくり、と背筋を走る寒気。

氷の針が体の内側まで突き刺さるような感覚に、思わず息を吐く。

「っ……く、寒……っ!」

呼吸するたびに肺が凍え、空気そのものが敵のように感じられた。


目が少しずつ暗闇に慣れてきた頃、手首と足首に鈍い痛みが走る。

――何かに、縛られている。

動こうとした瞬間、金属の擦れる音が響いた。

「……っ!? 鎖……?」


両腕、両足。

そこには、黒い鎖が絡みついていた。

普通の鎖じゃない。

動くたびに、何かが吸い取られていく感覚――

僕の体を流れているはずのマナが、まるで飲み込まれていくようだった。


「な、なんだこれ……?」

かすれた声が、冷たい空気に溶けていく。


静寂。

音が、ない。

あるのは、僕の荒い息と鎖の軋む音だけ。


「マナが……封じられてる……?」

集中しようとする。

けれど、いつものように力が湧かない。

胸の奥が締めつけられ、鼓動だけが速くなる。


「ど、どうして……僕が……?」

歯が鳴る。恐怖か、それとも寒さのせいか。


――その時。


カツン。


冷たい石の床に、乾いた足音が響いた。

暗闇の奥から、一つの影がゆっくりと現れる。

長身で、動きに一切の無駄がない。

まるで、この空間すらその存在に支配されているかのようだった。


「だ……誰だ……?」

声が震える。


影が近づく。

光の乏しい中でも分かる、深い緑の瞳。

短く結ばれた黒髪。

そして、唇に浮かぶ、冷たい笑み。


「……ふむ。目が覚めたか。」


その声――低く、鋭く、どこまでも冷酷だった。


「俺の名はラウドレス。」

「ら……ラウドレス……?」

「そうだ。……そしてお前は――"魔の子"。俺の実験に使わせてもらう。」


「実験……? な、何の話だよ!」

必死に鎖を引く。だが、無駄だ。

マナが封じられた僕は、ただの人間以下。


ラウドレスは一歩、また一歩と近づいてくる。

「動くな。抵抗しても無意味だ。……今は黙って、俺の言葉を聞け。」


その眼差しに、背筋が凍る。

「お前の力は、俺のものだ。ヴォルタ王国への復讐……それに使わせてもらう。」


「ヴォルタ……? まさか……そんな理由で……!」

「理由などどうでもいい。お前の存在こそが、俺の鍵だ。」


ラウドレスの声が、静かに、しかし確実に空気を支配していく。


「おとなしくしていろ。無駄に動けば、後悔するぞ。」

そう告げると、彼は踵を返し、闇の奥へと消えていった。


残されたのは、冷たい鎖と、僕の荒い呼吸だけ。


「くっ……どうすれば……」

心臓が痛いほどに高鳴る。

けれど――僕はまだ終わっていない。


「落ち着け……考えろ……」

目を閉じ、呼吸を整える。


鎖は古びているが、根元の鉄環は岩壁に深く埋め込まれている。

逃げるには……わずかな隙を見つけるしかない。


「……必ず、抜け出してみせる。」

僕はそう呟き、再び鎖に触れた。


マナの流れを極限まで抑える。

強くすれば吸われる。

弱くすれば、鎖は反応しない――。


「……っ、そうか……!」

ほんのわずかに、金属がきしむ。


成功の兆し。


「ふふ……やっぱり、俺を甘く見たな……ラウドレス。」

冷たい笑みが浮かぶ。


闇の中で、僕の目だけが静かに光を宿した。


――この鎖は、必ず断ち切る。

そして、奪われた全てを取り戻すために。

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