チャプター4 — 苦闘の末に得る、心安らぐひととき
シャワーを浴び終え、肩にまだ水滴が残る中、手に巻かれた包帯はほとんど乾いていた。
部屋のひんやりとした空気に、思わず肩を震わせながら、タオルで手早く腕を拭う。
――驚いたことに、ヘレナはすでにそこにいた。
浴槽のそばの椅子に座り、いたずらっぽい笑みを浮かべて。
「さて、小さな天使……今日はずいぶん汗をかいたようね」
彼女は濡れた僕の肩までの髪を、指先でそっと掬い上げる。
抗議する間もなく、ヘレナは別のタオルで髪を丁寧に拭き始めた。
その手の感触は意外なほど優しく、どこか慰められるようだった。
「んっ……ヘレナ、なにをするんだ?」
頬を赤らめ、少し照れくさそうに問いかける僕に、彼女はいたずらっぽく笑った。
「髪を乾かしてあげてるのよ、もちろん!
それに……エンジェル、あなたがどれだけ大事か、ちゃんと覚えておいてほしいの」
一瞬、視線をしっかりと合わせ、輝く笑顔で告げる。
胸が高鳴り、恥ずかしさと心地よい温かさが入り混じる。
「そ、それは……覚えておく必要は……」
言葉を濁し、目をそらす僕。
彼女はくすくすと笑いながら、さらに丁寧に髪を拭く。
「いいの、いつも知っていてほしいの。
どれだけあなたを大切に思っているか、どれだけ愛しているか……
あなたは私のエンジェル、エンジェル。ずっと」
目を閉じ、激しい訓練の後の疲れを、彼女の柔らかな手の動きが静めていくのを感じる。
その愛情に包まれ、照れと恥ずかしさの中で、なぜか安心感に満たされる。
「ヘレナ……ありがとう……ぼ、僕は……」
言葉がうまく出ず、もどかしくも胸が熱くなる。
彼女は微笑みながら、いたずらっぽくも優しい声で囁く。
「何も言わなくていいのよ、私の天使……
ただ、この時間と私の優しさを感じて。
私がどれほど愛しているか、わかってほしいだけ」
僕は軽く頷き、半閉じの瞳でその温もりに身を委ねる。
世界のすべてが一瞬消えたかのような感覚。
髪をしっかり乾かすと、ヘレナは立ち上がり、そっと手を取る。
「さあ、小さな天使……休む時間よ」
柔らかな微笑みを浮かべ、優しく誘う。
僕は少し驚きながらも、その温かさに逆らえず、後に続いた。兄のエリエと共に使っている寝室へ。落ち着いた雰囲気に包まれ、すでに布団は整えられ、洗いたての匂いが漂う。
淡い光が部屋を暖かく染める。
「ここに横になりなさい」
ベッドに身を沈めると、ヘレナはそっと隣に腰を下ろし、肩に軽く手を置き、ゆったりと揺れるように撫でる。
そのリズムは心地よく、世界が静止したかのようだった。
「今日もよく頑張ったね、エンジェル……
体も心も、休ませる時間よ」
まぶたが重くなる。
眠りに落ちる直前、額にそっと温かいキスが触れた。
「おやすみ、私の天使……」
瞳に愛情を宿し、僕を包み込む。
安心感に満たされ、初めて知る深い保護感に身を委ねながら、ゆっくりと眠りに落ちる。
ヘレナは、きっとずっと僕を見守ってくれる……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
半分眠ったままの僕の耳に、窓の近くから小さな音が聞こえた。
驚き、ゆっくりと起き上がると、見慣れた姿が窓辺に立っている。
アンジェリーナ――もう十三歳、二年前より成長した彼女は、いつもの温かな笑顔で僕を見つめる。
「やっほー、エンジェル! お届け物よ!」
返事をする間もなく、彼女の後ろに六人の影が現れた。三年前に救った少女たちだ。七人全員が僕と同じエルフだった。それぞれの表情と視線が、僕の胸を異なる感情で打つ。
「ステラ……」
目を見開き、息を飲む。
十五歳、長い栗色の髪に澄んだ青い瞳。
恥ずかしげながらも優しさに満ちた瞳で、一歩前へ。
「……エンジェル……ありがとう……」
視線を逸らしつつ、か細くも感謝を口にする。
アンジェリーナが微笑み、くすくすと。
「さあ、ステラ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよ。
あなたのヒーローでしょう?」
次にローザ。
十三歳、肩までの黒髪に片側の編み込み。
翠色の瞳は控えめながらも輝きを帯びる。
「エンジェル……会えてうれしい……助けてくれて……忘れない」
小さな声に震え、胸が熱くなる。
オーレリア、十五歳。
長身で紺碧の髪、紫の瞳。
端正な姿勢と柔らかな敬愛の視線が混じる。
「エンジェル……あなたの勇気と強さ……私の励みです……どこまでもついていきます」
ルナ、十三歳。
青黒い髪、濃い青の瞳。
冷たくも美しい顔に、心底からの敬愛が宿る。
「エンジェル……会えて嬉しい……見守ってくれてありがとう」
クララ、十五歳。
黒髪に紅色の瞳、可愛らしくも大人びた印象。
「エンジェル……大好きです……ずっとそばにいたい」
最後にミア、十五歳。
肩までの金髪に青い瞳。
「エンジェル……尊敬しています……いつもそばにいます」
言葉を失い、ただ七人の瞳と笑顔、そして献身に圧倒される。
アンジェリーナが一歩前へ。
「ねえ、エンジェル……ほら、全部あなたのファンよ。すごいでしょ?」
包帯を巻いた手を見下ろし、照れながらも頷く。
「わ、わからない……」
アンジェリーナはくすくすと笑い、手を握る。
「言葉はいらないの、私の天使……
あなたを救ったから、そしてあなただから、みんな集まったの」
ステラが手を取り、そっと握る。
「ありがとう……」
ローザも微笑む。
「ヒーロー……」
オーレリア、ルナ、クララ、ミアも徐々に近づき、半円を描く。
心臓が跳ね、驚きと恥ずかしさ、そして温かさが押し寄せる。
「みんな……僕のために……?」
アンジェリーナが頷き、笑う。
「そう、天使よ。感謝と愛を伝えたくて……」
静かに頷き、包帯の手を見つめる。
「ありがとう……忘れない」
七人は一斉に笑みを浮かべ、この瞬間が永遠に刻まれたかのように感じられた。
その時、扉がきしみ、エリエが入ってくる。
驚きから呆れ顔へと表情を変える。
「おお……これは一体……」
腕を組み、にやりと笑う。
「小さな弟が、ファンクラブの中心に?」
アンジェリーナはくすくすと笑い、手を握る。
「エリエ! みんなエンジェルの感謝を伝えに来ただけ!」
エリエは眉を上げ、状況を確認。
「ほう……全部エンジェルのためか……そして彼は黙ってるのか?」
頬を赤くし、手を見つめる僕。
「わ、わからない……」
エリエは頭を振り、笑う。
「そりゃそうだ、小さな天使。救ったんだから当然だろう?」
アンジェリーナは前に出て微笑む。
「そうよ、エリエ! ただそばにいたいだけなの」
エリエは楽しそうに目を輝かせる。
「なるほど……監視しておかないとな。
じゃないと、全部に押しつぶされそうだ」
僕は小さく唸りつつも、笑みを隠せない。
ヘレナとエリエは視線を交わし、楽しげに僕を見守る。
久しぶりに感じる、不思議な温かさ。
責任感と保護される感覚、そして喜び――
僕を慕う人たちに囲まれた幸福。
エリエが頭を振り、笑みを浮かべる。
「よし……楽しんでおけ、小さな天使。
明日は訓練があるから、長すぎる昼寝は許さないぞ!」
みんなは柔らかく笑い、この部屋はこれまで以上に温かく、活気に満ちた瞬間に包まれた。




