チャプター52 ― 天使に贈る甘いチョコ。
しばらく歩くと、俺たちは小さな店の前に着いた。
店内からは、温かいココアとキャラメルの甘い香りが漂ってくる。
ガラス張りのショーウィンドウには、繊細な金色の模様があしらわれ、その向こうには完璧な形のチョコレート、フルーツ入りのタブレット、小さなアート作品のようなチョコがずらりと並んでいた。
ヴァイオレットが軽やかに一歩前へ進み、目を輝かせる。
「わあっ!エンジェルくん!見て、このチョコの数々!きっと最高のやつ、見つけてあげるからね!」
ブランシュは少し距離を置き、優雅で落ち着いた歩みで彼女の後ろに続く。
ショーケースを眺め、眉を少し寄せるが、口元には柔らかい笑みが浮かんでいる。
「ヴァイオレット、ちょっと落ち着きましょう。急ぐ必要はないわ。選ぶなら、本当に完璧なものを。」
ヴァイオレットは、ほとんど飛び跳ねるように最初のカウンターに向かう。
「でも、いっぱいありすぎるよ!どうやって決めるの!?!」
ブランシュは彼女に身を乗り出し、落ち着いたけれど毅然とした声で言う。
「まずはガナッシュからね。そのあと、他のチョコを見ていくの。エンジェルくんには最高のものをあげたいの。だから、焦らず慎重に。」
ヴァイオレットは俺に向き直り、目をキラキラさせる。
「ねえ、エンジェルくん、ビター派?それとも甘めの方がいい?」
「うーん……どっちも好きかな……君たちに任せるよ。」
ブランシュは、変わらぬ落ち着きで小さなチョコレートの板を手に取る。
「これは自家製よ。きれいに包装もできる。見て、品質も見た目も完璧。」
ヴァイオレットはキャラメル入りのホワイトチョコの箱をつかみ、嬉しそうに掲げる。
「で、これも!これもエンジェルくんのため!絶対美味しいんだから!」
「ヴァイオレット……」
ブランシュが優しく微笑む。
「そんなに大げさにしなくてもいいのよ。でも、あなたのその熱意は分かるわ。」
俺は二人を見つめる。
その仕草は正反対だ。
それでも――二人とも、同じ温度で俺を見ている。
ヴァイオレットはぴょんぴょんと落ち着かず飛び跳ね、ブランシュは優雅に指先をチョコに滑らせ、ひとつひとつの感触を確かめるかのようだ。
「エンジェルくんには最高のものをね。」
ブランシュが俺に向かって微笑む。
「私たちが、どんな気持ちで選んだのか――それだけ、受け取ってくれたらいいわ。」
「ありがとう……」
少し赤くなりながら、俺は小さく呟く。
ヴァイオレットは跳ねるように喜び、そっと俺の腕を握る。
「でしょ!ちゃんと頑張ったでしょ!」
ブランシュはさりげなくも真剣な笑みを浮かべ、空を見上げる。
「ええ、よくやったわ……さあ、エンジェルくん、一緒に選びましょう。」
俺は笑みを返し、二人の姿を見ながら、全てを味わって確かめるしかないと悟る。
数分の議論と軽い試食の後、ヴァイオレットとブランシュはようやく店を出る。
二人とも、大事に包装された箱を手にしていた。
「できたー!」
ヴァイオレットが叫ぶ。頬は赤く、
「……気に入ってくれるといいな、エンジェルくん!」
彼女が差し出す箱の中には、ミルクチョコとプラリネで作られた、ハート型のチョコが丁寧に並んでいる。
少し頭を下げ、白い髪が顔にかかり、微笑みがこぼれる。
喜びと照れが混ざった、小さな光のような笑顔だった。
ブランシュは、自分の箱を差し出す。
ヴァイオレットのものと似ているが、表情は落ち着きと優雅さを保っている。
頬にわずかに淡い紅が差し、ほとんど見えないが、澄んだ青い瞳には静かな温かさが宿っていた。
「エンジェルくん……これを選んだの。ヴァイオレットと同じくらい、気に入ってくれるといいけれど。」
柔らかくも落ち着いた声で、彼女の指先がそっと薄紙に触れる。
「ありがとう……本当に、二人ともすごいよ。」
少し恥ずかしさを感じながら、俺は小さく呟く。
ヴァイオレットはさらに赤くなり、下唇を噛みながら体をそわそわさせる。
ブランシュは微かに頭を傾け、穏やかで静かな笑みを浮かべ、ヴァイオレットのはしゃぎっぷりと好対照を成していた。
「さあ……そろそろ散歩の続きをしようかな?」
ヴァイオレットが手をぱっと振りながら、興奮を隠そうと声を張る。
「ええ」
ブランシュは落ち着いた声で答える。
「まだ街中を歩くには道のりが長いわね。」
俺は心の中で微笑む。
二人の気遣いの違いに心が温かくなる。
俺たちは再び街の中心を歩き始める。
箱をしっかり抱え、まるで小さな宝物を守るかのように進む。
ヴァイオレットとブランシュはそっと店の扉を閉め、朝の空気に鈴の音が一瞬だけ響く。
二人はエリーとエスターのもとへ向かう。
彼らは歩道の上で静かに談笑していた。
「で、どうだ?」
エリーがにやりと笑いながら声をかける。
「俺の天使を堕落させるものは見つかったか?」
「ちょっと!」
ヴァイオレットが抗議する。顔は赤くなり、箱をぎゅっと抱え込むが、笑顔は弾けている。
「……これは、ただのエンジェルくんのためなの!」
「いい選択ね、きっと喜んでくれるわ。」
ブランシュは落ち着いた口調で俺に箱を差し出す。
顔は無表情だが、瞳には柔らかな温かみがあり、冷たい太陽の光のように感じられる。
「ありがとう……本当に、二人ともすごいよ。」
俺は少し戸惑いながらも口ごもる。
手はまだ荷物を抱えたままだ。
再び歩き出す。街の中心の賑やかな歩道を進む。
人々が行き交い、市場の屋台には果物や菓子、色とりどりの品物が並ぶ。
石畳を転がる荷車の音が、会話や笑い声と混ざり合う。
「エンジェル、いつかこれ、全部食べてみるべきよ!」
エスターが笑いながら、数歩先の菓子の屋台を指さす。
「うーん……今日は、ただ君たちと歩きたいだけだな。」
俺は軽く笑いながら答える。ヴァイオレットは輝く瞳で俺を見つめ、ブランシュは落ち着いた歩みで優雅に前へ進む。
後ろからエリーが冗談めかして突っ込む。
「おっと、天使が感傷的になってるぞ?こんなに女の子がいるのに、溶けすぎるなよ。」
俺は首を軽く振り、笑いながらグループのペースに合わせる。
特別なことは、何もない。
それなのに――胸の奥が、静かに温かい。




