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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第4部 — 優しきヴォルタ王国および氷霜のエーテル王国における数多の戦闘。
60/62

チャプター51 ― 派手な救出のあとで、ヴォルタ王国をぶらりと。

このたび、

『天使と紫の炎』

第4部――優しきヴォルタ王国および氷霜のエーテル王国における数多の戦闘。

は、

チャプター51 ― 派手な救出のあとで、ヴォルタ王国をぶらりと。

より、いよいよ幕を開けます。


新たな舞台、新たな戦い、そして新たな物語が始まります。

どうか最後までお楽しみいただけましたら幸いです。


それでは、引き続き『天使と紫の炎』の世界を、ゆっくりとお楽しみください。

皆さまのご一読を、心より願っております。

どうぞ、良い読書時間をお過ごしください :)

狼蜘蛛や巨人のサイクロプス、狂った科学者たちと死闘を繰り広げた末、ようやく俺は心の奥に静かな安らぎを取り戻していた。

だが目覚めた瞬間、腕と脚にいつもとは違う重さを感じる。


学院の私室、その大きな窓から朝日がかろうじて差し込んでいる。時刻は朝七時。

世界はまだ眠っているように静かだが、俺の疲労だけははっきりと主張していた。

昨日の激闘を思い出すかのように、身体は悲鳴を上げ、筋肉は張りつめ、意識は現実と曖昧な記憶の狭間を漂っている。


俺はゆっくりと階段を下りていった。一歩ごとに、とてつもない労力を要するかのように足を引きずりながら。

そして――そこで、疲れを忘れかける光景に出くわす。


エリーがいた。手すりにもたれ、唇にはいつもの皮肉めいた笑みを浮かべている。

白いシンプルなTシャツに、ベージュの街着用スラックス、手入れの行き届いた黒い靴。その格好は妙に様になっていた。

彼の視線はすでに俺を捉えており、あの憎たらしくもどこか憧れてしまう愉快そうな光が宿っている。


その隣では、ヴァイオレットがひときわ輝いていた。

身体のラインを美しく際立たせる紫のワンピースは、袖が短く、繊細な花柄があしらわれている。

黒いカチューシャが髪をまとめ、黒いヒールが床を軽く打つ。

爪も同じ紫色に塗られていて、彼女は温かな笑顔で俺に声をかけた。

その瞳は、優しさと待ちきれなさが入り混じってきらめいている。


エスターは相変わらず、清楚で端正な装いだった。

真っ白なシャツに上品な黒のパンツ、足元はバレエシューズ。

金髪はきちんとしたツインテールに結われ、柔らかな表情を縁取っている。

長年の友人に接するかのように、少し照れた微笑みを浮かべて俺に挨拶した。


そして――ブランシュ。

あまりにも美しく、現実離れした存在。

淡い水色と深い青を基調とした街用のドレスは、彼女の肢体に完璧に寄り添っている。

控えめな胸元、直線的な上部の意匠、青い羽根の装飾、そして左太ももを覗かせるスカートの切れ込み。

すべてが俺の視線を奪った。


青いヒールが軽く音を立てながら、彼女は俺のもとへ歩み寄る。

後ろでまとめられた髪と、肩まで垂れる前髪。

彼女は包帯の巻かれた俺の左手をそっと取り、真っ直ぐに見つめ、温もりを込めてその手に口づけた。

その笑顔は、眩しいほどに輝いている。


「おはよう、エンジェルくん……」


完璧な所作と発音。だがそこには、確かな感情が宿っていた。


するとエリーが、いつもの調子で口を挟む。


「やれやれ、どうやら我らが英雄様もようやくお目覚めのようだな。

 で、エンジェル? 何時間寝たんだ? まさか十分とは言わないよな?」


俺はわずかに頬を赤らめ、すぐには答えられなかった。

ヴァイオレットがくすりと笑い、エスターは控えめに微笑む。

ブランシュは俺の手をさらに強く握り、その熱のこもった視線に、理由のわからない震えが走った。


「今日は外に出たらいいんじゃないかと思ってさ」

エリーは悪戯っぽくウインクする。

「街が俺たちを待ってる。……それに、うちの小さな天才が外でどれだけ魅力的か、見せる頃合いだろ?」


「エンジェル、行くでしょ?」

ヴァイオレットが、ほとんど跳ねるように尋ねてくる。


「うん……まあ……」

俺は少し戸惑いながら答えた。四人に囲まれて、まだ頭が追いついていない。


ブランシュが再び微笑み、胸の奥にじんわりとした熱が広がる。

彼女は小さく笑った。


「ふふ……安心して。今日は一日中、離さないから」


やがて俺たちは外へ出る。

朝の冷たい空気が頬を打ち、ヴォルタの街はゆっくりと目を覚まし始めていた。

それでも、俺たちの一団はすでに視線を集めている。


ヴァイオレットは少し前を歩き、ヒールを軽やかに鳴らす。

エスターは落ち着いた歩調で続き、ブランシュは俺の隣にぴったりと寄り添い、迷いなく手を握っている。

エリーはというと、向けられる視線すべてを楽しんでいる様子だった。


「で、エンジェル」

エリーが俺に声をかける。

「最初は何にする? カフェか、散歩か、それとも買い物? ――全部って手もあるけど?」


「ぜ……全部で……」

まだ少し朦朧としながら、俺は答えた。


「決まりね!」

ヴァイオレットが声を弾ませる。

「今日は、人生最高の日になるわよ!」


石畳の道を歩き、学都の街並みを抜けて、俺たちは駅へと向かう。

ブランシュがそっと俺の手を握り、その温もりに、この一日が少し特別なものになるかもしれない――そんな予感が胸をよぎった。

もしかすると、俺が今まで知らなかった「普通」に、ほんの少しだけ触れられるのかもしれない。


「エンジェルくん……」

ブランシュが囁くように言う。

「周りを見て……味わって。街も、世界も……あなたのためにも、ちゃんと存在しているのよ」


俺は小さくうなずき、目に映るすべてを心に刻もうとする。

石畳に反射する光、風に揺れるヴァイオレットの髪、エスターの穏やかな笑顔、そして隣にあるブランシュの安心感。

すべてがどこか非現実的で、それでも俺は、はっきりと「生きている」と感じていた。


エリーは相変わらず俺をからかい続け、

ヴァイオレットは愛嬌のある逸話や一言で何度も俺を驚かせ、

エスターは集団の一挙一動を静かに観察するように心に留め、

そしてブランシュは――ただ俺を見つめている。

けれど、その視線の奥に、言葉にされない感情が満ちていることを、俺は知っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


数分後、俺たちは市内列車を降りる。

扉が開き、ふわりと空気が流れ込み、朝の光が一気に俺たちを包み込んだ。

目の前に広がるのは、大きな橋。


それは古風な建築様式の橋で、幅広く、石畳が敷かれ、細身の街灯と、両端には石造りの天使像が立っている。

眼下では、川がガラスの帯のようにきらめき、空の色と中心街の塔を映し出していた。

遠くには、明るい外壁、色とりどりの看板、賑わうテラス席、そしてすでに目覚めきった街のざわめきが見える。


「ああ……」

ヴァイオレットが大きく伸びをしながら息を吐く。

「ここ大好き。空気だけでも違うと思わない?」


「うん……そうだね」

エスターが行き交う人々を眺めながら答える。

「“生きてる”って感じがする」


俺も周囲を見渡す。

橋の上は人で溢れていた。学生、家族連れ、準備を始める大道芸人たち。

ギターの調弦をする者、イーゼルにキャンバスを立てる者。

そよ風がブランシュの髪を揺らし、彼女は少しだけ顔をこちらへ向けた。


「考えごとをしたいとき、私はよくここに来るの」

落ち着いた声で彼女は言う。

「この橋はね、二つの地区を繋いでいるだけじゃない。人と人も、繋いでいるのよ」


ポケットに手を入れたまま、エリーがくくっと笑う。

「相変わらず詩的だな、ブランシュ。そんなに美人じゃなかったら、観光案内人の説明だと思うとこだ」


彼女は片眉を上げ、口元に小さな笑みを浮かべる。

「あなたも、そんなに生意気じゃなければ、少しは紳士に見えるのに」


「一本取られた!」

ヴァイオレットが大笑いする。


俺も思わず微笑み、軽く笑ってしまった。

空気は軽く、どこか弾んでいる。


俺たちは並んで、ゆっくりと橋を渡る。

アーチの間を風が抜け、向こう岸のパン屋やカフェから、焼き立てのパンとコーヒーの香りが運ばれてくる。

街の活気が、すぐそこまで迫っていた。

最後のアーチを抜けた瞬間、景色は一変する。


通りには、満席のカフェテラス、色鮮やかな書店のショーウィンドウ、衣料品店や職人の店が並ぶ。

笑い声、会話、人々のざわめき。

路地の角では音楽が奏でられ、子どもたちが風船を追いかけて走り回っている。


突然、ヴァイオレットが輝くような菓子の並ぶショーケースの前で立ち止まった。

「見て見て! 紫のシュークリームよ! 絶対食べなきゃ!」


「食べる気か、全部買う気か?」

エリーがわざとらしく無垢な顔で尋ねる。


「もちろん両方!」


ブランシュが楽しそうに俺を見る。

「覚悟して。荷物持ちはあなたよ」


俺は笑って答える。

「これくらいなら、今までの方がよっぽど大変でした」


「ヴァイオレットとの買い物には勝てないけどね」

エスターがくすっと笑う。


「ちょっと! 趣味がいいだけでしょ!」

ヴァイオレットは拗ねたふりをする。


やがて俺たちは、中央大交差点近く、銀の翼を持つ噴水の正面にあるカフェのテラス席に腰を下ろした。

店員が行き交い、カップが触れ合い、会話のざわめきと水音が混じり合う。


エリーはブラックコーヒー、

エスターはミントティー、

ヴァイオレットは山のような生クリームを乗せたホットチョコレート、

ブランシュはバニラのカプチーノ。

俺はカフェオレを頼んだ。


「エンジェル、相変わらず地味だな」

エリーがからかう。


「長所だろ?」

俺が返すと、


「慢性的な疲労の証かもね」

ヴァイオレットがウインクする。


俺は苦笑して首を振った。

「本当に、君たちは……」


「そうかもしれないわね」

ブランシュが言う。

「でも、私たちがいないとき、寂しくなるでしょ?」


悪戯っぽく、唇の端を上げて、彼女は俺を見る。

俺は少し気恥ずかしくなって、視線を逸らした。


「……否定はできない」

小さく呟く。


当然、エリーが見逃すはずもない。

「おおっと、天使様が感傷的だぞ。ハンカチ持ってくるか?」


「噴水に投げ込まれたいか?」

俺は皮肉を込めて言い返す。


「やってみろよ。コーヒーぶちまけてやる」

エリーは笑いながら返す。


全員が笑い出す。

普段控えめなエスターまで、小さく吹き出した。


時間は静かに流れ、分が、やがて時間になる。

授業の話、教師の噂、学院のくだらないゴシップ、馬鹿げた思い出。

街の次の祭りの話題にまで及んだ。

雰囲気は素朴で、軽やかで、ほとんど完璧だった。


ふと、ブランシュがテーブルの下で、そっと俺の手に触れる。

ほとんど目を合わせないまま。

それでも、その温もりははっきりと伝わってきた。

誠実で、静かな想い。

言葉は、必要なかった。


太陽は屋根の上へと昇り、街は光に満ちていく。

遠くでギターの音が響き、俺は思う。


――今日だけは。

――今日くらいは、きっと、すべてがうまくいく。

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