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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
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チャプター50 ― 再び、月影に交わした約束。

王城のバルコニーの一角、石壁にもたれかかるようにして、俺は座り込んでいた。

膝の上には大太刀。月光を受けて、刃が静かに輝いている。

俺はゆっくりと布で刃を拭い、その微かな摩擦音だけが、静まり返った夜に溶けていった。


その背後――

彼女たちは、まるで無言の軍勢のように、整然と並んで立っている。

だが、漂う気配はまるで違う。

温かく、濃密で、胸を締めつけるほどに強い。


彼女たちは俺を「仲間」や「一時の英雄」として語っているわけじゃない。

俺は――

彼女たちの世界に意味を与える存在として、そこにいた。


アンジェリーナは背筋を伸ばしつつ、バルコニーの手すりにわずかに身を預けていた。

夜風にマントが揺れる。


「……あの月、見て……」

彼女は、独り言のように、しかし熱を帯びた声で呟く。

「綺麗に輝いてる……でも、あれよりも輝いてるものがある。」


そして、確信に満ちた声で続けた。

「エンジェル……私たちの光。私たちの天使。」


ステラが少し首を傾げ、月光を受けた栗色の髪が銀色に煌めく。

「本当ね……」

彼女は微笑みながら言った。

「どんな闇の中でも、彼はそこにいる……いつも。強くて、揺るがなくて……本当に、すごい人。」


ローザはくすりと笑い、肩をすくめる。

「本人は気づいてないでしょ?」

「自分のことを言われてないと思ってる。でも――私たちがすること、感じること、全部……彼のためなのに。」


紫紺の瞳で夜空を見つめながら、オーレリアが静かに言葉を重ねる。

「彼は……私たちが前に進む理由。

すべてを失いそうな時でも……エンジェルは、私たちの道標。闇を照らす光よ。」


胸の前で手を組み、疲労を隠すように背筋を伸ばしたルナが、息を吐く。

「どうして、あんなふうに……

いつも私たちを守って、導いてくれるのか……」

「ただの英雄なんかじゃない……あの人は……私たちの“すべて”」


クララはブーツの上で軽く跳ね、元気よく言う。

「私たちの天使! 光! 力!」

「彼が笑うだけで、全部大丈夫って思えるんだもん! あんなことがあった後でも!」


ミアは、控えめながらも芯のある声で続けた。

「えへへ……どれだけ感謝しても足りないよ……」

「全部……戦いも、笑顔も……助けてくれた、あの一瞬一瞬も……」


アンジェリーナは深く息を吸い、夜風に負けない声で言い切る。

「彼は、私たちの宇宙の中心。導きであり、生きる理由」

「彼がいなければ……私たちは何も残らなかった。息も、希望も……何ひとつ。」


俺はすべてを聞いていた。

だが、動かない。答えない。

ただ、大太刀を磨き続ける。


冷たい風が頬を撫で、背後から彼女たちの気配が伝わってくる。

その一言一言が、どんな攻撃よりも、どんな脅威よりも――

深く、胸に突き刺さった。


ステラが、夢見るようにため息をつく。

「何も言わなくても……ただ、そこにいるだけで……

私たちに語りかけてくれるみたい。」


ローザが、からかうように、でも真剣に頷く。

「うん。黙ってても分かる。聞いてるって。感じてるって。全部。」


アンジェリーナは、ほとんど独り言のように付け加えた。

「知ってほしいの……

何があっても、私たちは彼から離れないって……」


俺は静かに彼女たちを見つめ、刃を拭き続ける。

そして――

思わず、ほんの少しだけ、笑ってしまった。


顔を上げ、眉を片方だけ上げる。

疲れと冗談が入り混じった声で言う。


「なあ……俺を生き神みたいに扱う前にさ」

「他のみんなは、どこにいるんだ?」


アンジェリーナが振り返り、悪戯っぽく微笑む。

月光を受けて、髪が滝のように流れ落ちる。

彼女はゆっくりと近づき、甘く囁いた。


「知りたいの? 天使くん……」


そして、優雅な仕草で眼下を指す。

「……ほら、見て。」


俺は立ち上がり、バルコニーの縁へ歩み寄った。

――その光景に、息を呑む。


城の前。

フード付きの外套をまとった女性たちが、統率の取れた動きで作業している。

魔物の死体を運び、黒い血を清め、戦闘の痕跡を消していく。


数十……いや、数百。


ローザが腕を組み、笑う。

「すごいでしょ? しかも、ここだけじゃないよ。」


彼女は遠くの塔、眠る都を指した。

「南区、中央街、王立学院にもいる。どう?」


俺は目を細めた。

「……待て。何人いるんだ?」


ルナが静かに答える。

「少なくとも、二千人。」


「……二千?」


オーレリアが穏やかに頷く。

「二千人。全員が、あなたに恩があるのよ、エンジェル。」


アンジェリーナが俺を見つめ、優しく言う。

「あなたの優しさが……彼女たちに“新しい人生”を与えたの」


「新しい人生?」


「そう……奴隷だった者、捨てられた者、傷つけられた者……

でも今は、あなたのおかげで、再び息ができる。」


「あなたの名前を、祈りみたいに呼んでるのよ」


「恐怖じゃない。信じてるから、ついてきてる」


「あなたとなら……独りじゃないって。」


俺は視線を逸らし、苦笑する。

「……大げさだ。ただの、やるべきことをやってるだけだ。」


アンジェリーナが微笑む。

「それが理由よ、エンジェル……」


――静寂。

風が吹き、マントと髪が揺れる。


ステラがそっと言った。

「あなたは……命を救っただけじゃない。未来を、創ったの…」


俺は月を見上げた。

初めて――この混沌が、無駄じゃなかったと思えた。


大太刀を置いたその時、アンジェリーナが静かに言った。

「……一つ、伝えなきゃ。」


「何だ?」


「地下のカプセル……子供たちは全員、ルドヴァーンの殺戮光線で……

一人を除いて。」


「……一人?」


「茶色の髪の女の子。

エリーなら……正体が分かるかもしれない。」


俺は首を振った。

「……今はいい。眠りたい。」


「分かった……休んで。後は私たちがやる。」


「……ありがとう。」


背を向け、部屋へ向かう。


ルナの声が背後から届いた。

「おやすみ、天使くん……」


「……ああ。明日は、また明日だ……」


夜風が彼女たちの髪を撫でる。

――そして、この夜は終わった。

静寂と、忠誠と、消えない誓いと共に。

このたび、

チャプター50 ― 再び、月影に交わした約束。

をもちまして、

『天使と紫の炎』

第3部――賑わう王都の中の天使。

は、ひと区切りを迎えることとなりました。


ここまで読み進めてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。


物語はここで終わりではありません。

第4部の執筆もすでに進めておりますが、少しだけお時間をいただくことになります。

お待たせしてしまい申し訳ありませんが、どうか今しばらくお待ちいただけましたら幸いです。


これからも『天使と紫の炎』を、温かく見守っていただければ幸いです :)

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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