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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
58/62

チャプター49 ― 闇深き告白。

「……三十。」


歪んだ私の声が地下空間全体に響き渡る。

魔力に飽和したその振動が壁を震わせ、床を唸らせた。


襟首を掴まれたままのルドヴァーンは、木の葉のように震えている。

その瞳は、恐怖と理解不能の狭間で揺れていた。


「し……知らない! 本当に何も知らないんだ!」

「誓って言う! 俺は何も……!」


左手の力を緩めることなく、私は片眉を上げた。

掌の中心で、黒と紫の渦がさらに加速する。

血のような光が、互いの顔を不気味に照らし出した。


「……二十九。」


「で……でも……俺は……何を聞かれてるのかさえ……!」


私は小さく首を傾げる。

彼の混乱が、どこか滑稽にすら見えた。

そして、穏やかに――ほとんど優しげに告げる。


「ふむ……確かにそうだな……」

「……二十八。」


渦の光が、血の赤へと変わる。

足元の床が震え、背後のカプセル群までもが、吸引されるマナに共鳴して軋んだ。


「な、何が知りたいんだ!! 一体――ッ!!」


ルドヴァーンが悲鳴に近い声を上げる。


私は低く、喉の奥で笑った。

抑えた、しかし愉悦を含んだ笑み。


「お前の“組織”についてだ。」

「上位構成員、階級、指導者、目的、行動様式……」


一拍置き、笑みを深める。


「……二十七。」


「し、知らない!!」

声が砕ける。

「本当だ! 顔も見たことがない! 本名も知らない!」

「命令は全部……天界通信アストラル経由だ!」

「俺は……命じられたことを実行するだけなんだ!!」


私は瞬き一つせず、彼を見つめ続けた。

紫に輝く瞳が、異様なまでに冴え渡る。


抑え込んだマナの圧で、空気そのものが歪み始めていた。


「……二十六。」


沈黙が落ちる。

ルドヴァーンは荒く息をつき、

私の掌の渦から目を離せずにいた。


やがて――


「……わかった……話す……」

「全部……話す……!」


私は、ゆっくりと笑う。

声は相変わらず静かで、柔らかく――そして、凍りつくほど冷たい。


「……二十五。」


「リ……リリスの放浪者の修道会……」


掠れた声。

襟を掴む私の手から逃れようとするが、力は入らない。

恐怖と絶望が、瞳に滲んでいた。


「それは……二千年以上前から存在する……組織だ……」


私は何も言わず、半眼で見据える。

左手の黒紫の渦が、静かに回り続ける。


「……二十四。」


その数字は、宣告のように冷たく落ちた。


「奴らの目的は……」

「この世界を……支配すること……」

「七人の……原初の大魔女リリスの娘たち……」

「その血を引く者の……血を使って……」


――リリス。

その名が空間に響いた瞬間、

場に満ちるマナが、不快そうにざわめいた。


「……二十三。」


ルドヴァーンは身を震わせ、唾を飲み込む。


「何千年もの間……」

「孤児を……攫い……」

「血の適合実験を……繰り返してきた……」


背後で、微かな気配が動いた。


ヴァルダが、左胸――

あの傷のある場所に手を当て、俯いている。

言葉はない。

だが、その表情が、深い悲しみと静かな痛みを語っていた。


「……二十二。」


「ほとんどの子供は……」

「実験の苦痛に……耐えられず……」

「……死んだ……」


声が震え、嗚咽が混じる。

私は微動だにしないが、目だけがわずかに細くなる。


「……二十一。」


「生き残った者たちは……」

「“魔女の遺骸レマナント”と……呼ばれる……」

「リリスとの……血の適合性を持つ……」

「あるいは……憑依されている……のかもしれない……」


呼吸は荒く、体は震え、肌は死人のように冷たい。


「その……九十九パーセントが……女性……」

「残り……一パーセントだけが……男性だ……」


私は、じっと彼を見据える。

掌の渦が、赤と紫に脈打つ。

生きている心臓のように。


「……二十。」


ルドヴァーンは目を閉じた。

私の声が、あまりにも穏やかで、

それが逆に恐怖を煽っている。


私は小さく首を傾げ、口元に歪んだ笑みを浮かべる。


「なるほど……」


そして、静かに問いを落とした。


「……では教えてくれ、ルドヴァーン。」

「お前たち――」

「リリスの放浪者の修道会の階級構造は、どうなっている?」


渦が、低く唸った。


「……十九。」


「――その組織は……世界を彷徨う、何千もの信徒で構成されている……」


ルドヴァーンの声は震え、呼吸は乱れ、額には汗が滴る。


私は落ち着いたまま、彼の瞳に恐怖が浸透していくのを観察した。


「……十八。」


彼は唾を飲み込む。


「まず……新人がいる……与えられた任務を遂行する者たち……」


私は眉をわずかに寄せる。

あの、単純なアーティファクトすら作動させられなかった研修生のことが頭をよぎる。

哀れな奴……彼らの中の一人に違いない。


私は吐息をつき、口元にほのかな笑みを浮かべた。


「……続けろ。」


「そ、そして……ベテランがいる……熟練の信徒たち……特権が少し多く……特定の任務――諜報や人材勧誘など――を指揮できる……」


「……十七。」


数字が地下室に重く、無慈悲に響く。

私の手の中の渦は赤みを増し、壁を血のような光で染める。


ルドヴァーンは震えながらも続ける。


「そ、そして……“百座(Cents)”がある……百名の信徒たちで構成されていて……組織の真の指導者となる……独自の座席(席)を持ち……独自の称号を持ち……独自の作戦チームを持つ……」


私は興味深げに首を傾げる。


「……十六。」


「例えば……俺は……シル・ルドヴァーン・ザ・キラー……百座の二十番席……俺には、あの髭の男、そして研修生のチームがいる……」


私は短く、乾いた笑いを漏らす。


「そうだな。あいつか。惨めな奴だったな。」


私は冷たい視線をルドヴァーンに向ける。


「……十五。」


ルドヴァーンは顔を背け、唇を震わせる。


「そして……百座の中でも……十五席の特別席がある……最も強力な指導者たち……リリスの大魔女との血の適合率が最も高い者たちだ……」


「……十四。」


「俺が知っているのは……第一席が……適合率九十四パーセント……ということだけだ……」


私は一瞬沈黙し、床を見つめる。

まるでパズルの断片を結びつけるかのように。

やがてゆっくりと頭を上げる。


「……興味深いな……」


重く、ほとんど息苦しい沈黙が空間を覆う。


私は一歩前に進む。

紫のオーラがルドヴァーンを締め付け、

粒子状のエネルギーが生きた火のようにパチパチと迸る。


「――今度は……別の話をしよう……」


私は彼の目をまっすぐに見つめ、声を低く、凍りつくように冷たくした。


「――君が話していた“紫の瞳のエルフ”……」


ルドヴァーンは身震いし、息を詰まらせた。


私はわずかに首を傾げ、唇にほとんど落ち着いた、しかし恐ろしい笑みを浮かべる。


「……十三。」


「そ、そのエルフは……非常に特別だ。」


彼の声は震え、恐怖と記憶の狭間で引き裂かれている。

私は黙っている。左手の渦はまだ脈打ち、呪われた心臓のように鼓動する。


「……十二。」


「俺たちはその子を孤児院で見つけた――まだ一歳の時だ……」


その言葉は石のように部屋に落ちた。


「孤児院では子供たちが虐待されていた……だからその子……そのエルフは……回収された時、ひどい状態で……」


その言葉に、ヴァルダは凍りつき、目を見開く。

アンジェリーナは震える手で口元を覆い、まるで心臓が止まったかのように見える。


私は何も言わず、ただ観察する。


「……十一。」


ルドヴァーンは歯を食いしばり、指を震わせる。


「そ、それで……そのエルフがテストを受けた時……科学者たちが見つけたものは……彼らを驚嘆させた……」


「……十。」


渦はより強く脈打ち、赤と黒に染まる。

薄暗い風が部屋の中を吹き抜ける。


「――その血の適合率は……大魔女リリスと……完全だった……百パーセントの一致……」


「……九。」


ヴァルダは押し殺したような嗚咽を漏らす。

涙が止めどなく流れる。

アンジェリーナは一歩後退し、顔を恐怖で歪め、胸に手を押し当てる。


私は一瞬、目を閉じて深呼吸をする。

沈黙が訪れ、その静けさはほとんど耳をつんざくようだ。


「――それから……(彼は辛そうに唾を飲み込む)……その子は幼少期を通して苦しんだ……」


「……八。」


彼の声は切れ切れになる。


「激しい拷問……屈辱……寒さ……血を利用され……身体……穢され……」


唇が震え、言葉を切り、息を荒げ、目は狂気に染まる。


(手を口に当て、吐き気をこらえながら)


「――いや……すまない……これは……言えない……」


私は何も言わず、ただ彼を見つめる。

言葉は出ない。


アンジェリーナは頭を垂れ、肩を震わせて声なき嗚咽を漏らす。

ヴァルダも静かに泣き、涙が頬を伝う。

彼女は胸に手を当て、ちょうど傷跡のある場所を押さえる。


渦はゆっくりと弱まり、その光は空気の中で消えかかる。


「……七。」


「……六。」


ルドヴァーンは顔を上げ、青ざめ、必死に私の目を探す。


「……これが……そのエルフについて俺が知っている全てだ……誓う……」


私は数秒間沈黙した後、ようやく手を放す。


魔力の流れは煙のように消え、ルドヴァーンはその場に崩れ落ち、息を荒くし、顔は汗で濡れている。

彼は胸を押さえ、吐き気をこらえきれず、床に激しく吐き出す。

痙攣に体を揺さぶられながら。


私は何も言わず、冷静に見つめる。

そして、ほとんど独り言のように呟く。


「――なるほど……これが……完璧な子供だったのか……」


ヴァルダは嗚咽を必死に押し殺し、アンジェリーナは視線を逸らす。

もはや、その光景を直視することができなかった。


長い沈黙が落ちる。

空気は重く、マナと痛みで飽和している。

そして俺は――動かない。

ただ目を開いたまま、虚空を見つめている。

そこでは、久しく感じることのなかった感覚――怒りですら、静かに沈黙していた。


姿を見る前に、彼らの到着を察知した。

足音、鎧の擦れ合う音……

エリー、エスター、ヴァイオレット、ブランシュ。

そしてリヴェン隊の一団。

空気は重く、マナと緊張に満ちている。


わずかに顔を向けると、彼らが見えた。

アンジェリーナは一歩後ずさり、喉を詰まらせ、まだ震える瞳をしている。

ヴァルダは顔を上げることすらできず、胸を押さえながら静かに泣いていた。

その中心で、ルドヴァーンは膝をつき、なおも嘔吐を繰り返し、蒼白で怯え切った表情をしている。


ヴァイオレットが素早く前に出る。

その場を支配する、彼女特有の威圧感。


「――捕らえろ! 今すぐ!」


衛兵たちは一瞬の迷いもなく動いた。

ルドヴァーンを取り囲み、魔力の拘束具をはめ、そのまま連行する。

彼は息を荒くし、目を見開いたまま、恐怖に取り憑かれていた。


俺はその場に立ち尽くし、

アンジェリーナとヴァルダ、そして消えていくルドヴァーンの背を、交互に見つめる。


やがてヴァイオレットは姉の方へ向き直り、軽く膝をつき、ヴァルダを抱き寄せた。

ヴァルダの身体が小さく震え、肩が嗚咽で揺れる。

ヴァイオレットは優しく、静かな言葉を囁いていた。

すべては聞こえないが、周囲の空気がわずかに緩むのを感じる。


エリーが数歩、こちらへ歩み寄る。

青い瞳は真剣で、ほとんど厳しい。

だが、その奥にある守るような光は、よく知っているものだった。


「エンジェル……大丈夫か?」


俺は彼の視線を受け止め、

半分皮肉で、半分疲れた笑みを浮かべる。


「いつも通りだよ、兄貴。

ただ……あいつは、思ってた以上に歪んでたけどな。」


エリーは小さく頷く。

納得と不安が入り混じった表情。

胸の奥に張りついていた緊張が、少しだけほどけるのを感じた。

少女たちも、衛兵たちも――皆が、ようやく息をつく。


俺は兄の影の中へ一歩近づき、

真剣な表情のまま、少しだけ冗談めかした声で言う。


「さて……この後片付けだな。

できれば、今後五分くらいは死なずに済みたいところだ。」


エリーはすぐには答えないが、

わずかに笑ったのが分かった。

冗談だと理解している――まだ危険が去っていないとしても。


周囲の空気は依然として重い。

それでも、どこか奇妙な感覚があった。

久しぶりに――俺たちは、少しだけ“一緒”なのだ。

一緒で、生きている。


ヴァルダとアンジェリーナに視線を向ける。

まだ動揺しているが、大丈夫だと分かる。

俺は、この強さを保たなければならない。

彼女たちのために、仲間のために、すべてのために。


「――よし、全員集合だ。

まだ、やることは山ほどある。」


疲労と混乱の中で、

それでも、アドレナリンが身体を駆け抜けるのを感じる。


俺たちは、ただの生存者じゃない。

まだ、立っている。

それを、誰にも奪わせはしない。


俺はゆっくりと左手を持ち上げ、手袋を外す。

灰でわずかに黒ずんだ包帯を見つめる。

指先が少し震えるが、それは恐怖ではない――興奮だ。


「……ふん。『原子破壊大砲』だってさ。」


小さく呟くと、

張り詰めた空気の中でも、皮肉な笑いが漏れた。


包帯を軽く押すと、細かな灰が指の間に広がる。

その感触が、思考を巡らせる。


「本気で言ってるのか……

核分裂すらまともに再現できない連中が、何を“危険”だと言うんだ?」


視線を巡らせる。

床に倒れたままのルドヴァーン、

そして、心配と尊敬が入り混じった眼差しでこちらを見るアンジェリーナとヴァルダ。


俺は小さく首を振り、笑う。

安心させるためでもあり、何より皮肉な笑みだ。


あの『原子破壊大砲』は、

所詮、擬似的な現象――

脅しのための偽物に過ぎない。

俺に通用するはずがなかった。


「……まったく。」


包帯についた灰を指で払いつつ、ほとんど独り言のように呟く。


「物理学、ちゃんと勉強してから出直してこいよ。」


指を握り拳にすると、包帯が皮膚の上で張りつめる。

その瞬間、ひとつの考えがよぎった。


もし、あれが連中の言う“切り札”なら――

本番は、これからだ。


地下に残る、砲撃の残留マナ。

その静寂が、まるで内側から拍手しているかのように感じられる。

俺は、その力を感じ取っている。

正確に、完全に、制御したこの力を。


そして、思わず笑みが深くなる。

どこか遊び心すら帯びた、獣じみた笑みで。


「――さあ……次は誰だ?

俺は、もう準備できてる」


左手の包帯は、灰を帯びたまま淡く光り、

今しがた成し遂げたことの証であり、

そして――次に挑む者への、無言の警告となっていた。


俺は息を整え、肩の力を抜く。

分かっている。

これは、まだ終わりじゃない。


あの修道会に計画があるのなら――

俺にも、覚悟がある。


俺はエンジェルだ。

すべてが崩れ落ちる中でも――

最後まで、立っている。

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