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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第3部 — 賑わう王都の中の天使。
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チャプター48 ― 王宮の前で……

夕暮れの風は、まだ血と焼けたマナの金属臭を運んでいた。

王宮前の大広場は、もはや怪物たちの墓場と化している。

歪んだ巨大な死骸が、不自然な姿勢で無数に転がっていた。

真っ二つに断たれたもの、文字通り粉砕されたもの――。


先ほどまでの混沌が嘘のように、沈黙が重く、非現実的に場を支配していた。


最初に足を止めたのはヴァイオレットだった。

荒い息を整えながら、死体で埋め尽くされた地面を見つめる。

青紫の瞳に、松明の弱々しい光が揺らめいた。


「……なんてこと……」

彼女は息を呑み、声を震わせる。

「いったい……誰が……こんな……」


その背後で、エスターが剣を握ったまま周囲を警戒していた。

走り続けたせいで金髪のツインテールは乱れ、

鮮やかな緑の瞳は、畏怖と警戒の間を揺れている。


「確かに、どれも化け物だった……」

彼女は低く呟く。

「でも、この斬り口……迷いがない。正確で、冷静すぎる。」


続いて、王女ブランシュが一歩前に出た。

長い金髪が風に揺れ、

霜を纏ったままのレイピアが太腿の横で静かに揺れる。


普段は氷のように無表情なその顔に、わずかな動揺が浮かんでいた。


「この惨状……」

彼女は静かに言った。

「並の兵士に成せるものではないわ。」


その後ろで、エリーが足を止めた。

白と紫の制服のポケットに手を入れたまま、

この地獄絵図に似つかわしくないほど落ち着いた表情で、死体を見渡している。


彼の青い瞳は――

どこか、エンジェルのそれと酷似していた。


ふっと、口元にかすかな笑みが浮かぶ。


「……ああ、誰の仕業か、だいたい見当はつくな。」

ほとんど独り言のように、エリーは呟いた。


ヴァイオレットが勢いよく振り向く。

「えっ!? 知ってるの!?」


彼は片眉を上げ、笑みを深める。

「さあね。たぶん。」


「エリー、今はふざけてる場合じゃないでしょ!」

エスターが地団駄を踏む。


「ふざけてないさ。観察してるだけ。」


エリーは再び地面に視線を落とす。

怪物の残骸、地面を走る亀裂、

そして、まだ消えきらない月属性マナの残滓。


小さく息を吐き、王宮の方へ顔を向けた。


「確かなのは――ここで立ち止まる時じゃないってことだ」

「エンジェルは、宮殿の中にいる。」


ヴァイオレットの目が見開かれる。

「……えっ!? 本当なの!?」


エリーはゆっくりと頷いた。

「彼のマナは“癖”みたいなものだ。弱っていても、千の中から見分けられる。」

「場所は……宮殿の下だな。」


ブランシュが眉をひそめる。

「王宮の地下……? 王家の地下区画よ。許可なしでは入れないわ。」


「エンジェルが、許可を求めたことなんてあったか?」

エリーは肩をすくめ、口角を上げた。


ヴァイオレットは喉を詰まらせる。

「……ひとりで……」

「もし、何かあったら……」


エスターがそっと彼女の肩に手を置いた。

「縁起でもないこと言わないで。あんたも知ってるでしょ」

「エンジェルは、そう簡単に倒れない。」


そう言いながらも、

彼女自身の瞳には、はっきりとした不安が滲んでいた。


ブランシュは空を仰いだ。

目を閉じ、胸に手を当て、静かに祈りを捧げる。


「……光よ、エンジェルくんを守り給え。」

「どうか……無事に戻ってきて。」


それは、エリーが初めて見る、

あれほど感情のこもった彼女の祈りだった。


普段は冷たく、距離を保ち、機械的ですらある声が――

今は、確かに震えている。

氷の仮面が、わずかに溶けていた。


隣でヴァイオレットが拳を握り締める。

「……失いたくない。」

「彼だけは……」


「まるで婚約者みたいな言い方だな。」

エリーが、からかうように言った。


「エリー!!」

ヴァイオレットとエスターの声が同時に響き、二人とも真っ赤になる。


「はいはい、冗談冗談……」

エリーは両手を上げる。

「まあ、完全な冗談でもないけど。」


ヴァイオレットが睨みつけるが、彼は気にも留めない。

その笑みは少しだけ消え、真剣な表情になる。


「心配しすぎるな。」

「エンジェルは……特別だ。」

「信じてくれ。恐れるべき相手がいるとしたら――」


彼は死骸の山を一瞥し、低く囁いた。


「――戦ってる“側”じゃない。」


ブランシュは王宮の大扉へと歩き出す。

松明の光を受け、レイピアが静かに輝いた。


「なら、迎えに行きましょう」

「地下で何と対峙していようと……彼は一人じゃない。」


ヴァイオレット、エスター、エリーがその後に続く。

四人は静まり返った王宮へと足を踏み入れ、

空虚な回廊に足音を反響させながら、闇の奥へと消えていった。


磨かれた大理石の陰に、その背中が溶けていく頃――

遥か、遥か地下深くでは、

王国の礎そのものを揺るがす戦いが、なおも続いていた。

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